28.同道
「魔法は冒険者ギルドの講習で習っただけで、あとは独学です」
わたしがそう言うと、クロスさんが畳み掛けてきた。
「なら、あんたは魔法使いではなく、薬師か何かなのか?」
わたしは首を振る。
「そんな大層なものではありません。採取と納品の依頼だけ受けている、つまらない冒険者です。冒険者登録はしていますが、討伐依頼を受けたことはありません」
「嘘だろ……」
リオンさんもなぜか絶句している。
「えーっと、失礼かもしれないけど、アリアちゃんのご実家は何をされているのかな? この辺りの村の人じゃないよね?」
「実家は王都で、これから辺境の祖父のお屋敷まで奉公に行くところです」
実家が伯爵家だということは、巧妙に端折った。
「辺境の屋敷っていうと……」
「一軒しかないだろ」
「だよな……」
二人がこそこそと内輪の話を始めたので、その隙にレッドがわたしの袖を引いた。
「なあアリア、本当にこいつらと一緒に行く気か?」
「ええ」
「オレはあんまり気がすすまねえな」
「どうして?」
「うさんくせえ。これは勘だけど、シーフの勘と思ってくれていい」
「うーん……でも、次の村まで急ぎたいのは事実よね……」
わたしだって、何も考えていないわけではない。
レッドの話を信じるか信じないか、この二人が信用できるか否かという話ではなく、実際問題として、この先でまた魔獣や魔物が出た場合に、わたしとレッドだけでは対処しきれない。
それに、ようやく動けるようになったレッドを、再び酷使したくない。
怪我をしても治癒魔法で治せるが、短時間に何十回も使うような魔法ではない。身体に負担がかかりすぎる。
何かあっても従者がいるから大丈夫、という安易な判断ではなく、もしわたしが一人だけだった場合にも、同道を許すかどうかも考えた。
(――むしろ、こちらから同行を頼むでしょうね)
若い娘が見ず知らずの男二人と夜道を行くなど、誉められた行動ではないことはわかっている。けれど、リスクとリターンを秤にかけても、護衛を依頼するだけの価値はあった。
それに、王都を出てからわかったのだけれど、世の中、意外と親切な人が多い。
王都を離れれば離れるほど、その傾向が強い気がした。
馬車では果物を分けてくれた行商の人もいたし、わたしを庇って亡くなった、あのおばさんのような人もいる。
おばさんは、とっさに体が動いてしまっただけかもしれないし、レッドもずっとローブで猫耳を隠していたから、獣人だと思われなかったせいもある。道中、誰にも無意味に悪意をぶつけられることがなかったのだ。
そもそも、獣人奴隷が主人と一緒に馬車の客席に座っているとは、誰も想像しないだろうし、冒険者街を離れてしまえば、レッドの顔を知る者もいない。ローブで耳と尻尾を隠してしまえば、十分に人間に見えただろう。
でも、ローブを失ったこの状況でも、彼らはレッドを差別しなかった。
(――信じても大丈夫だと思う)
人柄を推し量るための指標に使ってしまい、レッドには申し訳ないけれど、これ以上彼を戦わせないで済むのなら、悪くない選択だとわたしは判断したのだ。
ここまでお読みくださってありがとうございます。
よろしければ、下の方の☆☆☆☆☆☆を使った評価や、ブックマークをしていただけると幸いです。




