119.誘い水/リオン視点
気を取り直して、俺は別の方向から水を向けてみることにした。
俺の魔法属性が水であるためか、誘い水を使って人から話を聞き出すのは、わりと得意だ。
「俺も兄貴が二人いてさ、一番上の兄貴とは血がつながってるんだけど、真ん中の──俺のすぐ上の兄貴が、腹違いなんだ。いわゆる妾腹ってやつ」
案の定、アリアちゃんが少しだけ興味を示したように、表情を浮かべてくれた。
「小さい頃は何もわからず仲良くしてたけど、物心がつくようになると、向こうから距離を取られてね」
「ご両親は……どうなさっていたの……?」
「両親というより、それ以外の大人が──使用人とかが色々うるさくてさ、一緒に遊べなくなった」
「仲が良かったのね……」
「昔の話だよ。今はもう、遠くに赴任して音信不通だし、何年も会っていない」
「寂しい?」
「少しね。理由もなく嫌われた気がして、子供心に傷ついたよ」
「……わたしとシャーリーンは、そういう意味では姉妹とは呼べないわね」
アリアちゃんは、拙い言い方をしたと思ったのか、取り繕うように言い直した。
「わたしとシャーリーンは、欠陥品とその代替品の関係よ。──わたしには、ヴェルメイリオの直系としての価値がなかった。それどころか、魔力属性なしの上、亜人種の特徴を持った化け物だもの。わたしが娘では、家名の恥になっても、益にはならない。だからお父様は、わたしの存在をなかったことにして、体裁のいい子と入れ替えたのよ。──ただ、それだけの関係。普通の姉妹らしい交流はなかったわ」
ああ、なんということだろう。言外に「普通ではない姉妹関係ならばあった」と聞こえてしまった。
「でもわたし、あの子には感謝しているのよ。シャーリーンのおかげで、わたしはあの家を出られたも同然だもの。厄介払いとして早々に寄宿学校に入れられたから、冒険者として活動できるようになったわけだし」
「……」
普通は、伯爵家のような上位貴族の家柄で、直系の長女を追い出すことなどあり得ない。
容姿のせいで冷遇するのは仕方がないとしても、メイドとして働かせた挙げ句、寄宿学校に押し込めるなど、やり過ぎだ。
(当主はいったい何をしていたんだ……)
後妻の言いなりだというのなら、男として情けないとしか言い様がない。
それ以前に、親として失格ではないか。
伯爵家ほどの財力があれば、たとえ令嬢として瑕疵があったとしても、どこか静かな場所でひっそりと暮らせるように取り計らうことはできたはずだ。
(それを……)
むざと使い捨てるような真似をするとは、貴族としても、人としても、看過できるようなやり方ではない。財産に余裕のない平民の話ではないのだ。
平民ならば、素行の悪い子供を──嫡子であろうとなかろうと、勘当するようなことはよくある。そういう者が、食うに困って冒険者になったりするのだ。
が、貴族の──特に上位の貴族の間では、よほどのことがない限り、娘や息子を勘当することはない。血が繋がっている限り、どんな者にも跡継ぎのスペアとしての価値があるからだ。お飾りの当主として頂くために、最善を尽くす用意は常にある。
「アリアちゃん、誰か他に頼れる人や、相談できる人はいなかったのかい……?」
俺がそう訊ねると、アリアちゃんは微笑って言った。
「だから今、辺境のお祖父様を頼ろうとしているのよ」
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