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34.剣士と猫/リオン視点

 クロスが聞き出したところによると、アリアちゃんは攻撃魔法が使えないらしい。よくそれで今まで冒険者家業を続けてこられたものだ。

 よほど、従者が優秀なのか――?


(それはないだろうな……)


 仲良く連れ立って旅をしているのだ。無能ではないだろうが、特にレベルが高いわけでもなさそうだ。

 身につけている服も装備も、ひどく傷んでいる。切られた跡だけでなく、炎で焦げた跡まであった。

 それだけの数、攻撃を受けたのだ。


(途中で何があった?)


 前衛として戦い、傷付き、それをアリアちゃんの魔法で治してもらいながら、やっとここまで来たのだろう。


(あれはウルフやハイエナ型の魔獣にやられた跡じゃない。斬られた跡だった……)


 俺の後ろで大人しく馬に揺られている猫族の少年は、口数が少ない。話しかければ受け答えもするが、分を(わきま)えているのか、初めて馬に乗ったことで緊張しているのか、ヤンチャそうな第一印象とは違うように感じた。


 攻撃魔法も使えない女の子が、冒険者稼業に片足を突っ込んでいる事は看過(かんか)できない。

 大人が、危険を承知で冒険者稼業に従事することは自由だ。

 平民の子供が、冒険者登録をした上で採取の依頼を受けることもある。

 だがそれは、あくまでも親の手伝いの域を出ない。


 親が冒険者や薬師で、採取の仕事に慣れているから、家業の手伝いや修行の一環として行うのだ。山や森に行くときは親が一緒だ。

 たとえ孤児でも、子供だけでは採取の依頼には手を出さない。

 依頼に出されている薬草や木の実などの素材は、危険な場所に自生しているからこそ、冒険者ギルドに依頼として出されるのだ。それらが採取できる野山には、人を襲う魔獣が出ることがわかっている。

 大人でも自力では採取に行かず、冒険者ギルドに依頼するのだ。


(確かに、必ず魔獣が出ると決まったわけでもないけどさぁ……)


 逆に、いつ遭遇するかもわからないため、ギルドでは保護者がいない未成年には依頼を出さない。成人していてもレベルの低い冒険者には、ある程度のスキルや魔法を持っていることが証明できなければ、依頼を受けさせない。

 護衛を雇うという選択肢もあるが、身の安全を買えるレベルの護衛を雇ってしまうと、薬草採取のような安い依頼では収支が釣り合わなくなってしまう。


 だから本当の初心者(ルーキー)が受けられる依頼は、ランク外の納品依頼と雑用からになる。魔獣が出ないことが確認されている野山や畑で、農作物や野草の収穫や、町中で清掃や配達(おつかい)などの手伝いだ。

 その過程で、攻撃的な野生の獣を撃退する(すべ)を学び、効率の良い旅や野営のやり方を覚え、依頼を受けて働くというシステムに慣れ、人間関係を構築してゆく。

 いくら自信があっても、新人(ルーキー)がいきなり討伐依頼を受けられるわけではない。


 一日働いても、宿に泊まって食事をしたら、それだけで半分以上の報酬が消える。

 装備やアイテムにかける金など、なかなか残るものではない。

 攻撃魔法が使えない魔法使いが稼ぐのは、かなり大変だったはずだ。


 護衛の有無や、推奨レベルに関係なく依頼を受けさせてくれるギルドもあることはあるが、それは違法ギルドになる。完全出来高制の、完全自己責任だ。

 依頼書の内容と現地の状況が違っていたとしても、ギルドは文句を受け付けない。依頼完了からギルドへの報告までに不幸な事故(・・・・・)があっても誰も関知しない。


(まさか、なあ……)


 アリアちゃんが、違法ギルドに出入りしていたとは思えない。

 とすると、従者の猫くんが稼ぎ出していたか――?

 冒険者間では、過去を詮索するのはタブーだが、ジョブやレベルは聞いてもいい。

 というか、相互に申告しないと仕事にならない。

 俺たちは一緒にクエストに行く仲ではないが、興味本位で猫くんに聞いた。


「なあ、猫くん――レッド、だったよな。お前、ジョブとレベルは?」


 一拍置いてから、ゆっくりと返事があった。


「……ジョブは盗賊。レベルは……最後に鑑定したときは二十だった……。まだ、レベル二十には達していないと思ったんだ……。でもなぜか上がってて……レベル二十から、売買価格も契約料も上乗せされるから……だからアリアは……」


 何か変だな、と思ったときには遅かった。

 背後でわずかに身じろぎする気配がしたと思ったら、音もなく猫くんが落馬した。

ここまでお読みくださってありがとうございます。

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