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【不遇令嬢はエルフになりたい】〜介護要員として辺境の祖父の屋敷で働くよう命じられたが、ざまぁする間もなく実家が没落した件〜  作者: 一富士 眞冬
第2章

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197.エルフになりたい⑧お部屋探訪

 キッチンを覗くと、旦那さんが明日の仕込みでもしているのか、食材を前にして考え込んでいたので、暇つぶしに宿の中を見て歩いていることを告げる。

 奥さんのほうは、宴の準備を手伝いに行ったらしい。

 好きに見てくれと言われたので、階段を上がって二階へ行くと、廊下の両脇にいくつかの部屋が並んでいるのが見て取れた。


 こちらは、扉と扉の間隔からして、一階よりも一部屋が狭そうな雰囲気がある。

 試しに、近くの扉を開けて中を見てみた。

 貸し切り状態のためか、鍵は開いていて、どの部屋にも自由に出入りできる。

「わあ、可愛い!」

 わたしは思わず声を上げてしまった。

 子供部屋のような小さい部屋だけれど、明るい色合いのファブリックでまとめられていて、ベッドカバーやカーテンなどには動物の刺繍が施されている。

「もとは子供部屋だったのかもしれないな。小さい部屋だから、キッズルームとして残しているのかも」


 わたしが選んだ一階の部屋は、落ち着いたアースカラーでまとめられていた。調度もファブリックも、手作りの素朴な雰囲気の品々である。

「二階が子供部屋で、わたしが選んだ一階の部屋は、先代の客間だったのかもしれないわね」

「そうなると、大部屋は広間を改装したのかもしれないな」

 詳しく聞いたわけではないけれど、先代の族長さんは亡くなっていて、子供たちは独立しているようだった。

 奥さんはご存命のようだったけれど、この家を手放し、子供たちと一緒に慎ましやかな生活をしているらしい。

 

 次に開けた部屋は、シンプルな普通の部屋だった。ファブリックは無地で、こちらが宿屋としてのメインの客室になるのだろう。

 調度品はわたしが選んだ一階の部屋と同じで、丁寧に加工された手作り品だった。

 テーブルや棚の、素に近い木目が美しい。


 二階の突き当たりの部屋が、両親の寝室だったと思われる、大きめの二人部屋だった。

 日当たりの良さそうな大きな窓と、小さな露台(バルコニー)が付いている。

 今は夕暮れ時だから景色はあまり映えないけれど、夕陽が薄らと差し掛かっていて、柔らかな雰囲気である。

「このお部屋も素敵ね……!」


 ヴェルメイリオのお屋敷には、もっと豪華な調度品で整えられた広い部屋も、数部屋に渡るような大きな露台もあったけれど、その光景に感動したことは一度もない。

 そこにある、としか思えなかった。

(だって、あの屋敷にわたしの居場所はなかったのだから……)

 客人でも、余所者でもない。

 メイドとしても、正式に雇われたわけではない。

 効率良く物乞いをするための中途半端な立場であり、メイド仲間にさえ一人の人間として認められていなかった。

 必要なときだけ認識される、空気のような存在だった。

 ()くて、屋敷妖精か雨樋(ガーゴイル)程度のものである。

 

 バルコニーの手すりを磨かされたり、お茶会の準備をさせられることはあっても、それだけのことだ。メイドのように、屋敷や当主に対して帰属意識が生まれることはなかった。

 屋敷妖精やガーゴイルであっても、長い年月、同じ屋敷に居着いていたならば、自分たちが家屋敷を守っているのだという自負心くらいは生まれただろうに、屋敷で生まれ育ったはずのわたしには、どんな感慨も生まれなかった。


 けれど、この部屋の露台には素直に感動できた。

 わたしは部屋に入って、思い切りバルコニーの扉を開け放った。

 薄いカーテンを風が揺らす。

 外気の心地良い冷たさや草木の香りを感じながら、バルコニーに出て、よく磨かれた木製の手すりに体重を預けた。身を乗り出し、ぐっと下の芝生を眺める。

 ここでは不用意に手すりに触れ、寄りかかり、景色を眺めるような仕草をしていても、サボっていると見做(みな)されて怒られることはない。

 初めて、安心して露台から階下を望むことができた。

 他人が磨いてくれた手すりの感触を堪能し、のんびりと景色を眺めることが許されるのだ。


「夜になったら、ここから星が眺められそうね!」

「いいね、後で見に来ようか」

 リオンが言う。

 わたしはその言葉に大きく頷いた。

 ここでは、星を見るためだけに勝手に露台を使っても、誰にも(とが)められないのだ。

 そんな贅沢があるだろうか。

ここまでお読みくださってありがとうございます。

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