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【不遇令嬢はエルフになりたい】〜介護要員として辺境の祖父の屋敷で働くよう命じられたが、ざまぁする間もなく実家が没落した件〜  作者: 一富士 眞冬
第2章

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167.獣人奴隷の末路/レッド視点

「残念だったね、キミたち。時期が悪かったよ。今、亜人種狩りの取り締まりが厳しくなっているのは知っているだろう?」

 リオンは、転がっている三人の側にしゃがみ込んで、丁寧に説明を始める。

 知っているだろうと問われた三人組は、勢いよく左右に首を振っていた。

 

「あれ、知らないの? 流れ者のくせに、意外と世事に(うと)いんだね」

 リオン話によると、以前は(人間の)奴隷狩りも亜人種狩りも、一括(ひとくく)りにして捕縛された土地で裁かれていたけど、今は王都まで護送された上、王権の(もと)で厳しく裁かれるのだという。

「それだけ重罪として認知されるようになったんだよ。王都にある高性能な鑑定石で、余罪まできっちり暴かれて、厳しい刑罰を言い渡されるだろうね。田舎の生温い裁きじゃ済まないよ。まあ、控えめに言っても、魔鉱山か砂漠での強制労働は確実かな」


「言ったろ! おれたちは亜人種も人間も狩ってねえ!!」

「おれたちは流し(・・)だ。現ナマか、すぐに現金化できる物しか盗らねえよ」

「弟たちが言った通りだ。三人では逃げ足の速い獣人を狩るのは骨が折れる。だから村を襲って金品を奪うことはあっても、奴隷狩りはやらねえ。人間も亜人も必要最小限しか殺してねえ」

 賊3が至極もっともらしいことを言っているが、そもそも少数でも殺している時点で問題である。

(っつーか、こいつら兄弟だったんか)


「うん。それも全部、鑑定魔法が暴くから心配いらないよ。殺した人数まで正確に把握できるから、魔鉱山での刑期もすぐに算出してくれる。まあ、亜人種狩りの上、殺しの余罪もあるなら、一生魔鉱山暮らしかもしれないけど」

「冗談じゃねえ! 魔鉱山なんか獣人どもの巣窟じゃねーかよ!」

「獣人でも死ぬような場所だぞ!?」

 賊1と賊2が文句を言う。

「亜人種狩りの人間(・・)が送り込まれたら、苦労するだろうねぇ」

「普通に死ぬわ!!」

「金属鉱山だって三日と保たねえよ!!」

 三兄弟が身をよじらせて、じたばたと抗議していた。


 醜い。

 

 魔鉱山の厳しい労働環境では、身体の丈夫な獣人族が主な労働力なのだ。

 契約奴隷として働かされている獣人がほとんどだが、中には犯罪奴隷の人間も混じっているらしい。

 そこでは、少数派の人間(ヒト族)のほうが圧倒的に立場が弱い。

 奴隷だが十分な働きを見せる獣人族と、脆弱なわりに態度が大きく、犯罪奴隷である人間(ヒト族)では、現場監督の人間も、同族を贔屓(ひいき)できないのだ。

 ムカついた。


「テメエらは、自分ら(ヒト族)が死ぬような(ひで)ぇ環境に、オレたち獣人族を送り込むのが仕事なんだろ! テメエらみたいな人間がいるからっ、獣人族の奴隷制度がなくならねえんだよ!!」

 オレは、気づいたら三兄弟の前に躍り出ていた。

「テメエらが獣人(オレたち)を送り込んだ場所を、しっかりその目で見てこいよ! 獣人がどんなふうに扱われるか、その身で体験してこいよ! 泣きごと抜かしてんじゃねーよ!!」

 オレが足を踏みならしながら怒鳴りつけると、周りの獣人たちから歓声が上がった。

 

 そうだそうだ! と口々に叫ぶ声と、野次と口笛の混じった拍手喝采が起きて、はっと我に返った。

(しまった。ここで目立ったらマズいのか!?)

 けど、どうしても言わずにはいられなかった。


 商会で一緒だった先輩奴隷が、何人も魔鉱山送りになっているのだ。

 契約期間満了まで働いて、生きて帰って来た者は少ない。

 帰って来た者も、みんな身体のどこかを傷めたり、失ったり、病をもらっていたりして、前のようには働けなくなっていた。


 奴隷商会では、どれだけ契約主の人間に気に入られるか、どれだけ使えるか(・・・・)よって評定が決まる。

 評定が下がるということは、もらえる給金も下がるということで、どんどん生活が苦しくなることを意味している。

 魔鉱山で労働の果てに死ぬか、戻ってきて貧困で死ぬかのどちらかなのだ。


 魔鉱山での重労働を言い渡される奴隷は、ほとんどが身体の大きい種族ばかりだから、人間やオレみたいな小柄な種族よりも体力があるけど、その分かなり多くの量を食べないと身体が保たない。

 馬や牛の獣人は、本物の馬や牛のようにたくさん食べるのだ。

 ぎりぎりの奴隷生活では、ただでさえ食べる物にも事欠くというのに、さらに給金を減らされれば、まともに食べていくことができなくなる。

 そうなれば、後は痩せ細った駄獣になって死ぬだけだ。


 兄ちゃんたち──オレが小さいころから世話になっていた先輩も、兄のように慕っていた同種族の先輩も、魔鉱山に行かされたきり帰ってこなかった。

 ケンカっ早くて鼻つまみ者だった先輩が、砂漠行きを命じられた後、人が変わったように大人しくなって、寮の奴隷仲間に泣きながら別れを告げていたのは驚いた。

(二度と戻れないことを知っていたからだ)


 何人かの兄ちゃんは、小さかったオレの代わりに何度も鉱山に行った。

 オレがダンジョン・シーフとして稼げるようになるまで、鉱山行きだけでなく、何度もキツい労働を肩代わりしてくれた。

 普通の金属鉱山だったから最初のうちは戻ってこれたけど、そのときの経験を買われ、最後には魔鉱山での採掘労働を命じられてしまった。


 読み書きを教えてくれた教育係のじいちゃんは、魔鉱山からは生きて戻れたけど、怪我の後遺症と病気のせいで働けなくなったと言っていた。

 その後、必死で読み書きを勉強して、商会で雑用や新人教育の仕事を得たのだという。遠くまで歩けなかったから、後年は一歩も商会の敷地から出なかった。

 数年後、病気が悪化して死んじまった。

 痩せ細った馬頭族の同輩が返品されてきて、商会で死んだのを見たこともある。

 栄養失調だった。


 全部、亜人種狩りの人間(こいつら)が悪い。

ここまでお読みくださってありがとうございます。

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