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22.冒険者③

 手持ちの麻痺毒を1本残して全部使い切ったところで、冒険者二人組の魔獣討伐が完了した。


「おつかれっ」


 金髪の剣士のほうが、長剣を鞘に納めてこちらへ歩み寄ってきた。足元に折り重なった魔獣の死体を軽く飛び越える様が、いかにも冒険者といった風情だった。


 身軽な剣士のようだ。装備は軽さを重視したレザー調で、黒を基調としたシンプルな服装とよく合っていた。

 剣は、鞘と鍔に金色の飾りがついている以外は、これといった特徴はなさそうだ。強いて言えば、ギルド所属の冒険者が好んで使っている剣よりは細身のようだった。


 無造作に伸ばした金髪を、後頭部で一つに束ねているが、毛先が跳ねてあちこちに向いている。あまり身だしなみには気を使わないタイプのようだ。

 瞳の色はグリーンで、人好きのする笑顔が魅力の好青年だった。

 田舎では、十分にニ枚目で通るだろう。


 ――なんとなく、誰かに似ている気がした。


「支援、ありがとな」

 君は大丈夫? 怪我してない? と問いかけてくる様子が、嫌味でない程度に友好的(フレンドリー)だった。


(この近くの村の人かしら……?)


 だとしたら、確実に村娘の人気を総ざらいしていそうだ。

「俺たちは旅の冒険者だよ。基本、剣士と魔法使いの二人パーティー――っていうか、コンビで活動してる」

 地元の人ではなかった。

 そして、何気に自己紹介慣れしている。


「俺はリオンで、あっちの愛想の悪いのが相棒のクロス。今、立て続けに魔獣に遭遇してアイテムも魔力も尽きかけてて困ってたんだ」

「わたしはアリア。おつかいでお祖父様のお屋敷まで行く途中よ」

「一人で?」

「いいえ、従者が一緒よ。荷物の番をさせるのに、置いてきたから、もう戻らないと……。危険な魔獣を倒してくださってありがとう。これで道中を急げるわ。夜が()けるまでに次の村に着きたいの」


「あー……確かに、今からじゃ夜になるね……」

「では、わたしはこれで失礼いたします」


 魔獣は退治された。

 ならば、もうこの場に用はない。

 わたしは早々に挨拶を切り上げて、その場を立ち去ろうとした。


「ちょっと待て」


 が、クロスという名の魔法使いから呼び止められた。

「オレからも礼を言う」

 黒髪の、控えめに言ってもずいぶんと顔立ちの整った青年だった。しかも黒髪・黒目はこの国では珍しい。


「いえ、たいしたことはしてませんから」

「いや、助かった。あんたの治癒魔法は、ずいぶんと質がいいな。疲労まで回復する」

「そんなこと……ただの初級治癒魔法だわ。それより、ごめんなさい。魔力回復薬は、わたしたちも使い切ってしまって、もうないの」


 先手を打って、持っていないのではなく「使い切った」のだと嘘をついた。こんなところまで来て、くだらないことで言いがかりをつけられたくはない。


「いや、魔力残量の管理は魔法を(たしな)む者の責任だ。他人に魔法薬をたかろうとしたオレのが悪い」

 珍しい意見を聞いた。


「恥を忍んでもう一つ頼みがある。あんた、治癒魔法ならあと何回くらい使える?」

「えーと……」


 本当のことは言えない。

 最上級の治癒魔法でもあと三十回以上は使えたけれど、それを言うと話がややこしくなりそうなので、ここも絶対に誤魔化しておく。


「じゅ……十回くらい……かな?」

沼蜥蜴(リザード)魔獣(ハイエナ)と人間の死体を焼かなければならない」

「そうだよっ。さっきまでは小型の魔獣だけだったから、土魔法で埋めてたんだけど――クロスがね。それもあって魔力を消費し過ぎちゃって」

「この沼蜥蜴(リザード)は巨大すぎる。埋めるより炭化(たんか)させた方が早い」

「……」

「治癒魔法二〜三回分の魔力を、譲渡(トス)してはもらえないだろうか?」


(え? え?)

 情報量が多い。

 しかも何か、聞き捨てならないことをたくさん聞いた気がする。


 一つ目。

 クロスさんはいくつ属性を持っているのだろう?

 二属性持ちの噂は聞いたことがある。けれど、今の話を聞く限りでは、少なくとも風・火・土の三属性を持っていることになる。


 二つ目。

 沼蜥蜴(リザード)を炭化させるって何?

 炭化と「治癒魔法二〜三回分の魔力」の文脈の意味がわからない。


 三つ目。

 さっき、魔獣と連戦したと言わなかっただろうか?

 それが本当なら、二人に怪我や汚れの痕跡がなかった理由は何なのだろう。

 魔獣(ハイエナ)と連戦しても、かすり傷程度で済むほど高レベルなのか――浄化魔法の他にも、身綺麗にするための魔法が存在するのだろうか?


 四つ目。

 そもそも「魔力の移譲(トス)」って何――?

ここまでお読みくださってありがとうございます。

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