43.説教③
「ま、放っておけないとか興味があるって言ったのも、嘘じゃないがな。――ところで、手はもう大丈夫か?」
急に手を取られた。
あまりに脈絡がなかったものだから、驚いて何も対処できなかった。
左手――魔力移譲で失敗して、一時は血が出るような傷になっていた側の手だ。
あのときはクロスさんのほうが傷が大きかったようで、だらだらと手首まで伝い流れるほどたくさん血が出ていた。
でも今は、二人ともすっかり治ってきれいな手に戻っている。
あの後、それぞれ自分に治癒魔法をかけて治療したのだ。
魔力に余裕があったわたしが、ついでにクロスさんの手も治療してあげてもよかったのだけれど、戦闘中ならともかく、平時にそれは、さすがに格上の魔法使いに対して烏滸がましい。それに、移譲したばかりの魔力があるだろうから、自分で治療してもらった。
「痛かったろう……すまなかった。まさかあんなことになるとは思わなくて」
そう言いながら、わたしの左手を矯めつ眇めつして観察している。
「きれいなものだな。下手な新人がやると、うっすら跡が残ったりもするものだが」
クロスさんの指が、傷があったはずの手のひらをついとなぞった。
「傷つけるつもりはなかったんだ……本当に」
今まで失敗したことはなかったのだという。
「魔法に関しては、たいがいの事例を網羅したと思ったが……知らないことはまだあるものだな」
不思議な人だ。
魔法が失敗したことを悔いているのか、わたしに怪我をさせたことを気に病んでいるのか、よくわからない。
でもとりあえず、規格外の魔力について責められることはなかったので、安心した。
たまにいるのだ。自分の失敗を人のせいにして逆ギレする人種が。
冒険者でも、レベルが上がって中堅も間近というころになると、無意味な自信と驕りが出てくるので、そういう輩が増えてくる。
採取で少し危険な場所に行く際、それなりのレベルの冒険者を護衛として雇うことがあったのだけれど、金額に見合った働きをしてくれる人は少なかった。
質の悪い冒険者に当たると、最終的にこちらの「守られ方が悪い」という飛躍した言いがかりをつけてくる。
「クロスさんこそ、わたしよりたくさん血が出ていたわ。失敗したのは、わたしの魔力量のせいね。ごめんなさい」
「クロスでいい。呼び捨てでいいぞ。リオンと違って、元々そんな大層な身分じゃないからな。――魔法の失敗はオレの自業自得だ。お前が謝ることじゃない。そもそも、魔力を融通してくれと頼んだのはこっちだしな」
クロスさんが、わたしの手を握ったままそう言った。
怪我をさせたのに、謝られるとは思っていなかったのだろう。少し驚いたような顔をしてこちらを見た。
それから、手元に視線を戻して、握っていた手をおもむろに離した。
「すまない」
今のは、無遠慮に手を握っていたことに対する謝罪だろうと理解できた。
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