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【不遇令嬢はエルフになりたい】〜介護要員として辺境の祖父の屋敷で働くよう命じられたが、ざまぁする間もなく実家が没落した件〜  作者: 一富士 眞冬
第2章

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163.ダンジョン置き去り事件③

 上級治癒魔法が使えるようになったのは、ダンジョンを出る寸前だった。

 ノアさんとジャックさんに付いてダンジョンを移動するうちに、(はか)らずもパワーレベリングをさせてもらった。

 臨時でパーティーを組んでいたおかげで、二人が倒した魔物の経験値が入り、急速にレベルアップしたのだ。

 

 中級治癒魔法は重傷を治せる。

 けれど、欠損までは再生させられない。

 千切れたばかりの指くらいなら、すぐに治療すればくっつくかもしれないけれど、古傷になってしまった怪我は治らない。

 千切れたばかりでも、その部位がきれいな状態で残っていない場合は難しい。魔物に食い千切られて飲み込まれてしまったり、魔物と一緒に谷底へ落ちていった──となると、どうにもならないのだ。


 シアンのいつ千切れたかわからない長耳は、すっかり古傷になっていて、最初のうちは治せなかった。

 体中の火傷は治せたけれど、欠けた耳だけは治せなかったのだ。

 ダンジョンを出る前に上級治癒魔法が使えるようになったのは、奇跡的な幸運だった。


 ダンジョンの外では、あまり大きな治癒魔法を使うと違法行為になってしまう。

 治療行為は、王立教会の管轄である治療院の専売特許で、取り締まりが厳しい。

 家族や仲間内で、かすり傷を治す程度の初級治癒魔法なら大目に見てもらえるけれど、耳の先とは言え、さすがに欠損部位の再生は(まず)い。

 

 ダンジョンを出て分かれた後ならば、お互い再会することが難しいだろう。

 シアンもわたしも、結局は逃げ隠れしながら暮らさなければならない。そして互いに、互いを探し出せるような情報網も連絡手段も持ってはいない。

 運良く再会できてシアンの耳を治療することができたとしても、千切れていた耳が急に治ったなら、誰が治したのかという話になる。

 追求されれば、誤魔化し切れない。


 でも、ダンジョン内や依頼(クエスト)の受託中なら話は別だ。

 たとえ瀕死の人間を全快させるような大魔法を使っても、誰にも文句は言われない。

 わたしはシアンの欠けていた長耳を、上級治癒魔法でもって再生させた。

 そしてダンジョンを出た後、シアンはノアさんとジャックさんに連れられて、彼らの故郷だという亜人種が(つど)う村に向かったのだ。

(その村がこの集落のことだったのね……)

 なにしろ、あれからノアさんとジャックさんには一度きりしか会っていないし、正確な場所も聞いていなかったのだ。


 ダンジョンで出会った少年エルフは、会ったばかりのころのレッドよりも小柄で痩せていて、弱々しかった。

 最初はレッドも、まともに食べていないのが見てわかるほど細かったけれど、それは種族特性もあったのだろう。痩せぎすであっても、驚くほど元気で食欲もあった。

(食欲は今もだけれど)

 シアンはエルフだから本当の年齢はわからないけれど、見た目は六、七歳くらいの人間の子供と同じだった。

 典型的な真正エルフの容姿をしていて、金髪碧眼の美少年だった。

(あれから三年経つけれど、少しは大きくなったかしら……?)

 長耳が元通りに治ったのだから、今では真正エルフとして村に馴染んでいるだろうか。同族には受け入れてもらえただろうか。

 当時は泣き虫で気弱な印象しかなかったけれど、少しは明るく元気になっただろうか。親しい友達はできただろうか。

 弟のような存在だっただけに、心配は尽きない。


 一度はシアンと姉弟として、このような小さな村で人知れず暮らすことを夢見た。

 わたしはハーフエルフの容姿をしていたし、シアンは真正エルフだったから、目や髪の色が違っていても異母姉弟(きょうだい)で通用しただろう。

 シャーリーンなんかよりも、よっぽど可愛らしかった。

 一緒に知らない村まで逃げ延びて、姉弟として新しく人生をやり直せたらいいのに──と思ったものだ。

(ダンジョンから出た後、このままシアンとノアさんたちに付いて行って、全てを放り出してしまおうか……と一瞬だけ本当に考えた)

 獣人族は、基本的に魔法や魔力に頼らない。頼るのは主に腕力とスキルであり、自己の身体能力だと聞く。

 ならば属性魔法が使えないわたしでも、蔑まれず普通に暮らせるのではないかと──一瞬だけ、夢を見たのだ。


 実際は、そんなことできなかったけれど。

 わたしが寄宿学校(ローランド)に戻らなかったら、逃げたと思われ探される。

 探す理由は、見つけ出して殺すために決まっている。

 寄宿学校(監獄)の中で飼い殺しになっていれば、イーリースお継母様の溜飲(りゅういん)も下がろうというものだけれど、籠の鳥が逃げ出したとなれば、いくらでも事故死させる口実を見つけられる。

(そして、わたしを首尾よく死に(いた)らしめたら、次がアルトお兄様の番なのはわかりきっていた)

 だから、殺されてあげるわけにはいかなかった。

 監獄(寄宿学校)に戻って、自由になる機会をうかがうしかなかったのだ。


 あのころは、まだ何の()てもなく、冒険者になって身に付けた無属性魔法もたいした力を持っていなかった。

 最終手段として、イーリース(あの女)とシャーリーンを毒殺することも考えたけれど、それさえも難しかったのだ。迂闊(うかつ)な方法を取って、わたしの犯行だとバレてしまえば、お兄様の進退とヴェルメイリオ家の存続に関わる。

 わたしの存在は系譜から抹消されていただろうけれど、勝手な都合でそうされただけだ。

 それに、寄宿学校(ローランド)ではヴェルメイリオの姓を名乗っていた。分家か末端の遠戚の、私生児のような扱い状態だったのだ。

 お父様やお兄様の失脚を狙う者がいたら、再び勝手な都合で血族と見なされ、犯罪者を出した一族として排斥される。

(それに……お兄様には、わたしがイーリースお継母(かあ)様たちを殺したことを知られたくなかった)

 そんな甘えたことを言っているうちに、やがてお父様から辺境行きを命じられ、今日(こんにち)に至ったというわけだった。

ここまでお読みくださってありがとうございます。

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