68.鑑定結果
呪いの詳細は……と履歴情報の一番下、直近の項目を見る。
そこには、盗賊の襲撃に遭ってレッドが応戦したことと、わたしが契約魔法をかけたことがびっしりと記されていた。
それしか、表示されていなかった。
どこか別の場所で呪いを受けたような形跡は、一切ない。
「だって……だって、あれはその場限りの命令で……そんな……」
全部、わたしのせいだった。
レッドが魔素中毒になったのは、わたしが治癒魔法を掛けすぎたせい。
魔素中毒が治らない――魔素が抜け切らなくて熱が下がらないのは、わたしの契約魔法のせい。
魔素中毒だけなら、放っておけば治ったはずなのに、契約魔法の効果が加わったせいで、過去の命令が呪いとなってレッド体を蝕んだのだ。
普通は、首輪を介して掛けられる程度の魔法では、副作用は起きない。
契約魔法は、奴隷を隷属させ、主人として認識させるためのものだ。強い魔力を流して命令しない限り、言動を強制することはできないし、罰を与えることもできない。
(たぶん……魔力を流しすぎたんだわ……)
無意識に、必要以上に強い命令を発してしまった。
(わたしの魔力が多過ぎたせいで……)
確かに、契約魔法による命令は呪いにも等しい。
掛けられた者の行動を制限し、縛る呪いだ。
そんな契約魔法によって自由を奪われているのが、契約奴隷という存在なのだ。
けれど、契約魔法による命令は、一過性のものであることもまた、常識だ。
本物の呪詛ならば、主人が戻るまでその場で待てと命じられた場合、主人が戻らない限り――たとえどこかで野垂れ死んでいても――「待て」の呪縛から解放されることはない。
一方で契約魔法による命令は、もう少し融通がきく。
待つ必要がなくなったと判断できれば、自然と解放される程度のものなのだ。
ただし、性質の悪い命令を含むことも多いため、奴隷と奴隷を扱う者の間では、強制的な命令を呪いと呼び慣わしている。
その場限りの命令のつもりで戦うことを命じたけれど、それは予想以上に強力な呪いとなってレッドの体に定着してしまったようだ。
さらに、魔素中毒と混じり合って複雑化したために、治らない不調となって表れたのだろう。
そしてそれは、鑑定結果に状態異常として表示されるような、はっきりとした「呪い」に成長してしまった。
(あんな命令、しなければよかった)
そう後悔するのは簡単だった。
あるいは、もっと簡単な命令――呪いとも呼べないくらいの――にしておけばよかった、と。
けれど、それではレッドもわたしも、生き残れたかどうかわからない。
命令の強制力があったからこそ、レッドは最後まで立って戦えた。レッドの、無理を押しての奮迅があったからこそ、わたしは今も生きている。
「これは酷いな……」
隣で同じように履歴情報を見ていたクロスが呟いた。
(うぅ……)
何気ない一言が、胸を抉る。
クロスが何度操作しても、石板には、負傷したことと治癒魔法で治ったことの繰り返ししか表示されない。
「これだけの回数、上級治癒魔法を浴びれば、魔素中毒になるのも当然か……」
石板には、三ページ以上に渡って、あのときの盗賊との戦闘のことが記されていた。
「それにしても、凄まじいな……これでまだ魔力に余裕があるというのか……」
「ごめん……ごめんね、レッド。わたし、あなたを苦しめることしかしてない……。ひどい主人でごめん……」
わたしはレッドの傍で、泣きながら謝ることしかできなかった。
「文末はここのようだな……」
隣でクロスは懸命に鑑定結果を読み解こうとしていたようだけれど、わたしにはもう、涙で石板がよく見えなかった。
「あった。“呪いが発動”この一文――これだ」
クロスがわたしの肩を揺すって、石板をこちらへ差し出した。
「見ろ、」
わたしは両手で強引に涙を拭って、石板に目をやった。そこに、横からハンカチが突きつけられる。
「泣いてないで、最後までしっかり読め。目は擦るな」
突きつけられたハンカチに驚いて、思わず涙が止まった。
「あとは、この猫を叩き起こして事情を聞けばわかることだ。お前が泣くようなことじゃない」
ぶっきらぼうだけれど、それがなぜか慰めのように聞こえて、再びわたしは驚いた。
「え……?」
ここまでお読みくださってありがとうございます。
よろしければ、下の方の☆☆☆☆☆☆を使った評価や、ブックマークをしていただけると幸いです。




