185.ハーフエルフ問題①おさらい
「人間って、本当に嫌われているのね」
思わず呟いていた。
人間が獣人族にしてきたことを考えれば、それも当然かもしれないけれど。
「エルフ族も、人間を嫌いなのかな……?」
だとしたら悲しい。
「そうさなあ……獣人族もエルフ族も、ヒト族の全員が悪い奴だとは思っていないだろう。が、獣人族とエルフ族も一枚岩というわけではないからなァ。
亜人種同士でも、種族によって多少の対立があるんだよ。特にこの集落は、圧倒的に獣人のほうが多いから。お嬢さんも、亜人種だからといって、集落の中でも油断しないでくれよ」
「あ……はい」
これは絶対に、人間だとバレたら拙いことになるパターンだ。
……とはいえ、ハーフエルフ特有の虹彩異色がある以上、人間だと言い張ること自体に無理がある。
(言ったところで、人間の振りをしたがっている、痛々しい亜人種としか思われないでしょうね……)
*
わたしの目は、幼いころは両目とも薄紫色で、誰がどう見ても純粋なヒト族で、ハーフエルフの特徴なんて微塵もなかった。
お父様もお母様も、人間だった。
両目の色も耳のかたちも、完全に人間のそれであり、特別に魔法が得意ということも魔力が多いということもなかった。
わたしも自身も、自分が人間だということを、信じて疑わなかった。
──流行病にかかって、生死の淵を彷徨うまでは。
奇跡的に病から助かった後、全てが変わった。
わたしの右目は色が変わり、虹彩異色のハーフエルフのようになっていた。
その後はもう、下賎な亜人種としてしか扱われなかったから、右目を隠して「“人間の振りをしているハーフエルフ”の振りをしている人間」として生きてきた(ややこしい)。
けれど、お祖母様がエルフだったという話を聞いて、納得した。
わたしはの中には四分の一、エルフの血が流れていたのだ。
わたしが死の淵を彷徨っていたとき、駆けつけたお祖母様が、エルフ族に伝わる秘術を使って助けてくださったのだと聞いた。
そのときの病の後遺症なのか、お祖母様が施したという秘術の影響なのか、それとも一連の出来事がきっかけでお祖母様の血が発現したのか、その辺りのことはわからない。
わかっているのは、そのときから私の右目はお祖母様と同じ、深い紅玉色に変わってしまったということだ。
生まれてから、ほんの五年未満の歳月だったけれど、わたしは人間だったのだ。
人間として扱われ、ヴェルメイリオ家の令嬢として生きていた。
病をきっかけに、エルフの混血だったことがわかっても、急に切り替えることなんてできなかった。
屋敷の者たちの反応も、最初のころは“病のせいで、虹彩異色になってしまった可哀想なお嬢様”という扱いだったから、余計に状況が理解できなくて困惑した。
理解できたのは、自分の容姿が原因でお父様に嫌われたのだということだけだった。
だから今でも、わたしの中には“自分は人間である”という気持ちが残っている。
人間だけれど、虹彩異色のせいでハーフエルフと誤解されているだけなのだ、と。
でも、誰もそんな事情は理解してくれないから、人間の振りをしているハーフエルフの振りをした。
そして長じるにつれ、亜人種という種族が人間社会の中でどう思われているのか、学ぶことになった。
お父様がわたしを嫌った理由を──理解した。
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