169.盗賊兄弟の証言/リオン視点
「で、何が知りたいんだ? 言っておくが、奴隷商人のツテならねえぞ。何度も言ったように、人攫いはやらねえ主義だ」
「それなら、どうして捕まっているんだい? 疑われる根拠があったか、現行犯なんだろう?」
俺は、隣の馬頭族の男を見た。
体格のいい、強面の男だ。
それが、槍を構えて立っている。
最初に声をかけた男は牛頭族で、これもまた体格が良く強面の上、水牛のような角がある。
周りを取り囲む獣人たちも皆、上背がある者や、小柄でも鋭い牙や爪を持つ風体の者ばかりだ。
かなり野生の風貌に近く、王都で暮らす獣人族のように、牙や爪、獣耳や尾を隠そうとする気配は毛頭ない。
捕らえた罪人を怖がらせるために、わざとそういう風貌の者で取り囲んでいるのかもしれない。
牛と馬の獣人が槍や棍棒を構えて立つ姿は、異国の宗教画にあった、死後の裁判風景のようでもある。
「まだ言ってやがる。お前らが、亜人種狩りの算段をしていたことは、お見通しなんだよ!」
馬頭族が、槍を盗賊の顔に突きつける。
「街道沿いの村で飯食いながら、ハーフエルフを狩る相談をしていただろう」
別の、人狼族らしい男が口を挟んだ。
半獣化していて、太い手足の先からは、鋭い爪が伸びていた。顔も獣寄りの人相になっているのか、むさ苦しい髭面だが、髭なのか被毛なのか微妙にわからない。
「ヒト族がどんなに小声で喋ったところで、獣人族の耳には筒抜けだぜ。偶然、村で行き会っちまったのが運の尽きだな!」
「近隣の村で盗みを繰り返していることも把握している。言い逃れはできないぞ」
「それは違う!」
盗賊の長兄が答えると、周囲から一斉に否定や反論の声が上がった。
「確かに盗みはやったが……ハーフエルフは家出娘だ。連れ戻して欲しいと頼まれただけだ」
またもや観衆から“そんなワケあるか!”“嘘を言うな!”と罵声が飛ぶが、無視して続けた。
「誰に頼まれた?」
「ギルドを通して依頼を受けた」
「裏ギルドだな?」
「そうだ」
「他には何か言われなかったか?」
「ツレは殺せ、と。それを聞いて、駆け落ちか何かで逃げた娘を、連れ戻したい親からの依頼だろうと思った。表ギルドに出ててもおかしくねえ軽い依頼だが、ワケありの親なら表ギルドには顔出せねえからな」
亜人種狩りの依頼なら、ハーフエルフを単体で指定することはない。
種族や容姿で個体を制限してしまうと、入手の困難さから仕入れ値が跳ね上がってしまう。
それに、仕入れの依頼ならば“連れ戻せ”という言い方もしない。
しかも“ツレを殺せ”と依頼してしまっては、同行者が獣人族だった場合、獲物の頭数が減ることになる。
奴隷商人は、そんな愚かな依頼はしない。
どこかの娼館が、足抜けした娼婦を連れ戻すためにの依頼なら、裏ギルドに“家出娘”などと余計な嘘を吐く必要はない。
つまり、裏ギルドに“ハーフエルフ”を捕らえるよう依頼した人物は、素人だ。
盗賊兄弟が、本当に家出娘を連れ帰るだけの依頼だと信じていたとしても、不思議はなかった。
「探しているハーフエルフの容姿は聞いているな」
「亜麻色の髪で左目が薄紫。十六、七の小柄な娘だ。右目は紅玉石のような赤だが、髪で隠しているかもしれない、とのことだった。ようやく、辺境行きの馬車に乗ったところまでは突き止めたってぇのに……」
ツイてねえ、と項垂れる盗賊。
「どうして人捜しなんて面倒な依頼を受けたんだ。盗賊向きの依頼なら、裏ギルドには他にもたくさんあるだろう?」
「手堅い依頼は地元の盗賊が掻っ攫っちまう。おれたち流れ者には、残りものしか回ってこねえよ」
盗賊稼業も大変だな。
だが、彼らが流れ者だというなら、いくらでも使いようはある。
「いいや、君たちはツイてるよ」
俺の言葉に“意味がわからない”と困惑した表情を見せる盗賊たち。
「俺の知り合いに紹介してやるから、しばらくそこで働くといい。役に立つとわかれば、執行猶予も付けてくれるだろう」
「保証はあるのか」
「俺は君たちを信用するよ。証拠はなくても、亜人種狩りではないという、君たちの言い分をね。だから俺のことも信じて欲しいな。仕事内容に関しては、二、三日中に案内の者を呼び寄せるから、そのときに確認してくれ」
「どうせ、危ねえ仕事なんだろ?」
「冒険者だって盗賊だって、危険な仕事には変わりないだろう? 少なくとも、鉱山には行かなくて済むし、流しの盗賊でいるよりマシであることは保証するよ」
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