表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

166/275

166.面通し/レッド視点

 門を出て右側の人だかりは、まだそのままだった。

 輪の中心には、縛られた人間が三人転がされている。

 悪人面をした、ならず者臭がプンプンする男どもだ。

 手脚を縛った上に、特別太い縄を首にかけられ、地面に打った杭に繋がれている。

 獣人族が特別に野蛮なわけじゃない。

 人間が、捕まえた獣人にする扱い──首輪を付けて鎖につなぐ──と、同じことをされているだけた。同情の余地はない。

 

 リオンが、いつもの調子で近くの獣人に声をかける。

 相手が大きな牛頭(ごず)族でも、気負いも何もないのだから、逆にこっちが驚く。

「こいつらが、亜人種狩り?」

「うおっ!?」

 案の定、牛の獣人族である男が、すぐ近くに人間がいたことに驚いて声を上げる。


「前に立ち寄った村で、よく似た連中を見たよ。ケチな盗賊かと思ってたけど……」

「なんだこの人間、(こいつら)の仲間か?」

 牛頭族が答え、神経質そうな山羊(ゴート)族が(とげ)のある口調で割り込んできた。

「まさか。俺たちも、被害に遭うところだったんだよ」

 リオンの奴、上手い具合に敵意をそらしやがった。

「もし俺たちが見た奴らを捕まえてくれたのなら、この後も安心して旅を続けられると思ってね。もっと近付いて、よく見てもいいかい?」


 オレも呼ばれて、輪の中心部まで連れて行かれた。

 急に人間が現れたことと、その人間が猫族の獣人(オレ)を従えていることで、今度は別のざわめきが起きる。

 これでは、賊とオレたちのどちらが見世物かわからない。


 けれどリオンは、そんなことは意にも介さない。

 のほほんと賊のツラをおがんでいる。

「レッド、こいつら知ってる顔かい?」

「いや、知らねえ。オレも結構な数の盗賊団を渡り歩いたけど、こいつらの顔は見たことがない」

「新参者の可能性もあるだろう?」

「もっと若い奴ならともかく、こんなオッサンが三人そろって新参はあり得ねえよ。奴らはパーティーの中で派閥を作られるのを嫌うから、新入りは単独でしか取らねえ。三人そろっている時点で、どこかの古株なのは確定だよ」

「よく知ってるな」

「常識だよ」

「わかった。レッドがそう言うなら、亜人種狩り確定でいいな」

「それか、もっと性質(タチ)(わり)い“何か”だな」

 たとえば、盗賊の振りをしてオレたちの馬車を襲撃した連中──オレは、あいつらは盗賊崩れの殺し屋だったのではないかと思っている。盗賊団から追い出された、野良の盗賊だと。


 リオンは、三人の男を小突き回して尋問していた馬頭(めず)族の男に声をかけた。

「尋問ご苦労さん。こいつら、オレたちが見た盗賊とは違うみたいだ。亜人種狩りとして突き出したらいいよ」

「もちろんだ。だが、まずは取引相手を吐かせてからだ」

「へえ、まだ吐かないんだ?」

 男どものくたびれ具合からみて、オレたちが村に到着するかなり前から、尋問が行われているのは間違いない。

 山のような体躯の牛頭(ごず)族と馬頭(めず)族の男二人からにらまれ、槍で小突き回されても音を上げない盗賊モドキも、なかなか根性が座っている。


 馬頭族が言う。

「こいつら、自分たちは流しの盗賊であって、亜人種狩りではないと言い張って、取引相手も依頼主も、何も吐きやがらねえ」

「当たり前だ! おれたちは人攫(ひとさら)いはやらねえ!」

「ああ。村を襲って金品を強奪することはあるが、」

 賊1と賊2がわめきだした。

「うるせえ! それも十分に重罪だろうが!!」

 馬頭族が、賊2が喋り終わる前に殴りつけた。


「まあまあ、落ち着いて。そんなに殴ったら、喋りたくても喋れなくなるって」

 リオンは、続けて二、三発見舞おうとしている尋問係の馬頭族をなだめて、振り上げた手を止めさせた。

「ああン?」

 なんか文句あるのか、と今度はリオンに矛先が向く。

「殴るなら、顔や頭はやめておこうか」

 上から見下ろして凄む獣人に、ひるむことなく意見を言うリオン。

「歯が折れたり、舌を切ったりして、喉に詰まらせると死んじゃうからね。頭も、即死する危険性があるからやめたほうがいいよ。──あ、殺す気でやるなら止めないけど。殴るなら、腹がスネ辺りがオススメだね。膝を砕くのもあり(・・)かな」

 にっこり笑って恐ろしいことを言うリオンに、今度は尋問係がドン引きした。


 でも不思議なことに、それで見物している獣人族たちの敵意が消えた。

 一瞬、周りの獣人族全員の敵意(ヘイト)を集めかけたリオンに、オレは肝が冷えた思いだった。

 乱闘でも発生したら、両方をなだめるなんて器用な真似は、オレにはできない。


「君の力なら、その槍の石突きでちょっと突いてやれば、膝の皿なんか粉々だろうね」

 今まで、おれたちは人攫いはやらねえ! とわめいていた男たちが、急に静かになった。


 まあ、奴らの言い分もわからなくはない。

 盗賊だろうと奴隷狩りだろうと、連中にも縄張りがあり、棲み分けがある。

 他人の縄張りで大きな仕事をすれば、無事にその村や町から出してはもらえないだろう。こそ泥まがいの押し込み(・・・・)か、辻強盗くらいまでがせいぜいだ。

 だからこの国もギルドも、よそ者の牽制を兼ねて盗賊(シーフ)ギルドの設営を許している。

 全員がダンジョン探索を専門にしないシーフの集団であっても、見て見ぬ振りをしているのだ。

 

 こいつらが流れ者であり、拠点を持たないのなら、人や動物を連れ歩くのは面倒が多い。戦利品を捌くにもツテがいる。流れ者には難しいはずだ。

(ま、オレにはどっちでもいいけど)

 盗賊なんかやってりゃ、捕まったときに冤罪の一つや二つ、盛られるのはよくある。そのほうが()が付くなんて豪語した“ 雇い主”までいたくらいだ。

(そういう業界だから、仕方ねえよな)

ここまでお読みくださってありがとうございます。

よろしければ、下の方の☆☆☆☆☆☆を使った評価や、ブックマークをしていただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ