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16.追放

「アリアの祖母(ばあ)ちゃん、エルフだったのか……」

「そう聞いているわ。会ったこともないし、よく知らないのだけれど」

「ってことは、おやじさんがハーフエルフってことか。――あれ?」


 さっき、両親はヒト族(人間)だって言ってなかったか?


 そう問いかけたいのだろう。

 レッドは少し混乱した様子だった。


 実は、その辺りの詳しい事情はわたしにもよくわからない。

 わたしは、正確にはエルフと人間のクォーターということになるのだけれど――わたしが知る限り、お父様はどう見ても“人間”だった。


(しかも、とても“人間”らしく、亜人種を(さげす)む人だった)


 だからこそ貿易、魔道具の流通・開発、金融などの主立った事業だけでなく、公には禁止されている亜人種奴隷の売買にも投資していた。

 わたしはアイリスとして城下町で活動していたときに、偶然、その事実を知ってしまったのだ。

 暴力を受けていたレッドを放っておけなかったのも、お父様が関与した事業の犠牲者かもしれない――と思ったとまでは言わないけれど、お父様のことが微塵も頭に浮かばなかったと言うと嘘になる。


 わたしがハーフエルフだというのなら、レナードお父様は実の父親ではないことになる。

 わたしは、お母様が他所(よそ)のエルフとの間に(もう)けた子だったのかもしれない――そう考えたこともある。

 ならば、フィレーナお母様がお祖母様のことを「父方のお祖母様」と言った理由も説明がつく気がした。

 ヴェルメイリオ家とは全く関係のないエルフの血筋の、という意味だ。


(でもなぜか、わたしにはお父様から(いつく)しまれていた記憶がある……)


 流行病にかかる前のことだ。

 手をつないで散歩――だったのだろうか、一緒に歩いた記憶がある。

 わたしは刺繍の入ったお気に入りのサンダルを履いて、お父様に手を引かれてよちよちと歩いていた。

 お母様のドレスとお揃いの生地でできたワンピース――思い出として大事にしまってあったが、シャーリーンに破かれた――それを褒めてもらった記憶もある。

 膝の上に抱き上げてもらった記憶も、馬に乗せてもらって一緒に遠出した記憶もある。


 わたしがお母様の不義(ふぎ)の末に生まれた子なら、そんなふうに優しく接するだろうか?

 生まれた年には、盛大な誕生パーティーも開かれていたらしい。

 記念に作らせたというアクセサリーの話も聞いた。


 これはお母様が病床に()いてから聞いた話で、お父様の記憶よりも後――五歳か六歳のころの記憶だから、かなり確かだ。

 実際に、そのアクセサリーを見たこともある。

 指輪とネックレスのセットだった。

 指輪は本当に記念品として作られた赤ちゃんサイズのもので、長じてからはネックレスのトップとして使えるようにデザインされた、愛らしい雰囲気のものだった。


(――それも結局、シャーリーンに盗られたけれど)


 お母様が独断でアクセサリーを注文したとは思えないから、そのころのお父様はまだ、わたしが生まれたことを喜んでくれていたのだろう。

 態度が変わったタイミングからして、わたしの出自よりも、大病の後にわたしの容姿が変わってしまったことが原因だろう。


 はっきりと、亜人種として拒絶された。


 そしてやがて、フィレーナお母様が亡くなり、イーリースお継母(かあ)様とシャーリーンがやってきた。

 シャーリーンは、子供のころから我が侭だった。

 イーリースお継母(かあ)様は野心家だった。

 わたしは寄宿学校に入れられ、(てい)よく厄介払いされた。

 社交界の人々は、伯爵家にわたしという娘がいたことさえ忘れ去っただろう。

 世間では、ヴェルメイリオ伯爵家の令嬢はシャーリーンのみだと思われている。

 わたしとシャーリーンが入れ替わったところで「令息()が一人」「令嬢()が一人」という嫡子の構成が変わらないせいで、違和感なく受け入れられたのだ。


「――わたしたちが向かっているのは、そのお祖母様のお屋敷よ。お祖父様が体調を崩されたから、介護が必要なのですって」


 悪いけれど、レッドが疑問に思っているだろうハーフエルフ云々(うんぬん)の話はスルーさせてもらった。

 遅れて表れた隔世遺伝なのか、お祖母様が使ったという魔法の影響なのか、それとも単に大病が原因なのか、わたしにもわからないので説明ができない。

 対外的には、ハーフエルフだけれど、出自は訳ありでごにょごにょ……と誤魔化している。


 あの日、急に寄宿学校から呼び戻され、執務室で散々待たされた末に聞かされた話は、愚痴交じりの追放宣言であり、少なくとも息子が実の父親を心配するような台詞ではなかった。


「あの冒険者崩れ(クソジジイ)がまた何かやらかしたらしくてな、向こうの家令(かれい)から連絡が来た」


 お祖父様が冒険者だったとは初耳である。


「あれでも俺の父親だからな。手伝いくらいは差し向けてやるかと思っていたが――ちょうどいい、お前が行け。亜人と異端者は、仲良く辺境の荒れ地で暮らすがいい」

 とか、

親父(アイツ)が死んでも知らせは無用だ。お前も戻ってこなくていい。今後一切、この屋敷には出入りするな。ローランドの学籍も抹消しておく」

 とも言っていたけれど、つまりは勘当――厄介払いの究極の形態なのだろう。


 数年ぶりに聞いたお父様の言葉は、要約すると「もう面倒は見ないから出て行け」と、そういうことだった。

ここまでお読みくださってありがとうございます。

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