121.怪鳥/クロス視点
「なんだよ!? 今の!?」
レッドが、初めて見る魔物だと言って興奮気味に叫んでいる。
「あんなの、ダンジョンでも見たことねえよ!!」
「あれは開けた場所にしか棲息していない。ダンジョンのような、天井のある場所では見られない魔物だ」
「魔物なのか? オオガラスの仲間じゃねえのかよっ!?」
オオガラスは、王都近郊の小さな森でもよく見かける魔獣で、いわゆる巨大なカラスだ。
「オオガラスに似ているが、魔物認定されている怪鳥だ。七色ワタリといって──」
奴が飛来するタイミングに合わせて、再度、風魔法を放つ。
「エアロブレイド!」
単体攻撃の上級魔法──を五割程度の魔力で打ち出した。
魔力消費の少ない中級魔法を高出力で連発するより、上位魔法一発でキメたほうが結果的に魔力消費が少なくて済む。
ひよっこ魔法使いが低級魔法を連発して倒すか、ベテランが上級魔法一発で仕留めるか、のような違いだ。さらに言うなら、即死させる必要はない。翼を切り裂いて墜落させるだけなら、五割の出力で十分だということだ。
エアロカッターではなくブレイド系を使ったのは、魔法の種類によって斬撃の質が違うためだ。同じ風魔法でも、より鋭い刃物で斬りつけたほうが、費用対効果が高い。
エアロブレイドで奴の翼が半分抉れた。
比喩ではなく大量の血の雨が降る。
リオンとレッドが乗った馬が走り出て、地上でバタつく怪鳥に向かって突撃した。
「あいつらは、魔法を使うから怪鳥と呼ばれていて、被毛の色に応じた属性の魔法を使う……って、もう聞いてないな」
レッドの疑問に答えてみたが、全て聞く前にリオンと一緒に怪鳥に突撃していった。
「アリア、大丈夫か?」
血の雨をマントと魔法で払い除けつつ、アリアに声をかけると「うん……」と言葉少なに返事があった。
奴が地上に落ちたからには、後は剣士の仕事である。
手持ち無沙汰になったので、解説の続きをアリアに話してみた。
「怪鳥ワタリの生態はよくわかっていないが、開けた場所ならどこにでも出没する。ある意味、生息域が固定しているハルピュイアよりも厄介だ。あいつらは雑食のオオガラスと違って、魔力を多く含んだ大型の獲物を主食にしている」
「それって馬と魔法使い、美味しそうなご飯だと思われてるってこと?」
アリアが少し頭を上げて返事をした。
「そういうことだ」
頭の回転が早い、よくできた弟子だ。
突然、見たこともない大型の魔物が出現した割には、しっかりしている。返答する余裕があるのなら大丈夫だろう。
冒険者になりたての魔法使いなど、いくら属性魔法が使えたところで、巨大な魔物を目の前にすれば、怯えて動けなくなる者が大半だ。
それを思えば、アリアは立派と言えた。
怪鳥は落下し、地上で無様に土埃を立てている。
ここからは時間との勝負だ。奴が魔法を使い出す前に仕留めないと、こちらへの被害が大きくなる。
ワタリが厄介なのは、魔法を放つ際の予備動作が普通の羽ばたき攻撃と区別がつかないことだ。
その上、長引けば他の魔物に嗅ぎつけられ、取り囲まれる。
前方では、リオンたちに向かって怪鳥の羽ばたきが炸裂していた。
羽ばたく度に、鋭利な羽が飛び散って攻撃と化す。
飛び道具による遠距離攻撃と同じだが、その程度ではリオンには通じない。リオンは羽の刃を全て、剣を振るって叩き落とした。
リオンの背に張り付いているレッドには、羽の刃が当たることはないが、時偶あらぬ方向から流れ飛んでくる羽を、自身でも器用に短剣で叩き落としていた。
ちなみに短剣は、護身用としてリオンが貸したものだ。
この様子なら、防御魔法を掛けるまでもない。何度かリオンが斬り付けると、奴は徐々に弱って動かなくなった。
「こいつ、硬いな!」
飛び散る羽を避けながら、怪鳥の側を馬で走り抜けるリオンが愚痴っている。
七色ワタリは本来、群れで行動する。それが単体でも存在しているということは、それだけ老獪な個体だということだ。
「強化魔法要るかー?」
オレも、先ほどのお返しとばかりに揶揄いの声をかけてやる。
「ありがとう、クロス! でもこっちは大丈夫だよ!」
斬撃を繰り返しながらも、丁寧な返事を寄こすリオン。
そういう人柄だとは知っているが、嫌味が通じなくて面白みがない。
「リオン、離脱しろ! 次は魔法が来るッ!!」
その時、リオンの背中でレッドが叫んだ。
すかさずリオンが、大きく馬を迂回させて怪鳥の側を離れる。
ワタリの羽ばたきから、黄金色の閃光と共に雷撃が撃ち出された。
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