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【不遇令嬢はエルフになりたい】〜介護要員として辺境の祖父の屋敷で働くよう命じられたが、ざまぁする間もなく実家が没落した件〜  作者: 一富士 眞冬
第2章

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199.エルフになりたい⑩棄てられる者たち

 一階の自分の部屋に戻って、荷物を開ける。

 荷物の中には、アトリエに置いていた普段着が何着か入っている。どれも厳選された古着(・・)である。

 だいたいがワンピースなのだけれど、自分で仕立て直して大切に着ていたものばかりだ。


 アトリエの荷物に関しては、自分では何もできなかった。

 寄宿学校にいたところ、急に使いの者が来て生家(せいか)に連れ戻されたのだ。

 数日後には、お祖父様の介護に行け(そして二度と戻って来るな)と箱馬車に押し込まれ、王都の外へと放り出された。


 あちら側は“途中まで送った”と主張するのだろうけれど、実際は“途中の町で置き捨てられた”というのが正しい。

 御者は、王都から三つほど離れた小さな町でわたしを降ろし、あとは自分でなんとかしろ、と乗り継ぎ用の馬車を示しただけだった。


 寄宿舎から持って出られたのは、通学に使っていた指定鞄とわずかな手回り品だけで、あとは着の身着のまま、旅装も旅費も何もない。

 その日の食事代も、宿を取るお金もなかった。

(“なんとか”って何よ“なんとか”って!!)

 追い出された事実に悲しくなるより先に、あまりに適当なやり口に怒りが湧いたほどだった。


“わたしを殺したいのなら、いっそ荒野のど真ん中か、深い森の中にでも打ち棄てればいい”

 それをしないのは、わたしを送り届けることを命じられた御者が、荒野まで行きたくないからに他ならない。遠くの町に置いてきたと言い訳するつもりで、どこかで時間を潰すのだろう。


 運良くわたしがお祖父様のところにたどり着いたなら、それでよし。お父様は、介護要員を送り込んだという名目が立つ。

 途中で野垂れ死んでも、仕方がなかったと言えば済む。

 わたしが辺境へ行かず、どこかで生きていることがわかったとしても、それは言いつけを守らず逃げたわたしが悪いということになる。


 ただ……お祖父様とお祖母様だけは“わたし(アリア)”という孫娘が存在した事実を知っている。

 特にお祖母様は、幼いわたしを見ているのだ。

 今さら、フィレーナお母様とは似ても似つかないシャーリーンと、こっそり入れ替えることはできない。


 だから、旅に出したが行方知れずになったとでも言って、言い逃れるつもりなのだろう。

 お祖父様の介護のために遣いに出したという名目がある限り、お祖父様たちにも負い目が生まれる。お父様のことを強くは責められない。それらを全部、見越しているのだ。

 さらには、嘘を見破るスキルや魔法を警戒して、一応は馬車で送ったという体裁を整えるところが悪質だった。

 

 屋敷に軟禁されていた間、餞別(せんべつ)代わりに何か盗んでやろうかとも思ったけれど、出立時に荷物が増えていると怪しまれるので、やめておいた。

 それに今は、昔と違ってメイド服を持ち合わせていないので、うろうろしていると部外者としてすぐに咎められてしまうだろう。昔のように、厨房に入り込んで食べ物を盗むのも難しかった。


 第一、通学用の一番安い指定鞄には、魔法が掛かっていなかったから、たくさんの物は入らない。

 教科書をたくさん持ち歩く上級生や、裕福な家柄の子たちは、魔法鞄(マジックバッグ)になっている指定鞄を購入するか、専門家に頼んで容量を増やしてもらうのだ。


 屋敷内を物色する代わりに、秘密裏にレッドと連絡を取って、アトリエの物を処分してもらった。

 売れるだけの物を売って、旅費を作るのだ。

 旅支度というよりは、まるで夜逃げの準備のような荷造りを、レッドは一人でこなしてくれた。


 リメイクした服も身の回りの品も、なけなしのお金も、魔法薬関係の道具や材料も、全部アトリエに置いてあったから、レッドが上手くやってくれなければ、大変なことになっていた。

 大損失どころか、旅に必要な装備もアイテムも何もない状態では、それこそ野垂れ死んでしまう。


(それだけじゃない……)

 急に行方不明になって音信が途絶えれば、わたしはレッドを──契約した奴隷の所有権を放棄したと見做(みな)され、レッドを失うことになる。

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