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【不遇令嬢はエルフになりたい】〜介護要員として辺境の祖父の屋敷で働くよう命じられたが、ざまぁする間もなく実家が没落した件〜  作者: 一富士 眞冬
第1章

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61.猫族獣人は屋台サンドの夢を見るか/レッド視点

 どうやらオレは、高熱を出して寝込んでいたらしい。

 アリアに言われて、リオンという剣士の馬に乗せてもらったのは覚えている。アリアは、クロスという魔法使いの馬に相乗りしていた。

 目が覚めてから聞いた話によると、オレは意思を失って落馬して、村の宿屋に運び入れられたらしい。

 クロスってやつには「背負って運んでやったんだから感謝しろ」と散々、嫌味を言われた。


 どう考えても、盗賊との戦いでケガと疲労が限界を超えたせいだな。

 アリアが治癒魔法で治してくれたし、何ともないと思っていたのに、予想以上に身体にガタがきていたらしい。

 はっきり目が覚める前、考えていたのは一つだけだ。


“奴隷は、動けなくなったら捨てられる”


 オレは契約奴隷だから、正確には主人からクレームと共に奴隷商会に連絡が行って、契約破棄の手続きが行われる。

 低価格帯の奴隷は、契約奴隷でも消耗品だから、使い潰したからといっても、特に主人側には不利益は生じない。

 “なんかいつもより動きが鈍いけど、いつも通り働かせていたら倒れて動かなくなった”くらいのことは普通にある。

 風邪や疲労で熱を出したからといって、いちいち気遣ってもらえるような境遇ではない。


 動けなくなったら商会に戻されるが、その度に奴隷としての評価は下がってゆく。

 耐久性の低いものや、自己管理のできないものは、商会としても高値で斡旋できない。抱えていても利益をもたらさないお荷物となる。

(不良在庫というやつだな)

 穀潰しはいずれ、商会からも見捨てられ、在庫処分として安く売り払われる。買い切りとして奴隷市に出されたら最後、どんな奴に買われて、どんな目に遭わされるかわからない。

 契約奴隷として、商会が間に入っている間はまだマシなのだ。


 だから動けるうちは、脚が折れようが熱が出ようが“大丈夫”“まだ動ける、働ける”で押し通す。そして、働きながら自然治癒を待つしかない。

 休ませてくれ、なんて言ったら契約を解除されて商会に戻される。評価が下がって、二度といい仕事先には斡旋してもらえなくなる。


 今の主人――アリアは奴隷に甘い。熱を出して倒れたくらいで、オレを商会に戻したりはしないだろう。

 見捨てられることはないとわかってはいるが、熱でうなされながら目が覚める度に、アリアの姿を目で探した。

(オレ、まだ捨てられてないよな?)


 でも、半獣化が制御できなくて視界がおかしい。変化してしまった猫目を、うまく人間の目に戻すことができない。

 焦点が合わなくて、声は聞こえるのにアリアの顔を見ることができなかった。

 起き上がりたくても、とにかく身体中が痛くて動けない。

(ダメだ。こんな気味悪い半獣、いらないって思われるに決まってる……!)


 リオンとクロスは、オレが寝込んでいる間、アリアと交代でオレの看病をしてくれたから、悪いやつらじゃないのはわかっている。

 だけど……!

(アリアを守るのはオレの役目だから)


 馬鹿みたいに奴隷に甘い今の主人は、魔法が使えて、賢くて、世渡りも上手いが、ときどき驚くほど世間知らずだ。

(貴族の娘が獣人の男を従者にするなんて、常識的にはあり得ない)

 だからこそ、貴族出身とは微塵も思われずに今まできたわけだが……。

 アリアの実家が伯爵家だと聞いたときには、驚きもしたが、納得もした。

(ああ、財産争いとかか……)

 継母である伯爵夫人から命を狙われていると聞いても、不思議には思わなかった。

 ハーフエルフだと明かされたときも、だから亜人種奴隷に甘いのかと納得さえした。


(でも……獣人奴隷のオレのために泣いてくれるなんて……)


 信じられなかった。

 そこまで大切に思ってもらえたなんて――この主人のためなら死んでもいいかと、ちょっと思った。


 体力を回復させるために眠り続けて、目覚めたときにはアリアを探して……というのを何度か繰り返し、だんだん頭ははっきりしてきたが、どうしても身体が思うように動かない。

 目と爪は、とりあえず半獣の状態に固定できるようになった。アリアが、楽なほうでいていいって言ってくれたから、そうさせてもらった。

 視力が戻って手元を見たら、爪に血がついていた。

(誰の血だ、これ……)

 自分の血だとは思わなかった。

 後で確認しないとならない。

 アリアを傷つけたのだとしたら……どうしたらいいんだ。

(嫌われたくない……)

 どんなに見た目が可愛い子猫だって、人を引っ掻けば嫌われる。ましてや、獣人なら……


「でも、さすが猫だよね」

 人の声がする。

 これは、リオンという金髪剣士のほうか。

 不思議と、こいつからは獣人奴隷に対する嫌悪を感じない。

「落馬しても、無意識にちゃんと受け身を取って、頭だけは守ってた」

「そうだな。頭を打っていたら、さすがにオレでも対処できなかった」

 相手はクロスという黒髪の魔法使いだな。

 こいつは、獣人にも奴隷にも興味がなさそう――というより、他人に興味がないタイプだ。


 うとうとしている間も、常に誰かが同じ部屋にいるのを感じた。話し声が聞こえた。

 夜は隣の寝台で、どちらかが眠っている気配がした。

(こいつら、いったい何なんだ……?)

 奴隷を寝台に寝かせて看病することも驚きだが、奴隷と同じ部屋で眠ることに抵抗がないとは驚きだった。


 同じ部屋なら、奴隷は床だ。

 別の部屋なら、奴隷は大部屋か厩だ。

 決して同格には扱わない。

 それは待遇がいいとか悪いとかいう話ではなくて、奴隷の扱い方として正しいことだ。

 馬は厩に入れる、牛は牛舎に入れる、そういうのと同じ普通のことだ。

 アトリエで一室与えられていたオレの環境こそが、異常だったのだ。


 アリアはオレにアトリエを警備するよう命じた後、アトリエ(そこ)に住んでもいいと言ってくれた。

 契約奴隷は、商会の寮から通いの奴もいるが、たいていは主人の家の近所に部屋を借りる。待遇が良ければ家賃の補助が出ることもあるが、住み込みの契約でも、賃金から部屋代を差っ引かれることが普通だった。


 なのに、アリアは無料で寝泊まりしていいと言った上、アトリエに泊り込む日もオレを追い出したりはしなかった。

 むしろこっちが気を遣って、アリアがアトリエに泊まる日は外で寝ようと準備していたら、主人であるアリアがアトリエの床で寝て、奴隷のオレが寝室で寝るというワケのわからない事態になった。

 商会にバレたら奴隷としての評価は底まで落ちる。


 そう――アトリエには、オレの部屋があった。

 本当なら、アトリエの主人が使うための寝室――というか別室だったが、二重生活を送っているアリアは、アトリエには住めないから好きに使っていいと言ってくれたのだ。


 態度や言葉遣いも、かしこまらなくていいから普通にしてくれと言われていた。

 奴隷を増長させる、悪い主人の典型だ。

 アリアのやり方は、奴隷の扱いとしては正しくない。

(でも、主人の命令には従わないとならないわけで……)

 オレは主人にタメ口をきくようになったが、それは他人が見たら異様な光景だったことだろう。

 リオンが言ったように「仲がいいんだね」の一言で済ませていいような話ではない。

 (そし)られるのは、奴隷を正しく扱えない主人のほうなのだ。


 何度目かにうとうとと意識が浮上したとき、なんとも言えない美味そうな匂いに気づいた。

 これは……パンとハムとチーズと……カフェの前で嗅いだことのある香ばしい香り……。アリアが、コーヒーという貴族が好む飲み物だと言っていたやつだ。

(貴族?)

 この部屋に貴族なんていたか?

ここまでお読みくださってありがとうございます。

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