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【不遇令嬢はエルフになりたい】〜介護要員として辺境の祖父の屋敷で働くよう命じられたが、ざまぁする間もなく実家が没落した件〜  作者: 一富士 眞冬
第2章

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198.エルフになりたい⑨安全な露台

 露台(バルコニー)から外を眺めていると、庭の端の生け垣が、かさかさと動いていることに気がついた。

 見ていると、茂みからレッドが顔を出した。

「レッドー! 何してるのー?」

 わたしはバルコニーから手を振って、大声でレッドに呼びかけた。

 気づいたレッドがこちらに向かって手を振り返しながら、声を張り上げた。

 

「安全確認! 護衛の仕事だろ!」

「ご苦労様! ありがとうー!!」


 わたしも応えて声を張った。

「レッド、頭に葉っぱが付いてるわよー!」

 自分の頭を指し示しながら言うと、レッドが自分の頭を手で払うけれど、全部は取り去れなくて、小さい葉が何枚か残っていた。

 バルコニーから大声を張り上げるなんて、貴族令嬢のやることではない。

 メイドであっても、お屋敷でやったら“はしたない!”と大目玉を食らうのが目に見えているような行動だけれど、下で応えてくれる誰かがいるのは案外と楽しい。


 今まで、露台(バルコニー)は危険なだけの場所だった。

 景色を楽しむために立てば、いつ後ろから突き落とされるかわからない。

 そうでなくても、仕事をサボってぼんやりしているなと怒られる。

 そもそも、露台は屋敷の主人や客人などの高貴な人物だけが使うことを許された場所だ。使用人風情(・・・・・)が、仕事以外で勝手に出入りしては怒られる。


 下を通りかかろうものなら、上から色々なものをぶちまけられた。

 汚水くらいならまだしも、植木鉢や花瓶だったりした日には、直撃を避けても無害では済まない。その上、割れた花瓶の責任は、巧妙にわたしに(なす)()けられるのだ。

 それが、シャーリーンのやり方だった。


 寄宿学校も似たようなものだ。

 あそこには、シャーリーンの息が掛かった者がいる。

 刺客を潜り込ませるのは難しくても、嫌がらせをして楽しむ同士を作り出すことなら、シャーリーンの十八番(おはこ)だ。

 学外のパーティーなどで知り合った者に、わずかに声をかけて根回しするだけでいい。


 学校を抜け出して町の中を歩いていても、それはそれでシャーリーンとは関係のない危険がある。ハーフエルフとバレるだけで、(いわ)れのない嫌がらせを受けることがあるのだ。

 レッドは獣人族だけれど、契約奴隷の首輪をしている──他人の所有物であることが明らかである──から、あからさまな嫌がらせを受けることはない。

 わたしは身を守る首輪を持たない野良エルフになるから、バレれば狩られる危険さえあったのだ。


 でも、この場所は違う。

 誰もわたしに危害を加えようとは思わない。それどころか、歓迎さえしてくれているのだ。

 初めて、安心して呼吸ができたような気がした。


 隣に来たリオンが、同じように手すりに寄りかかって、レッドに向かって声をかける。

「そろそろ戻れよー!」

 レッドも、それに対してラフな敬礼のような仕草で返事をする。

 もうすぐ戻るというレッドの台詞に、わたしたちは階下に降りて、玄関先で合流することにした。


 *


 ところが、玄関先でレッドの格好を見て絶句した。

 埃っぽい。

 なんか、全体的に薄白っぽい。

 おそらく茂みの中だけでなく、床下や天井裏なども見て回ったのだろう。

 短時間で要所を確認しているところは、さすが盗賊(シーフ)と言えなくもなかったけれど、歓迎の宴にお呼ばれしているというのに、これはない。

 わたしはレッドの頭に付いていた葉っぱを、手を伸ばして摘まみ取って言った。

浄化魔法(クリーン)、掛けるからじっとしてて」


 それから、改めて自分の格好も見直す。

 旅の間は動き易さや丈夫さ、汚れることを考えた格好だったけれど、村の中では着替えてもいいかもしれない。

 曲がりなりにもご招待を受けているのだから、もう少し気を遣うべきだろう。

 レッドもわたしも、選ぶほど服は持っていないけれど、それでも“お気に入り”とそれ以外の区別くらいはある。


「まだ時間、あるわよね。わたし、着替えてくるから」

 わたしはレッドとリオンに言い置いて、(きびす)を返した。

 リオンの暇潰しは、レッドにまかせておこう。

拙作をお読みいただき、ありがとうございます。

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