表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

191/274

191.エルフになりたい② 人間(ヒト族)やめます

「それは、人間(ヒト族)でありながら、わざわざ亜人種を名乗るということか?」

 興味深そうにクロスが問い返してくる。


虹彩異色(この目)だもの、どう見てもハーフエルフでしかないわ。今までも“人間の振りをするハーフエルフ”でしかなかったのだし、今さらよ」

 わたしは自分の右目を指し示して答えた。

 ノアさんにも、ジャックさんにも、シアンにも、ハーフエルフだと──名乗ったかどうかは覚えていないけれど、完全にハーフエルフだと思われている。わざと誤解させたような状態になっているのだ。


 だからこの際、その誤解を本当のこととして押し通そうと思う。

 本当なら、もっと早くに決断するべきだったのだ。

 わたしの中から、人間であったころの意識が消えるまでに時間がかかって、決断を先延ばしにしていた。

 自分が、人間(ヒト族)として生きるには不自由な仕様(スペック)であることを、わかっていながら曖昧にして過ごしてきたのだ。


 ハーフエルフとして生まれた者は、遅かれ早かれどちらの種族として生きるか、選ばねばならない。

 わたしのように、ハーフエルフとしての特徴が虹彩異色(オッドアイ)として表れている者は、人間社会で生きることは難しい。必然的に亜人種側を選ぶしかないのだけれど、亜人種の中にいても“混血(ハーフ)”である事実からは逃れられない。

 長耳の者も同様だ。真正エルフより格段に劣った魔力量や魔法適正などで、混血であることを見抜かれる。


 エルフの血が容姿に表れなかった者は、短期間なら人間社会に溶け込むことができても、成長速度や老化速度が著しく遅いため、それを隠すためには常に流浪(るろう)を余儀なくされる。

 または、人間と同じ早さで老いることができても、魔力量の多さや優れた魔法適正から、疑いの目を向けられることがある。血統を証明するものがなければ、生きづらいこと、この上ない。

 人間を装ったハーフエルフか、魔法が得意なだけの人間(ヒト族)か、見た目では判断できないからだ。

 

 わたしの場合は虹彩異色(オッドアイ)と魔力量と、両方の特徴が出ているから、人間(ヒト族)として生活することは無理だ。

 装身魔法で姿を誤魔化して町を歩くことはできるけれど、地域住民として溶け込むことはできない。

 髪で片目を隠すことはできても、一度疑いを持たれたらお(しま)いである。


 アトリエを拠点としていられたのは、お姉さんたちが薄々気づいていながらも、種族の疑惑には触れないでいてくれたからだ。

 歓楽街に近い雑然とした地区には、ワケありの住人が多い。前科者や移民や流民、出稼ぎ労働者、もちろん亜人種も隠れ住んでいる。

 彼女たちもその辺りを理解しているから、お互いに深くは詮索しない。


「だから、家名がバレないように協力してほしくて……」

 家名や両親の名前がバレれば、そこから疑問を持つ者が出るかもしれない。

 両親が人間(ヒト族)であるのに、なぜわたしがハーフエルフの容姿をしているのか。有名貴族の名を騙っているのか、はたまた亜人種(ハーフエルフ)を装った人間(ヒト族)の間諜なのか──などと、不要な疑念を抱かれたくはない。

「バレそうになったら、庶子だとでも言って誤魔化してちょうだい」


 門のところで、リオンはわたしの身分を剣にかけてまで請け合ってくれた。

 その辺で拾った奴隷娘ではなく、ちゃんとした家柄の娘だという言い方をしてくれたのだ。

 そのリオンが、わたし(アリア)はヴェルメイリオ家の庶子だと言うのなら、疑われることもなく通るだろう。


 庶子であっても血縁に亜人種(ハーフエルフ)が存在すること自体が恥であり、貴族家の汚点であるとして、一部の親族から命を狙われている。

 そういう設定にすれば辻褄も合うし、問題はない。リオンに嘘を吐かせることにもならない。

 そもそも、ローランド寄宿学校ではヴェルメイリオ家の私生児で通っていたのだ。亜人種として憎まれ、命を狙われていることも嘘ではない。

ここまでお読みくださってありがとうございます。

よろしければ、下の方の☆☆☆☆☆☆を使った評価や、ブックマークをしていただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ