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188.枕投げしようぜ!

 わたしが少し考え込んでいた間に、残りの三人は部屋割りをどうするか相談していたようだった。

 前の宿のときは二人部屋しか空いていなかったから、レッドとわたし、リオンとクロスの組み合わせだった。

 レッドの看病が必要だったので、主人と奴隷が同待遇で同室であることや、主従とはいえ男女が同室なのは問題なのでは……とか常識的なことを言っている場合ではなかった。

 それを言ったら、そもそも二人きりで旅をして野宿もして、宿代を節約するために同じ部屋に泊まったことは何度もある。今さらである。


 レッドと二人だけでの旅の途中は、レッドが奴隷であることが上手く作用した。

 わたしとレッドで一部屋だけを取っても、奴隷は人として数えられないから、男女の二人旅でも誤解されることはない。寝台が一つでも、主人が寝台、奴隷は床というのが常識だからだ。誰も、それ以外の可能性を考えることはない。

 その上、奴隷用の大部屋などが用意されている宿では、宿泊料も安く済んだ。

 こちらの都合で奴隷扱いしたり、従者扱いしたりして、レッドには申し訳ないことだったけれど、レッドが自ら言い出したことだったし、反論できるほど路銀に余裕もなかったのだ。


 わたしは別に、またレッドと相部屋でも構わなかったし、一人部屋でもどちらでもよかった。

 一人部屋ならゆったりできるし、レッドと一緒なら安心して眠れる。彼の索敵能力は、わたしの魔法結界よりも優秀な場合が多い。

 野宿のときに交代で寝ずの番をしていても、わたしが張り巡らせていた魔法結界が人や獣の気配を感知するよりも早く、眠っていたレッドが飛び起きることがあって、何度驚かされたか知れない。


 そうこうしているうちに、三人の部屋割りは決まったらしい。

「俺たち三人は大部屋にするけど、アリアちゃんはどうする?」

「隣の部屋が空いているから、お前はそっちを使うといい」

「せっかく一人部屋が空いてるんだ。我慢して野郎と同じ部屋で寝起きすることねーよ」

 どうやら、わたしの部屋も勝手に決められているようだった。


「え……っと、わたしだけ仲間はずれ?」

 気を遣ってくれているのはわかる。

 わかるのだけれど……今さらこれはちょっと寂しい。

 全員が一人部屋を取れるのなら、わたしも一人部屋でいい。

 けれど、部屋数が足りないわけでもないのに、三人は示し合わせたように仲良く大部屋に集まって、わたしだけ別の部屋に追いやられるというのは、何か嫌なことを思い出しそうになる。

 寄宿学校でのあれこれは、こういう違和感から始まったのだ。

 正当な理由があって、抗議できない仲間はずれ──とか。

 気遣う振りをした別の何か──とか。


「あ、いや、仲間はずれにするつもりじゃなくて……。ただ、女の子は別室の方がいいかと……」

「うん。わかってる。冗談で言っただけよ」

 それでも一瞬、肝が冷えた。

 よほど、わたしが微妙な表情を見せていたのか、懸命に取り繕うリオン。

 そこに、クロスが被せるようにして言った。

「まさかお前(アリア)まで枕投げがしたいとか言うつもりじゃないだろうな」

 ──枕投げ?


「枕投げがしたいから大部屋にすると言い出したのは、リオンだ」

「いいだろ別に!」

「ガキかよ。レッドのほうがよほど大人だぞ」

「あ、いや、オレも面白そうだなって乗っかったクチだし」

 言われるほど分別あるわけじゃねーよ、と小さくなるレッド。


「だってクロスと二人旅じゃ、枕投げしたって面白くないだろ。他の冒険者と組んだときだって、大部屋が取れたことなんて全然なかったし!」

「大部屋はだいたい、大所帯のパーティーに押さえられているからな……」

「それにクロスは、一人部屋にしたら、絶対に徹夜で魔法書の書写をし続けるだろう?」


 あー、クロスならやりそう。

 そして“徹夜はしていない。3時間くらい寝た”とか言いそう。


 リオンがリーダー権限で徹夜禁止を言い渡すので、クロスが売り言葉に買い言葉で反論する。

「お前は枕投げをするために冒険者になったのか」

「そうじゃないけど、こういうのは旅の醍醐味だろ? せっかく、レッドもいるんだし」

 リオンが拗ねる。

 この人はなぜか時々、子供のような言動をする。

 門のところでわたしを庇ってくれた、格好いい騎士様風のリオンはどこに行ったのだろう。


「旅の醍醐味ってなあ……。その可笑しな知識をどこで得てきた」

「学院の研修旅行──に行った奴から聞いた」

「誰だリオンにアホなことを教えた庶民は……」

 クロスがため息を吐いた。


「みんなで大きな部屋に泊まって、枕投げをしたり、夜更けまで語り合ったり、こっそり抜け出して遊びに行ったり……そういうの、楽しそうで憧れてたんだ!」

 この集落では、抜け出すのはナシにしてほしい。

「枕投げをするなとは言わないが、」

「じゃあ、アリアちゃん審判やってよ!」

 クロスと言い合いをしていたリオンが、急に話の矛先をこちらを向けた。

「だからアリアを巻き込むなと言っているんだオレは! お前は女の顔に向かって物を投げつける気か!?」


 枕投げ、って審判が必要な競技だったかしら……?

ここまでお読みくださってありがとうございます。

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