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【不遇令嬢はエルフになりたい】〜介護要員として辺境の祖父の屋敷で働くよう命じられたが、ざまぁする間もなく実家が没落した件〜  作者: 一富士 眞冬
第1章

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56.白黒③/リオン視点

 信じる根拠はいくつかある。


 まず第一に、伯爵家の令嬢が奉公に出されるという状況自体がおかしい。

 “行儀見習い”というなら理解できなくもないが、その意図があって奉公に出されたのだとしても、場所が辺境というのはあり得ない。


 本人に逃亡の意思があって王都を離れたのだとしても、逃亡先に辺境を選ぶことはないだろう。あそこには魔物や魔獣の出る森やダンジョンしかない。

 レベル上げを強行したい冒険者でもない限り――特に若い女の子が――楽しめるような場所ではない。


 第二には、仮に奉公の件が何らかの事情でやむを得ないことであったとしても、従者を一人付けただけで、女の子を単独で辺境へ旅立たせるというのは異常である。

 やむを得ない事情があって、仕方なく辺境へ奉公に出すというのなら、尚のこと手厚く馬車や護衛を用意して安全に送り届けようとするものだろう。


 この辺りの親心は、アリアが貴族令嬢ではなく平民の娘だとしても同じはずだ。

 それが全く感じられないどころか、ヴェルメイリオ家の周辺を聞き込んだ者からも、家族と使用人とが結託してアリアの存在を秘匿しようとしている節があるとの報告が上がってきている。


 それも、深窓の令嬢として大切に手を尽くして隠すのではなく、寄宿学校へ放り込んで後は一切関知しないという、親としての義務を半ば放棄したようなやり方だ。


 収監施設としても(悪)名高いローランド寄宿学校だが、孤児院ではないのだ。親から愛想を尽かされた者も多いだろうが、逆に親から期待され、足繁く訪問を受けたり、贈り物を受け取ったりしている者も多いと聞く。

(頻繁に訪問したり、金品を送っているというなら、居場所も見つけやすかったのだが――)

 アリアの実家からは、何も送られてはいなかった。

 そのため、金品や物の流れをたどることもできず、居場所を特定するのに時間がかかったのだ。


 最も不可解なのは、伯爵令嬢であるはずのアリアが、獣人奴隷を従者として連れている事実だ。

 しかも、家長が一家の使用人として契約している奴隷ではなく、アリア個人が契約している奴隷だという。

(良識のある貴族の家では、あり得ないことだ)


 貴族の間では、娘に従者を付けるなら同性の侍女を選ぶのが常識である。もしくは、年少の子供を従者見習いや小間使いとして、側仕えにするくらいだ。

 外出するために護衛が必要だというならば、武芸の(たしな)みがある侍女を公募する。戦闘力の高い獣人の少女奴隷なども選択肢に入るだろう。

 領地の視察や遠出などで、もっと本格的な護衛が必要だというならば、分別のある年長の騎士や妻帯者を採用する。

 年齢の近い、異性の従者を娘の近くに置くようなことは決してしない。


 ましてや、同年代の獣人の少年を一人だけ従者に付けることはない。

 それも、剣士や戦士のジョブを取得できる素養のある者ならともかく、ただの盗賊(シーフ)ジョブだ。

 娘ではなく“息子”の従者兼護衛としてなら、珍しいがあり得ない組み合わせでもないが、“娘”を大事に思う親なら絶対に選ばない選択肢である。


 そもそも、奉公に出る娘が自分で奴隷を契約して連れて行く、という状況も異常なのだ。

 そういう教育方針という可能性もあるが、奴隷の選び方から学ばせるためだというのなら、親が支度金くらいは出しているはずだ。

 持ち物も、旅に適した機能性の高いものを揃えられる。貧民街の住人のように、全財産――家財道具を全て持って移動する必要はない。

 ちらりと見た限りでは、アリアの荷物は奉公に行くというより、まるで引っ越しであった。

 大事なドレスなら、持ち歩かずに実家に置いておけばいい。それも叶わずに持って出なければならなかったというのは、控えめに言っても追い出されたようにしか見えない。


 その上に、アルトの証言だ。

(アリア)亜人種(ハーフエルフ)として(うと)まれて育った」

 アルトはそう言ったのだ。

 だから、いつも片目を髪で隠している――とも。

 実妹がハーフエルフという矛盾には突っ込めなかった。


 少なくとも、アルトの語った“アリア”の容姿は、隣の部屋で眠っている少女と一致する。

 名前も容姿も一致するが、反逆罪に問われるような人物とは思えない。


 亜人に人権を認めず、獣のように狩り立て、強制的に奴隷に仕立てて売買するような人物――その煽動者(せんどうしゃ)であるなら、獣人奴隷を従者として連れ歩くとは考えられない。

(しかも、珍しくもない猫族だし)

 たまたま“商品”を連れ歩いているのでもない。

 魔法で無理やり隷属させているのでもない。

(あの二人には、ちゃんとした主従の絆がある)

 奴隷呼びを嫌って“従者”として遇したりもしないだろう。

 煽動者になるほどのカリスマがあるなら、パトロンの一人や二人はいるだろう。公共の馬車を乗り継いで貧乏旅をしているはずもない。


 獣人を売買する“商品”としてしか見ていないのなら、寝込んだレッドを心配して一晩中付き添ったりはしないだろう。

 レッドも、うなされながら目を覚ます度に主人(アリア)の姿を探したりはしないはずだ。


 つまり、俺の依頼人に嘘を伝えた人間が存在するということだ。

 誰かが、アリアに罪を着せようとしていた。

ここまでお読みくださってありがとうございます。

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