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141.攻防②

 何が起きたかというと、クロスが「焼き尽くせ」と放った風と火の混合魔法が、跳ね返されたのだ。

「チクショウ、反射(リフレクト)された」

 額から流れる血が目に入りそうになるため、何度も右手で眉間の辺りを拭いながら言うクロス。

 こちらも防御魔法を展開していたから、致命傷は負わなくて済んでいるけれど、精神的には酷いダメージだ。


「クロス、治癒魔法を」

 わたしは急いで治療しようと魔力を練った。

 するとクロスが、手間取りながらも左手の篭手を外そうとした。

「待て」

「外さなくても治癒魔法は機能するわよ?」

「だから言っている」


 まどろっこしいので、クロスの左腕から防具を引き剥がすのを手伝ってあげた。

「この状態で機能されたら困るだろう」

 亀裂の入った篭手の内側で、仕込んであった杖が折れて破片が肉に突き刺さっていた。

 確かにこの状態で治癒魔法をかけたら、杖の破片が腕の中に入ったまま、傷口が塞がってしまう可能性がある。


「……全く、この杖を切り詰めて仕込むのに、どれだけ苦労したと思っている」

 そもそも普通の魔法使いは、命の次に大事な魔法の杖を切り詰めたりはしない。それをやるのは、裏稼業に足を突っ込んだ“普通ではない”魔法使いだと聞いたことがある。


 クロスが忌々しげに吐き捨てて、指先で破片を引き抜いた。途端に出血量が増える。

「調子に乗るなよ、王家の飼い犬め。杖がなければ魔法が使えないと思ったら、大間違いだぞ」

 ゆらり、とクロスから魔力の陽炎(かげろう)が立ち上る。

 この濃密な強い魔力は、わたしの右目だけが捉えているものではなく、リオンとレッドにも見えているのだろう。リオンが慌ててクロスに駆け寄って、落ち着けと言い聞かせていた。


「リオンうるさい。オレは落ち着いている」

「アリアちゃん! 治癒魔法!」

「はい!」

 リオンに言われて、中断していた治癒魔法をクロスに掛け直した。

「怪我の一つや二つで、頭に血が上ったと思われるのは心外だ。──が、感謝する。これで両手が使える」


 クロスは傷が塞がるや否や、魔法結界を二重に展開した。

 直後に、間断なく浴びせられる礫弾魔法の嵐。

 けれど新しい魔法結界は、立て続けに浴びせかけられた魔法攻撃を一つ残らず防ぎ切った。


 一瞬だけ浮かび上がった魔法陣の中に、古代語でも古代魔法語(ルーン)でもない異国の文字が混ざっていた。

 手元は、見たことのない異国風の印を結んでいる。

(おとぎ話だと思っていたけれど……)


 古い文献には、杖を必要とせず、手指で印を結ぶことによって術式を完成させる魔法があると書いてあった。

 ただ、聞いたこともない荒唐無稽な話であったし、挿絵まで入っていたから、伝説や神話から派生した作り話だと思っていたのだ。

 まさか、実際に存在するとは思わなかった……。


 土魔法の(つぶて)を、雨粒のように軽く弾き切ったけれど、魔法結界には傷一つ付いていない。

 杖なし、詠唱なしで、クロスはそれをやってのけたのだ。

「すごい……!」

 わたしが拍手喝采していると、眼前の地面が盛り上がり、幾本もの槍を形成しだした。

 そして土魔法で形作られた槍は、次々に魔装兵に向かって射出される。

「アースランス!」

 連弾に継ぐ連弾。大地ある限り、クロスの攻撃魔法は途絶えることがない。

 おびただしい量の(アースランス)の弾幕だった。


 見ていたリオンが、明らかにホッとしていた。

「人死には嫌だからね」

「即死魔法でも使うと思ったか?」

 クロスが土魔法で(ランス)を撃ち出しながら、片手間に応える。

「あんな燃費の悪い魔法、たかが人間相手に使うかよ。息の根を止めるなら、土魔法の投石で頭を潰すだけで十分だろ」

 それはそれでどうなのだ、という発言ではあるものの、単純な属性魔法による攻撃なら、相手も何かしらの防御が可能だ。

 もちろん重傷は負うだろうけれど、生きてさえいれば魔法で回復することもできる。

 ──わたしたちは、人殺しにならなくて済む。


 毒薬使いであり、致死性の毒魔法を使うわたしが言うのもおかしな話だけれど、やはり余計な人殺しはしないに超したことはない。

 何より、わたしを狙っている追っ手のせいで、無関係のクロスとリオンに殺しの罪を負わせたくはない。

 たとえ、使われるのがわたしの魔力だとしても。

(それに、国防の要(魔装兵団員)の命を奪ったとなれば、指名手配されかねない気が……)

 盗賊を返り討ちにするのと違い、言いがかりをつけられた末に無実の罪に問われそうだ。

ここまでお読みくださってありがとうございます。

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