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31.リオンと任務 あるいは冒険者と依頼①/リオン視点

 俺たちは冒険者として、ある人から依頼を受けた。

 ギルドを通した正規の依頼ではないし、本来、冒険者がやるような仕事でもないが、まあ、俺もクロスも色々と“しがらみ”のある身なので仕方がない。

 何より、大口のスポンサーがついているから支払い(ペイ)がよかった。


 で、行き先が同じ方角だから、とギルドでついでに調査依頼(クエスト)を受けたわけだ。

 調査依頼というのは、討伐依頼と違って、対象(ボス)を倒す必要がない。

 中級ランク以上の冒険者ならば、わりと簡単に達成できる種類の依頼だ。

 強敵がいたら、強敵がいたと報告すればいい。戦って倒す必要はない。

 (よう)は下調べのための前乗り役だ。


 どちらも種類的には調査依頼になるため、便宜上、最初のほう(支払い(ペイ)がいいほう)の依頼を「依頼A」と呼ぶことにする。

 ギルドで受けたほうを「依頼B」と呼ぶが、こちらはダンジョンの調査依頼だ。

 あるダンジョンに行って、場所や難易度を探ってきて欲しいという内容だ。依頼書の上では、便宜上のダンジョン名は「原初のダンジョン(仮)」となっていた。


 原初のダンジョンの噂は、前からあった。

 冒険者の間では、まことしやかに(ささや)かれている伝説のようなものだ。

 創世神話の時代からあるダンジョンで、今の世界を形作った様々なものを生み出したとされている。

 その「原初のダンジョン(仮)」の一つが、大森林付近で見つかったらしいのだ。

 そこで、ギルドからは複数の調査依頼が出ていた。


(簡単な依頼(クエ)だと思ったんだがなぁ……)


 が、ダンジョン自体が見つからず、途中でウルフ型の魔獣は出るし、ハイエナ型の魔獣は出るしで散々だった。

(そりゃ、道の真ん中にご馳走が転がっていたら、魔獣も大挙して押し寄せるよな)

 沼蜥蜴(リザード)と戦って亡くなった冒険者たちは不運だったが、()てして冒険者稼業というのはそういうものだ。

 引き際を見誤ったのは、彼ら自身の責任だ。

 冒険者カードは回収したので、後でギルドに届けてやろう。


(それにしても……)

 なぜ逃げなかった?

 沼蜥蜴(リザード)は大型の魔物だ。倒すには人数と火力がいる。三人で相対するには分が悪過ぎる。パーティー構成も不自然だ。

 普通、討伐依頼を受けるなら前衛と後衛で五〜六人でパーティーを組むものだが、彼らは装備からして全員が前衛だ。

(分断されたか、逃げ切れなかったか……?)


 だが、パーティーの残り半分がどこかにいるとしても、探しに行くのは得策ではない。

 瀕死の彼らに仲間の救援を頼まれた、というなら話は別だが、日も落ちた中、どこにいるかもわからない者たちを、頼まれもしないのに探し回るというのはリスクが高すぎる。

 行き倒れた冒険者に対する最低限の義務は果たす。が、そこまでだ。


 ダンジョンの中でないだけ、彼らは幸運だった。

 ダンジョンの中では、遺体すら見つけてもらえないことがある。

 冒険者カードは回収されず、ギルドに訃報も届かない。家族や友人も、一生、気持ちに区切りをつけられないまま過ごすことになる。


 冒険者になる者は、そういう稼業だと知りながら、納得()くでやっているところがある。

 無理やりにでも、納得するしかないのだ。

 この国――ウェスターランド王国はダンジョン探索が主産業にもなっている冒険者国家だが、冒険者の実態はその日暮らしと大差がない。

 ギルドはあっても、ギルドが生活を保証してくれるわけではない。

 高レベルの冒険者パーティーが持て(はや)され、勇者という特殊ジョブが発見され、華やかな側面ばかりが強調されているが、成功するのはほんの一握りの者だけだ。

 多くの者が中堅クラス止まりで、毎日を必死に生きている。


 そういった内情は、実際に冒険者になってみないとわからないものだ。

 命の危険があることは、戦に赴く王国の騎士や兵士でも同じだが、正規兵と冒険者は全く違うものだった。

 長年、真面目に努めていれば昇級するという職ではなく、退官時に恩給が出るということもない。

 遺体の回収が難しいのは戦場で散った兵士も同じだが、冒険者の場合、死者の血肉は魔物の腹の中というパターンが多い。


(一番の違いは……)


 俺は、隣で相棒の馬に相乗りしている少女を見た。

 女や年端もいかない子供までもが、従事しているということだった。

ここまでお読みくださってありがとうございます。

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