42.説教②
「どうして、そんな忠告をしてくれるの?」
「危ない目に遭うかもしれないとわかっていて、忠告もせずに見捨てるほど、薄情ではないつもりだが」
「世の中には、薄情な人なんてたくさんいるわよ」
「なんとなく放っておけなかったから、では理由にならないか――?」
「あなた、自分が同じことを言われて納得できる?」
「いや……」
せっかく忠告してくれたのだから、素直に聞き入れるか聞き流すかしておけばよかったのに、余計なことを言ってしまった。
案の定、クロスさんは言葉に詰まってため息をついた。
「わかった。本当のことを言おう」
ほら。
理由があって、ほっとしている自分がいた。
だって、ただの親切なんか受け取れない。受け取り方がわからない。
「あんたに興味があったからだ。古代語と古代魔法語の違いについて言及した奴なんか、今まで一人もいなかった」
駄目だこの人。
危険だ、と直感的に思った。
わたしの魔法知識なんか、取引材料にもならない。
無理やり理由をこじつけて、こちらを言い包めようとするタイプの“いい人”だ。
もしくは、純粋に魔法学にしか興味がないタイプだ。
(下心でもあるなら、理解しやすかったんだけど……)
理由を聞いて、逆に失敗した。
本当に、ただの親切であることが証明されてしまった。
厚意に対して、何をどう返したらよいのかわからなかった。
レッドを助けてもらっていることで、すでに十分に関わってしまっている以上、今さら拒絶もできない。
慣れ親しんだ悪意なら、いくらでも対処の仕方を思いつくけれど、厚意は駄目だ。
未知のもの過ぎて、手に負えない。
今度はわたしがため息をつく番だった。
「それじゃあ、どうして、生け贄の生き残りであることまで話したの? 伏せていても、必要な内容は伝えられたでしょう?」
あの話が本当だというのなら、おいそれと他人に話せるような体験ではなかったはずだ。
トラウマをほじくり返してまで、伝える必要はない。
「言葉を返すようだがな、お前、何の背景の説明もなく、邪教徒はまだ存在しているから気をつけろ、と言われて信じるか?」
「信じないかもしれないけれど、警戒はするわ」
「だが本気では信じていないから、その猫族に何かあれば、お前は躊躇なく治癒魔法を大盤振る舞いするだろうな。さらには、そいつが望むなら、他の大勢の治療もするだろうし、使える魔法は何でも使ってやるだろう。魔力移譲を覚えたからには、そいつの魔力が枯渇したなら、何度でも魔力を分け与えてやるはずだ」
「当たり前よ」
レッドは大切なわたしの従者だもの。
「それらの所業は、いずれ人伝てに奴等の耳に届くだろう。それに、今そいつが奇跡的に回復したところで、魔素中毒の話を信じられなければ、また同じことが起こる」
「それは……」
そうかもしれない。原因が魔力の過剰摂取だと知らなければ、風邪や疲労だと思って見逃すか、治療のために治癒魔法を重ね掛けして、もっと症状を悪化させるかもしれない。
「オレが五つ以上の属性を扱える事実は、話の裏付けになるだろう? 少なくとも、魔法に精通している証にはなる」
「実際にはまだ四属性しか見ていないわ」
揚げ足を取るように言い返したのに、なぜかクロスさんは嬉しそうだった。
「鋭いな。――なら、明日にでも見せてやる」
新しく覚えた魔法を自慢する子供みたいだった。
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