27.ときには魔法の話を
隣でレッドが苦虫を噛み潰したような顔をしていたけれど、どうしても魔法について語りたいという欲求に勝てなかった。
(今まで、同じレベルで話せる人には会ったことがないもの――)
魔力回復薬の一件があってから、二度と冒険者パーティーには加わらないと決めた。一人でこなせる依頼だけを受けて、誰とも関わらずに生きて行こうと決めたのだ。
(罵られるくらいなら、ひとりでいい)
それでも、少しだけ羨ましかった。
新人冒険者のパーティーが、ギルドの喫茶スペースで和気あいあいと話しているのを見る度に、疎外感を感じた。
あれは自分には縁のないものだから、とわざと見ないふりをして通り過ぎた。
納品カウンターに、魔法薬の入った薬瓶を並べて査定を待ちながら、彼らはこういうデバフ系の薬より、魔力回復薬を重視しているのだろうなぁ……とぼんやり考えたりもした。
社交界には、もうわたしの居場所はない。
風聞や世間体を気にする貴族社会では、虹彩異色のような亜人種の特徴を持つ者は、徹底的に差別される。
舞踏会の会場では、壁の花として存在することさえ許されないだろう。同じ空気を吸うことさえ汚らわしい、という意味だ。
寄宿学校でも似たようなものだ。
平等・公平を謳いながらも、貴族、平民、それ以外という明確な区別がある。
右目のことは隠していたから、表向きはそれが理由で絡まれることはなかったけれど、わたしが寄宿学校に入れられたのは「異母妹を虐め抜いた挙句、殺そうとしたから」という風評が広がっていて、絵に描いたような冷酷な姉として遠巻きにされた。
冒険者になれば、何かが変わると思っていた。
身分も見た目も関係ない、レベルや実力で勝負できるのだと――。
けれど違った。
新人魔法使いは新人魔法使いとして、新人魔法使いらしく初級魔法だけ使っていればいいと言われた。
上級の治癒魔法が使えるからといって、使ってはならない。先輩冒険者の面子を潰すようなことがあってはならないのだ。
魔法は、ギルドの講習で覚えるものである。魔法陣と呪文は丸暗記が基本。百歩譲っても、ギルドに置いてある無料の魔法書を読む程度だ。
決して、貴族学院の魔法課程でやっていそうな効率的な魔法陣構築のノウハウについてや、短縮詠唱のなんたるかについて語り倒したりしてはいけない。
どこに行っても、結局、くだらない見栄の張り合いやマウントの取り合い。
気づいたときには、友人と呼べるほど親しい者は、誰もいなかった。
(――違う。わたしにはレッドがいる)
一人でいいと言っておきながら、あのときレッドを拾ってしまったのは、どこか寂しかったのかもしれない。
話し相手が欲しかったのだ。
レッドは、わたしが何を話しても真剣に聞いてくれる。
でも難しい魔法の話はできない。
わたしも、鍵開けのコツはわからないからお互い様だ。
夕飯どうしようとか、あれ美味しかったよねとか、そんな他愛もない話なら、いくらでも話せた。
――そうではなく、一度でいい。誰かに相談してみたかったのだ。
なぜ、自分が無属性魔法しか使えないのか。
なぜ、属性魔法を使おうとすると暴走するのか。
なぜ、お祖母様の使った秘術はわたしの右目を変質させてしまったのか。
そんな魔法が、本当にこの世に存在するのかと。
必死に調べたけれど、お祖母様が使ったと言われる秘術に似た魔法は、どんな文献にも載っていなかった。
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