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29.馬上にて

「さっきはすまなかったね」

「何が」

「君たちは仲がいいんだな。少し驚いてしまって、挨拶もせずに悪かった」

 隣の馬では、リオンさんとレッドが相乗りした上で会話している。


 レッドは最後までリオンさんの馬に乗せてもらうことを渋っていたが、彼一人を置いて行くこともできないので、大人く乗せてもらうようにわたしが命じた。

 リオンさんは、獣人奴隷(レッドのことを)を差別しない珍しい人だった。


「少し急ぐぞ」

 わたしの前のクロスさんが、そう言って馬の脚を早めた。

 歩きながら二人が指笛で馬を呼び続けると、しばらくして本当に馬が戻ってきたのだ。紆余曲折(うよきょくせつ)の後、リオンさんとレッド、クロスさんとわたしという組み合わせで相乗りして進んできたが、たいして距離は稼げていない。

 日はとっくに暮れてしまった。


 リオンさんが言っているのは、先程までのわたしとレッドの態度のことだろう。

 奴隷が主人に対して馴々しい態度を取り過ぎだと思われているのだ。

 いくら「従者」という言葉を使っても、契約魔法の首輪を見れば、彼が奴隷身分だということは、すぐにわかってしまう。


 それを嫌って、外出時はなんとか隠そうと試みる奴隷もいるそうだが、契約魔法の首輪は亜人種を守る役目もするのだ。

 所有者――飼い主がいるとわかっていれば、人は無闇に手を出さない。

 レッドが言うには、首輪をしていない“野良”とわかると、途端に絡まれる確率が上がるらしい。

 だから彼は、甘んじて飼われることを受け入れている。

 いつか買い上げて開放してあげたいけれど、まとまったお金を作るにはもうしばらく時間がかかりそうだった。


 先程レッドは、主人であるわたしに意見をして、荷物を持つようにも言った。主人の意向より先に、自発的に次の行動を決めたりもした。

 友人や冒険者仲間の間では、それが普通だろう。

 が、百歩譲って人間同士の主従であっても、従者が主を蔑ろにすることは許されない。

 そういった言動は奴隷や従者自身の評定(ひょうてい)を下げ、主人の格をも下げることにつながる。

 さらには、奴隷に無礼な態度を許すことで、他人から「奴隷の一人も(ぎょ)せない人間」と思われれば、(そし)られるのは主人のほうだ。


(特に貴族社会では、ね)


 奴隷だろうと、直接雇用関係にある従者だろうと、下の者をきちんと従わせることができなければ、資質や人間性に問題があると判断される。

 冒険者相手だから「仲がいい」という表現で済んでしまっているが、本来なら伯爵家の人間が従者に許して良い態度ではない。


「あんたは変わっているな」

 前で馬を操っているクロスさんが言う。

 馬は周りが暗くても歩むことができるが、クロスさんはさらに魔法で光球を飛ばして道の先を照らしていた。


「それは光属性の“(ライト)”ですか?」。

「そうだ。予想以上に譲渡された魔力が多かったんでな。助かった」

 残念。光属性なら真似ても使えそうにない。

 明かり取りの生活魔法ならよかったのに。


「あんたは従者をずいぶんと自由にさせているんだな」

 契約の首輪を見ても信じられなかった、とクロスさんは語る。

 彼の言う「自由」の中には「身分をわきまえない言動」「奴隷として相応しくない振る舞い」という意味が含まれているのだろう。


「確かにレッドは奴隷で従者だけれど、従順なだけの奴隷ならいらないわ。自分でものを考えられないなら、連れていても邪魔になるだけ」


 最初から、レッドにはできる限り自由にさせている。

 自由に慣れ、自身で判断することを学ばなければ、奴隷身分から解放された後に彼自身が困るだろう。

 それに、詮索してくる人物にはこう言っておけば角が立たない。

 レッドの役目は、わたしがいない間アトリエを守ることだった。言われたことしかできないお人形では意味がない。邪魔になる、というならそういう意味では正しい。

 そして、レッドはそういう意味では”邪魔にならない”とても優秀な従者であった。


「あんたは、もっと魔法を学びたいとは思わないのか? 古代語も古代魔法語も理解できるというのに、奉公に出るなど才能の無駄遣いだ」 

「いいんです。どうせ属性魔法は使えないし」

 クロスさんの背中が、ぴくりと反応したように感じた。

ここまでお読みくださってありがとうございます。

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