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【不遇令嬢はエルフになりたい】〜介護要員として辺境の祖父の屋敷で働くよう命じられたが、ざまぁする間もなく実家が没落した件〜  作者: 一富士 眞冬
第2章

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173.推理③/リオン視点

(この三兄弟が受けた依頼から、ある程度は関わっている人間を絞り込めるだろうが、決定打にはならないだろうな)

 引っ立てられていく盗賊三兄弟を見る。

 どうやら、留置所は集落の外の森らしい。

 捕らえたとはいえ、危険な人間を集落の中に入れないように徹底しているようだった。

 

 そもそも、なぜ罪を押しつける相手としてアリアが選ばれたのか──?

(もっと他に適当な人材がいそうなものだが……)

 陰謀や反逆の旗印にするなら、たかだか十六、七の少女より、年嵩(としかさ)の大人のほうが説得力が出るはずだ。

(いや、違うな……)

 本人の知らない間に罪を着せ、何が起こっているか気付かない内に罪人に仕立て上げて始末するのが目的なのか。

 

 だとしたら、本当の黒幕はアリアの存在を知っていたことになる。

 貴族令嬢でありながら、様々な理由から生家での立場が弱いことを知っていたのだ。 

 大罪を(なす)り付けても、釈明するだけの(権力)がないことを知っていたのだ。

 しかも、確かに寄宿学校に在籍していた記録があるため、身代わりとして急遽でっち上げた人物ではない、と言い張ることも容易だ。

(となると、寄宿学校(ローランド)の関係者も怪しいが──)

 アリアが寄宿学校に入れられる前の経緯からして、最も|ヴェルメイリオ伯爵夫人イーリースが怪しいように思える。


 ただ──ヴェルメイリオ家を乗っ取るために、先妻(フィレーナ)先妻の子供たち(アリアとアルト)が邪魔だというのはわかるが、そこから一気に国家反逆にも等しい重罪(亜人種取引)へと飛躍するものだろうか?

 家督乗っ取りと反逆では、罪の重さが違う。

 なおかつ、国家を転覆させたなら次の為政者が必要になる。

 イーリースは、その辺りをどう考え、誰を王に据えるつもりでいるのか。

(レナード?)

 いや、それはない。たかが伯爵風情の簒奪(さんだつ)では、周りが納得しない。

 イーリースが伯爵夫人の座では満足できず、王妃や女王の座を望むのなら、もっと高位の貴族に取り入っておかなければ、その後の政権が維持できない。

(そこまでの計略はない……?)

 どうも何かを見落としているような気がして仕方がない。


 念のため、協力者に寄宿学校(ローランド)も関係者も調べさせてはいるが、今のところ役に立ちそうな情報はない。

 むしろ聞こえてくるのは、アリアの義妹であるシャーリーンの話ばかりで、うんざりした。


 聞き込みに行った協力者たち曰く、アリアは義妹(シャーリーン)を虐め殺そうとしたために、寄宿学校に入れられたことになっているそうだ。

“いい気味よ! シャーリーン様を殺すところだったのですもの、死んで当然だわ!”

“あんな陰気な娘が姉だなんて、シャーリーン様がお気の毒よ!”

 女子生徒はこぞって、パーティーで会っただけの他校の生徒であるシャーリーンを、非の打ち所のない淑女のように持ち上げ、アリアをなじった。

(いったい、あいつらはどんな聞き込み方をしたんだ……)

 聞き込みの結果、死ねとまで言われるとは相当である。


 男子生徒たちに至っては、社交界の華と名高い令嬢に熱を上げ、同じ学内に在籍していたはずの、もう一人のヴェルメイリオ家の令嬢のことなど、欠片も覚えていないという始末だった。

 なんでも最近、シャーリーンの婚約が決まったことで、同年代の少年少女の間では、阿鼻叫喚の騒ぎになっているらしい。

 聞き込みに行って水を向けると、シャーリーンの婚約相手に嫉妬する男女と、身も世もなく泣き崩れる男どもという、異様な光景が繰り広げられるそうだ。

(異様、って……。呪いのアイテムでも使っているのか……?)

 協力者たちも、最後には辟易して聞き込みを切り上げざるを得なかったようだ。


 ごく稀に、アリアのことを覚えている者がいたとしても、たいした話は聞けなかった。

 話したくても、親しくなかったから話せる内容がないという者や、明らかに後ろめたいことがあるから話せないといった素振りで口をつぐむ者など、お世辞にもアリアに好意的な話は聞こえてこない。

(まあ、寄宿学校に入れられたとはいえ、学内で楽しく過ごしていたのなら、冒険者になろうとは思わないだろうな……)


 卒業後に生家に戻らないことを決意したとしても、貴族の女の子なら刺繍や裁縫などの手仕事や、音楽や美術などの芸術の才能、読み書き計算などの知識を活かして働き口を探そうとするものだろう。

(そういう話は、何度か小耳に挟んだことがある……)

 町の服飾店で働いている女の子が、実は下級貴族の令嬢だったり、宝飾店や絵画店の店員をしている女性が、実は平民に嫁いだ貴族だったり、ということは時々あるものだ。

 下級貴族でも広大な農地を所有している家の令嬢などは、実家に帰って嫁いだとしても、ほぼ就農と同じ結果になる者もいるらしいが、同じ泥臭い仕事でも農家と冒険者とでは違う。

 農家出身の田舎娘が冒険者を志すことはあっても、王都で教育を受けられるレベルの家柄の娘が、いきなり冒険者を目指すということは、まずないのだ。

(例外は、突出したスキルや才能を持つ者か、魔法学術研究都市(アレスニーア)出身の魔法使いくらいだろうな……)


 おそらくアリアは、寄宿学校の中でも異端だったのだろう。

 報告からは、学費以外の仕送りが一切なかった様子がうかがえる。

 平民の子女も在籍しているとはいえ、裕福な商家の子供が多いはずだ。その中で自由に使える金銭が一切ないのでは、周りに馴染めるはずもない。  

 亜人種(ハーフエルフ)のような瞳の色と、継母からの虐待、義妹の嫌がらせと、学内での孤立。

 帰る場所もなく、逃げることも許されず、ただ飼い殺しにされるだけの人生。

 そんな境遇から抜け出そうと、たった一人で足掻き続けて、ようやく見つけた居場所(アトリエ)だったというのに、それさえも奪われた。

 幾度となく命を狙われ、つまりは“死んでくれ”という呪いじみた執着を受け、大切な友人(レッド)までもを傷つけられたのだ。

(アリアちゃんは、もっと怒っていいと思う──!)

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