231.宴会(スライムゼリー再び)
「恩人様御一行にカンパーイ!」
恩を受けた当の本人が不在で申し訳ないが、という前置きで始まったウランさんの挨拶を経て、宴会が始まった。
「なんか……もっと色々と訊かれるのかと思ったのだけれど……」
どう見ても、ちょっと規模の大きな普通の宴会だった。
わたしたちは、演壇前の広いテーブルに案内され、ウランさん、マイアさんをはじめとした女性陣に世話を焼かれながら、次々と出される料理に舌つづみを打った。
流れるように席に案内され、飲み物の希望を聞かれ、大皿から取り分けた料理を勧められ、気がつくと小皿や小鉢を持たされていて、テーブルの上はあっという間に料理と皿とカトラリー類と、飲み物のグラスで埋め尽くされた。
冒険者ギルドの酒場で宴会をするパーティーを見たことがあったけれど、今の状況は彼らへの給仕よりペースが早い気がする。
もっとも、客の多い酒場では手が回らないことも多く、タイミングよく給仕することも、料理を途切れさせないよう常に気を配り続けることも難しい。
というより、狙ってやっていた。
食事の合間に繰り返し酒を注文してもらわなければならないので、料理の提供は比較的のんびりしていた記憶がある。
そんなギルド酒場とは違い、こちらの会場では飲み物よりも先に大量の料理が供された。
食材の多くは肉、魚、野菜という基本的なものだけれど、山菜、野草、キノコの比率が異常に高い。
(たぶん、近くで採れるものばかりよね)
野草やキノコは食べ慣れているから嬉しい。
知らない味付けになっているものを、甲斐甲斐しく給仕してくれる女性たちへと、訊ねながら摘まむのも楽しかった。
わたしたちのテーブルと、周辺のいくつかのテーブルには、様々な模様のテーブルクロスが掛かっている。
そして、そういう豪華なしつらえになっているテーブルには、美しく盛られたオードブルが並べられているのだ。
葉物野菜のサラダやゼリー状の何か、一口サイズの肉や魚のおつまみっぽいもの、色鮮やかな果物などで、特に珍しいものではないのだけれど、どれもが凝った飾り切りにされていたり、花のように円形に並べられていたりして、とても目を引いた。
もちろん最初に何種類か続けていただいたし、果物の色が鮮やかな理由も教えてもらった。
飾り切りは村の女性なら誰でも習得しているもので、こういった宴会や祝い事の料理に花を添えるため、昔から村に伝わっている技術らしい。
おそらく貴族社会でも、パーティーや会食で似たようなものが供されているだろうけれど、生憎とわたしは目にしたことがない。
(立食パーティーなんか、出たことないもの)
寄宿学校でものパーティーは、散々だったから思い出したくもない。
透き通った青色と、乳白色の二層のゼリーと、最も凝った果物の飾り切りを作ったのは、宿屋の奥さんだったそうだ。
栗鼠族には手先の器用な者が多いらしく、特別にすごいと言われるほどのことではないと恐縮しながらも、嬉しそうに解説してくれた。
「これね、二層とも基本の材料はスライムなのよ」
途中の村で、スライムのゼリー菓子が売られていたのを見たけれど、出来上がりの雰囲気が全然違う。
(屋台のはカラフルだったけれど……配色が鮮やかすぎて、食べたら駄目な種類のキノコを連想させたのよね……)
宿屋の奥さんが作った二層のゼリーは、ほんの少し酸味があって、甘酸っぱいのにさっぱりしていて、どこか懐かしい味わいだった。
「果汁を加えているのですか?」
スライムと果汁は混ざるのだろうか……と思いつつたずねてみる。
「まあ、ご名答! スライムには基本的に味がないのよ」
ああ、やっぱり。
美味しいのなら、王都でも食べたことがある冒険者がいたはずだ。
基本的に魔物の肉は、獣系以外は食用としての需要が少ない。
食べる者もいることはいるが、食用として流通するほどではないのだ。
しかも、スライムには幾多の種類がある。
わたしにとってのスライムは、溶解液と各種薬液を採取するための素材であり、食べ物とは見做していなかった。
美味しく食べられると聞いたこともなかったため、食べ方を調べたこともなかった。
スライムを探して捕獲するよりも、もっと安全に採取できて、美味しい山野草を知っていたというのもある。
「溶かしても、果汁やミルクと混ざりにくくてね。混ぜて味付けできるのは、幼生スライムだけなのよ。食用にするにしても、その辺の野山に棲息しているようなのは駄目ね。固くて食べられたものじゃないわ」
王都の裏山にいるやつを、捕まえて食べようとしなくて正解だった。
拙作をお読みいただき、ありがとうございます。
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