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174.難しいこと/レッド視点

 リオンが巧みに盗賊?の三人から事情を聞き出した。

 彼らは亜人種狩りをシノギにしているわけではなく、近隣の村で盗みを働くケチな盗賊だったらしい。

 ダンジョン・シーフでもなく、盗賊団に所属しているわけでもない、ただの流れ者だった。


 こうなると、キレてわめき散らしたオレだけがバカみたいだ。

(実際バカだけどさっ)

 自分の頭が悪いのは自覚している。

 リオンみたいに、上手く脅して話を聞き出すなんて芸当はできない。

 クロスみたいに、魔法について詳しく語れるわけでもない。

(アリアの興味を引く話なんか、何一つできない……)


 オレにできるのは、命を張ることだけ。

 命を張って戦って、それでアリアが助かるなら、それが正しいことだと思っていた。

(──でも、)

 今はなんだか違うような気がしている。

 オレが戦って死んだ後、少しでもアリアが悲しんでくれたなら、それで十分だと思っていた。

(──でも、アリアが望んでいるのは、そういうことじゃないみたいだ)

 きっと、悲しんではくれない。

 このままでは、アリアの中にオレの記憶なんて何も残らない。

 このままでは、バカな奴隷が一人死んだだけで終わってしまう。


(従者になる、っていうのは難しいよな……)

 奴隷だったら、命令されたことを忠実にこなせば評価される。

 だが“従者”は?

 主人の望みを察しなければならない。

 アリアには“最期のときは一緒にいてほしい”──つまり“死ぬときは一緒に死んでほしい”と言われたが、それが本当の望みのはずがない。

(言われなくても、どこにでも付き従ってやるさ)


 だけど、それならアリアの本当の望みは何なのだろう。

 継母(ままはは)から命を狙われることも、義妹(いもうと)から嫌がらせをされることもなく、平穏に暮らすこと──?

 伯爵令嬢の立場を取り戻すこと──?

(やっぱり“アルトお兄様”と一緒に暮らしたいのかな……?)

 アリアは、実の母親とアルトという兄のことだけは悪く言わなかった。

 ──というか、今もアルトを助けるために行動している。

 実の父親と継母と、血の繋がらない妹のことは、特に悪く言うわけではないが、口に出すのも嫌そうだった。

 何かの拍子に話題が出たときには、まるで知らない他人のように、距離を置いた話し方をしていた。

 (ののし)(ののし)らない以前に、興味を向ける価値さえ無いという態度だった。


 あのときばかりは、アリアと“アイリス”が同一人物なのだと実感した。

 冷酷非情で通っているアイリスと同じ態度で、今アリアから突き放されたなら──出会ったときのように、ゴミを見るような目で見下されたなら──。

(……死にたい)

 確実に心が折れる自信がある。

 

 アリアは、オレを奴隷の身分から解放して、ヒト族のように“ 従者”にしたいらしいが、従者にしてどうするつもりなんだろう。

 ただ、呼び名が変わるだけだ。

 従者として周りの人間にも認められれば、供として一緒に行ける場所が増える。アリアが貴族としての生活に戻ったとしても、傍に置いてもらえるかもしれない。

 少しだけ、一緒に居られる時間が長くなるだろうが、それだけだ。


 どうせ、辺境の“お祖父様”とやらの屋敷で暮らすようになって貴族のお嬢様に戻ったら、すぐにオレの存在は必要なくなる。

 オレは、アリアが頼りない冒険者として、平民のように生活していたからこそ、必要とされた。

 刺客から守り、採取依頼の供をし、素材を収集するための戦力として。

 貴族に戻ればもう、冒険者として採取依頼を受けることもない。継母から刺客が差し向けられることもないかもしれない。

 他に危険があったとしても、もっと強い人間(ヒト族)が護衛に付くだろう。


 アリアのことだから、オレを奴隷の身分から解放すると言った約束だけは、必ず守ってくれるはず。

 けど、アリアの傍に居られないのなら、自由になったところで意味がない。

“今までありがとう。約束通り自由にしてあげるから、どこでも好きなところに行きなさい”

 いつか、そんなふうに言われるのではと考えると、恐怖で身がすくむ。

 そんなのは、オレにとっては死刑宣告に等しい。

 だから、いつかその日が来る前に、主人(アリア)を守って格好良く死んでしまいたかった。


 さっきも、何だかイラッとしてアリアに暴言を吐いてしまった。

 奴隷の分際で主人を罵倒するとか、あり得ない暴挙だ。

 盗賊団にいたときなら、立てなくなるまで袋叩きにされても文句は言えない。

 もっと普通の、商人や冒険者に雇われているときでも、鞭打ちや飯抜きなんかの罰は(まぬが)れない。


 一番恐ろしいのは、奴隷商会に苦情が入って、評定がマイナスまで下がることだ。

 使えないと判断されれば、完全に買い切りの商品として奴隷市で安売りされる。いわば欠陥商品の投げ売りだから、どんな奴に買われて、どんな目に遭うかわからない。

 奴隷商会を間に挟んだ契約奴隷でいるうちは、まだ“貴重な家畜”程度の扱いは見込める。

 無意味に虐待するようなことがあれば、商会が回収に来ることもあるのだ。死なない程度には目をかけてもらえる。

(それが幸運(いい)かどうかは別として、だ。生かさず殺さず、ってのが奴隷の上手い使い方だからな)

 その説で言うと、アリアは絶望的に奴隷の使い方が下手くそだった。

ここまでお読みくださってありがとうございます。

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