表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/274

19.冒険者②

 もしも今、目の前の魔法使いに魔力回復薬を渡すことができたなら、この戦闘は一瞬で終わるだろう。

 恐ろしく攻撃魔法が得意そうだ。

 属性は風だろう。エアロカッターを使っていた。

 エアロカッターは風の刃で、刃渡は長剣か大鎌くらいはあり、初級の風魔法であるウインドカッターよりもはるかに殺傷力が高い。

(それより上の範囲攻撃というと……ストーム系かな……?)


「おい、そこのあんた! 魔力回復薬を持ってないか!?」


 魔法使いが、こちらに視線を寄越して言った。

 流石に、一匹づつチクチクと魔獣を刺す作業が面倒になってきたのだろう。

 わたしは無言で首を横に振った。

 どうせ彼も後で、わたしが魔力回復薬を持ち歩いていないことを責めるのだろう。


(冒険者って、みんなそう……)


 昔は、回復役として他のパーティーに加わっていたこともあった。

 新人冒険者ばかりのパーティーだったから、治癒魔法が使えるというだけで歓迎された。初級の治癒魔法でも、人より掛けられる回数が多いことを喜ばれた。

 でもパーティーの仲間がレベルを上げて新しい魔法を覚えると、治癒魔法しか使えないメンバーは不要と言われて、追い出された。

(それは仕方がないことだと、わたしも思う)

 自分たちのレベルやクエストの種類によってメンバーを入れ替えたり、臨時で募集するのはよくあることだ。いくら支援魔法が使えたところで結局、自分で自分の身も守れない弱い人間はお断りだということだ。

(それも、もっともだと思う)

 でも、わたしが頭にきたのは、それが理由で追い出されたことではない。


 みんな、わたしが魔力回復薬を持ち歩いていないことを責めた。


 *


「アンタ魔法使いのクセに、なんで魔力回復薬の一本も持っていないのよ!」

 あのとき、プリーストの少女はそう言った。

 だからわたしは答えた。

「だって、必要ないから」

 そう。わたしには、必要ないものだった。

「アンタに必要なくても、仲間なら譲り合うのが当然でしょ!」

「それは、パーティー加入の際の条件にはなかった」

「そんなの、言われなくても常識でしょっ! そんなこともわからないの!?」

 気が強そうな子だとは思っていたけれど、実際に強烈だった。

「あなたの常識が世間の常識だとは限らない。……そもそもあなた、人のことを責められる立場なの? 覚えたての魔法を遊び半分で無駄打ちして、魔力枯渇寸前なのは自業自得でしょう」

 頭ごなしに怒鳴られて、わたしも大人げなく言い返した。

 こちとら、貴族界隈は長いのである。勢いで言い負かせると思ったら大間違いだ。貴族学校での争い事(キャットファイト)の基本は、まずは嫌味の応酬なのだ。

(シャーリーンに比べれば、全然可愛いものよ)

 平民の冒険者少女がヒステリーを起こしたくらいで、いちいち動揺するはずもない。

 今思うと、確かに子供と呼べる年齢だったけれど、ずいぶん子供っぽい真似をしたなと思う。


 わたしの常識では、自分に必要ないアイテムを持ち歩くことは、お金とマジックポーチの無駄遣いだ。魔力回復薬は、わたしにとっては「消費アイテム」ではなく「納品アイテム」である。

 確かに、仲間内で融通し合うことはあるだろう。駆け出しの、貧乏パーティーではよく聞く話だ。

 わたしだって、アイテムをパーティー内で融通し合うことに異論はない。

 持っていれば、魔力回復薬でも体力回復薬でも「一個貸しね」などと言って渡しただろう。

 ――ただし、魔力が枯渇しないわたしには、一生その「貸し」が帰ってくることはない。


 それに、クエストに出る前、アイテムは何をいくつ持って行くか申告してあったのだ。聞いていなかったのは、プリーストちゃんの落ち度だと思う。

 そもそも、魔力枯渇寸前まで、後先考えずに魔法を打ちまくったプリーストちゃんが悪い。


 このようなことが、パーティーを変わっても何度かあり、どこへ行ってもわたしは魔力回復薬を持ち歩いていないこと――仲間に譲ろうとしないことを、ケチだ自分勝手だと責められ、「人よりちょっと魔力量が多いからっていい気になっている」と陰口を叩かれ、使えないからパーティーに入れるなと触れ回られた。


 以来、わたしはソロで採取と納品専門の冒険者としてやってきた。

 採取と納品に絞って依頼を受け、誰よりも高品質な薬を調合できるよう努力した。低レベル帯の採取依頼は安価だけれど、難しい調合をこなせるようになれば、単価が上がる。

 錬金術寄りの調合も試した。

 右目の恩寵や特殊な体質も相まって、中等部に上がるころには、下手にクエストに出るより稼げるようになっていた。

 採取専門・納品専門という冒険者は珍しいこともあって、それなりにお得意様もできて、割のいい依頼を受けられるようになった。

 安普請(やすぶしん)の狭いところだったけれど、工房(アトリエ)として使う部屋も借りられるようになって、さあこれからというタイミングで、辺境行きを命じられた。

 今となっては、辺境行き自体が罠だったのではないかとさえ思う。

 お父様は、お祖父様のお屋敷から連絡が来たと言っていたけれど、それも本当かどうかわからない。

 確かなのは、あのまま王都にいても、いずれイーリースお継母(かあ)様に殺されるだろうということだった。

ここまでお読みくださってありがとうございます。

よろしければ、下の方の☆☆☆☆☆☆を使った評価や、ブックマークをしていただけると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ