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【不遇令嬢はエルフになりたい】〜介護要員として辺境の祖父の屋敷で働くよう命じられたが、ざまぁする間もなく実家が没落した件〜  作者: 一富士 眞冬
第2章

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155.君の名は③騎士様の物語

「剣士の兄さんにそこまで言われちまったら、仕方がねえ。嬢ちゃんに名前を聞くのは(あきら)めるよ。変質者呼ばわりされて引っ(ぱた)かれるよりゃ、マシだ」


 一触即発の雰囲気になったのは一瞬だけで、最後にはリオンの主張通り、獣人族のおじさんの側が折れてくれた。

 リオンの勝ちである。

 勝ち負けではないかもしれないし、原因のわたしが単純に喜んでいいのか、よくわからないけれど、とにかく平和的に解決した。

 誰も剣を抜かず、魔力で威嚇することもなく、槍を向けられることもなく、平和的に解決したのである。


 そこまでの課程では、言い争いにさえならなかった。

 話術だけで穏便に解決してしまったリオンには、ほとほと感服してしまう。

 終始、リオンの口調は温和なのだった。

 正論を展開していても、決して押しつけがましくなく、高圧的にもならない。

 獣人族を下に見ることもなく、あくまでも対等に話すから、獣人さんも敵対する口実が見つからなかったのだ。


(たぶんクロスなら、舌鋒鋭く獣人さんたちをやり込めているでしょうね……)

 同じように剣も魔力も使わずに解決したとしても、結果は違っていただろう。

 クロスは、亜人種が賤民扱いされている事実には、あまり興味がないようなのだ。かといって、魔力量や属性で貴賤を分けているのでもない。

 対等な立場に立った上で、淡々と事実と正論を突きつけて、獣人さんたちに反論の隙を与えなかったに違いない。


 イザークさんは、族長からの人探しの命令を遂行できなくて不満そうだったけれど、先輩格である茶耳さんに(いさ)められ、吠えるのをやめた。

 噛みついては来ないけれど、恨めしそうにじっとこちらを見つめてくるので、居心地が悪くなったわたしは、リオンの陰に隠れるように移動した。

 レッドも、わたしを庇う位置に立ちはだかってくれているのだけれど、上背が違うので、リオンの背中のほうが隠れやすかったのだ。


(正義感……なのかな)

 わたしの尊厳を守ろうとしてくれた……と思ってしまうのは、少し(おご)りが過ぎるかもしれない。

(追っ手持ちであるのは事実だから、強めに警戒した結果……だよね)

 あとは、愛玩用の亜人種奴隷を買うような男だと思われたくなかった──のかもしれない。

 獣人さんが折れてくれたのも、リオンのように亜人種への差別意識が薄く、むしろ理解がありそうな貴重な人間(ヒト族)を、敵に回したくないという気持ちもあったのかもしれない。

 本当のことはわからないけれど、とりあえず穏便に収まった。


 ただし、何かあったらリオンが全ての責任を被ることになる。

 わたし(・・・)を保証したのはリオンだから、わたしが冤罪か何かで捕まれば、連帯責任や共犯というかたちで、リオンもこの集落の人たちも一蓮托生(いちれんたくしょう)となってしまう。

 イーリースお継母(かあ)様の罠にはまれば、十中八九、冤罪(えんざい)で処刑される。──さすがに断頭台(ギロチン)にかけられたら、死なずにいられる自信はない。

 集落は犯罪者を匿った罪で解体され、獣人は全員、奴隷として捕まるだろう。

 追っ手に捕まって殺されれば、冤罪は免れても、見つかって追いつかれている時点で、リオンと集落の巻き添えが確定する。

 リオンは一介の冒険者として捨て置かれたとしても、集落の獣人は口実をつけて狩られるだろう。そうすれば、わたしを保証したリオンは獣人族から恨まれる。


 そんなリスクを負ってまで守る価値が、わたしにはあるのだろうか──?

 

 リオンには、旅の途中で知り合っただけの、明らかにワケありの少女──しかもハーフエルフもどきを、剣に()けてまで守る義務はない。 

 そこまでしてもらうような、特別な関係ではないのだ。

 

(わたしは“騎士様”が剣に誓って守るほど、価値ある存在ではないのよ……)

 秘匿すべき化け物と呼ばれ、伯爵家から(てい)よく追放された身だ。

 女の子なら、誰もが憧れる“騎士様”みたいな男性に、剣に懸けてまで守ってもらえるような“お姫様”ではない。

(もはや貴族令嬢でさえないのに……)


 お父様もイーリースお継母(かあ)様も、とっくにヴェルメイリオ家の家系図から、わたしの存在を抹消しただろう。

 家族の肖像は、わたしが寄宿学校(ローランド)から一時帰宅したときにはすでに、シャーリーンの姿絵と入れ替えられていた。

(だって、貴族の家に生まれながら、亜人種(ハーフエルフ)同然の容姿をしているなんて、あってはならないことだもの)

 

 リオンは、栗毛の馬に乗る冒険者であり、ジョブは剣士だ。属性は水で、剣士にしては器用に魔法を使うけれど、物語に出てくるような白馬の王子様でもなければ、騎士様でもない。

 (くす)んだ金髪には、しょっちゅう寝癖がついているし、二枚目というよりは二、五枚目というほうが相応しい。

 それでいて、リオンは十分に“騎士様”の要件を満たしていた。物語やお芝居の中で、お姫様(ヒロイン)を助ける役の“騎士様”である。

ここまでお読みくださってありがとうございます。

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