表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

181/275

181.民泊

 再びイザークさんと、戻ってきたモントレーさんに案内されて、ぞろぞろと宿へ向かう。

 宿屋は、王都に立ち並ぶそれらとは違って、集落の中にあっても目立たない、普通の民家のような(たたず)まいだった。

 看板がなければ、知らない者にはまず区別がつかない。強いて違いを挙げるなら、他の民家より少し大きいというくらいだ。


(看板、小さくて可愛いなあ)

 手作りの看板に、思わずほっこりした。

 木を削って色を塗った素朴な看板は、ただし人目を引かない程度には小さい。

(亜人種の旅人しか泊まらないから、儲けようとは思っていないのかしら……?)


「待たせてすまなかったな。ここが集落で一番大きな宿屋だ。もちろん、宿代なんかいらねえよ。なんなら、移住してくれたって構わないぞ」

「こちらは、もともと先代の族長が住んでいた家だ」

 モントレーおじさんとイザークさんが説明してくれるので、疑問に思ったことを訊ねてみた。


「代替わりされたそうですが、先代の族長さんはどうされたのですか?」

「先代は、亡くなりました」

 と、イザークさん。

(えっ)

「安心してくれ、寿命だ。大往生だったし、宿として隅々まで改装してある」

 モントレーさんの答えにほっとした。

 建物の中で人が亡くなっていることがわかっている場合、誰がどういう亡くなり方をしたか、確かめておくのは大切なことだ。気にしない人は全く気にしないものだけれど、わたしは気にする。

(だって、私の右目は()えすぎてしまうから)


「ご愁傷様です。──宿は皆さんで改装を?」

 役場の家具や、宿の手作り看板から推測して、そう言った。

「ああ。集落の男衆は、家族で住むような家は自分たちで建てるぞ」

「まあ! それは凄いですね」

 モントレーさんが当たり前のことのように言うので、少し大袈裟に相槌を打っておいた。

 コミュニケーションの基本は、貴族のパーティーだろうと城下の町角だろうと同じである。たぶん、平原の集落でも変わらない。


 人を誉めるときは少し大袈裟に。

 あとは、どんなときも笑顔を忘れないこと。

 この二つは、お姉さんたちから教わった。


「それでは今の族長さん──ノアさんと奥様(ウランさん)はどちらにお住まいなのですか?」

 一番大きい家に族長が住んでいないなら、どこに住んでいるのだろう。

 普通は、領主や地方貴族など地位のある者は目立って大きな屋敷に住む。

 それがわかりやすい権力の象徴だからだ。

 逆に言えば、公爵家より伯爵家の屋敷が目立って大きくあってはならない。分をわきまえていることを示さなければならないのだ。

 資産として家屋敷が欲しければ、別荘や別邸として場所を変え、時には名義も変えて、細かく分割するという方法がある。

(……それをやったのが、ヴェルメイリオ伯爵家(うち)なんだけれどね)

 おかげで、実際にはどれくらいの資産があるか、外からは察しがつかないようになっている。

 だから噂では、公爵家に匹敵する財力と言われているけれど、あくまでも噂の域を出ることはない。


「ノア族長は、先代から族長と地位と供にこの家も譲り受けたが、夫婦二人には大きすぎると言って、別の家に移られた」

「で、この家を集落にとって有意義なことに活用しろというから、宿屋に改装したってわけだ」


 宿の管理を任されている、小柄な栗鼠(リス)族のご夫婦が出迎えてくれたので、挨拶を交わして宿の中へお邪魔する。

「全室貸し切りとなっておりますので、お部屋は好きな場所をお選びください。一人部屋から大部屋まで、各種取り揃えてございます」

「貸し切り……!?」

 宿の奥さんの言葉に驚いた。

 そこまでしていただかなくても、宿屋に泊めてもらえるだけでも十分なのに──と、わたしは思ったけれど、リオンもクロスも平然と受け入れているし、レッドも普通に嬉しそうにしている。

 特にリオンは、部屋が広いと喜んでいた。


「じゃ、また後で、宴の準備が整ったら呼びに来るから!」

 モントレーさんが栗鼠族のご夫婦に後のことを頼んで、忙しそうに去って行く。

あれ(モントレー)は気にするな。宴会芸の準備に奔走しているだけだ」

 歓迎の宴で、あの滑稽な寸劇を上演するのだろうか。

「イザークさんは、一緒にリハーサルに行かなくて大丈夫なのですか?」

 わたしがそう言うと、イザークさんが難しい顔をした。

「今回は歌と踊りがメインだ。寸劇はやらない……はずだ。たぶん」


 もしかして、わたしたちが素っ気ない態度を取ったから?

 ウケなかったから、演目から外すことにしたのだろうか。

(モントレーさん、ごめんなさい)

 心の中でそっと、門番のおじさんに謝った。

ここまでお読みくださってありがとうございます。

よろしければ、下の方の☆☆☆☆☆☆を使った評価や、ブックマークをしていただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ