32.リオンと任務 あるいは冒険者と依頼②/リオン視点
噂では、王国騎士団にも、女性騎士だけの部隊があるらしい。
近衛とはまた違う組織で、王族以外の貴族・要人の護衛として需要があるのだという。
俺も会ったことはないので、あくまでも噂だが。
王国の軍事関係では、女性が現場に出る職務についているのは、魔法騎士団か魔装兵団くらいではないだろうか。
つまるところ最終的には体力勝負になるので、魔法という特殊能力がない限り、女性に現場仕事は難しい。
剣技や武闘に関するスキルがあっても、慣例的に女性の少ない業界だ。
というより、政治と切り離せない縁故採用が多い世界であって、実力だけで階級が上がるのは、国境の最前線くらいのものだという。現場叩き上げが通用する業界ではないと聞く。
(まあ、出世したいわけではないから、別にどうでもいい話だけど)
俺は騎士団に入って立身出世を目指すような生き方よりも、自由でいたい。兄貴たちを見ていると、心からそう思う。
一番上の兄貴は、仕事が忙しくて自分の時間が取れないというし、二番目の兄貴なんか身分のせいで閑職に飛ばされたらしくて、もう何年も会っていない。
(あ、でも女性騎士には会ってみたいかなっ)
でもそうすると王国騎士団に入団するか、噂の女性騎士団に捕まるような罪を犯さなければならないわけで――結局、やっぱりどうでもいいかと思うに至った。
それに、女性剣士も女性魔法使いも、冒険者の中には大勢いる。
選り取り見取りとまではいかないが、中堅クラスのレベル帯まで上がっていれば、それなりに女性と親しくなる機会はある。
(固定パーティーを持たないのは、それも理由の一つだな)
五〜六人のフルメンバーで組んでいると、全員が同性というわけにもいかない。戦力的にも、ジョブ的にも、ある程度のところで限界が来る。
それを回避するために男女混合でパーティーを組む。
すると今度は、パーティー内で惚れた腫れたの内輪揉めが始まる。
パーティー内恋愛禁止にするという方法もあるが、それだとメンバーが集まらない。
俺も“しがらみ”があるせいで、特定の女性に深入りするのは避けたいし。
結局、相棒と二人でふらふらしているか、適当な女性パーティーに加えてもらうか、クエスト内容によってその都度メンバーを募集するのが最善だった。
それでもしつこく言い寄ってくる女性には、なぜ俺が相棒とだけ組んで行動しているのかよく考えろと匂わせると、たいがいが諦めてくれる。
何をよく考えたのか知らないが、俺がクロスと組んでいるのは俺の実家の“しがらみ”のせいである。
クロスにとっては、望んだわけでもない“腐れ縁”のようなもので、迷惑な話だったに違いない。
ダンジョンに潜れば魔法書を探すことができる。だからお互い、利害の一致で連んでいるようなものだ。
クロスとは付き合いが長い分、気心が知れた仲ではあるが、奴が本当のところは何をどう考えているか、俺も全てを理解しているわけではない。
(けどそういう人間関係のあれこれは、自立した大人の話であって)
冒険者の中には、十代になったばかりの少年少女や、就学年齢にも満たない子供までもがいて、危険を冒して稼いでいる。
そもそも、平民の間には「就学」という概念が希薄だ。
十代にもなれば、親の家業を継ぐために働く者が大半で、即刻、労働力として数えられる。他にも奉公に出たり、出稼ぎに出たりと色々あるが、冒険者になることを薦める親はいないだろう。
丁稚奉公に出ても死なないが、冒険者になれば死ぬことがあるのだ。
一獲千金も狙えるが、たいがいの親は博打が過ぎると思うものだ。
冒険者をやっている人間には、二親が揃っていることは珍しい。両親が健在で、食べる物にも困らなければ、進んで冒険者になる者は少ない。まともな家庭環境で育ったとは、お世辞にも言えない者も多い。
それでも身一つで一獲千金が狙えるからこそ、冒険者稼業は人気なのだ。
家柄も縁故も関係ない。運と実力こそが全てだ。人間関係に悩まされることもない。
嫌いな連中とは、距離を置く自由がある。
(貴族社会はそうはいかないからなー)
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