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11.命令

「アリア、もう一度オレに命令しろ」


 レッドは、上半身を起こすことさえできないのに、新しい命令をしろ(呪いをかけろ)と言う。

「駄目だよ。これ以上は、もう、レッドの身体がもたない」

 呪いで強制的に身体を動かして、もう一度戦うつもりなのだ。

「怪我は治った。まだやれる」

「休まなきゃ駄目だよ」

「そんな余裕あると思ってんのか」

 ひとしきりそんな押し問答をした末、簡単な命令で妥協した。


「『レッド、自分で立って歩きなさい』」


 わたしは、生まれたての子鹿のようにぷるぷると立ち上がったレッドに肩を貸し、その場を離れようと歩き出した。

 とりあえず、馬車道に沿って進もう。

 予定通り次の村を目指すしかない。

 王都にあったアトリエは引き払った。

 帰る場所はない。

 何より、あそこにいればまた命を狙われる。

 次は、もっとなりふり構わない手段で攻めてくるだろう。

 一つ手前の村まで戻ったほうがいいかとも考えたけれど、距離的には先へ進んだほうが近い。森の中の馬車道を抜けたところに、次の村があるはずだった。

 しかし、急いでも村に着くまでに日は落ちるだろう。

 レッドは種族がら夜目が利く。

 わたしも、右目を使えば夜でも辺りを見ることができる。

 疲労しても治癒魔法を連続的に掛け続ければ、無理やりにでも動くことはできる。

 途中で魔獣にさえ遭遇しなければ、歩いて行けない距離ではなかった。


(心配なのは、途中でレッドの限界が来ないかだけれど……)


 疲労も怪我も、治癒魔法で何とかなることはなるが、身体に作用する魔法を常用するのは、あまり推奨されることではない。

 補強や修繕を重ねたところで、物には必ず耐用年数がある。

 同じように、人体にも生命力の限界というものがある。

 治癒魔法や甦生魔法、ましてや再生魔法というものは、人体の時間を前借りしているようなものなのだ。

 

 だから、直接戦闘をする冒険者には、三十代くらいで引退する者が多い。

 肉体の年齢的なものもあるが、治癒魔法を受けすぎると、やがて効かなくなる日が来るらしいのだ。

 個人差もあるし、あくまでも噂でしかないのだけれど。


「ちょっと待ってて。荷物を探してくるわ」


 馬車だった物体付近から自分の荷物(バッグ)を探して戻った。旅行用の魔法鞄(マジックバッグ)だ。


 旅行用の魔法鞄は、一般向けの仕様のため、少し大きいが値段は安めだ。

 それに対して、冒険者の装備としてのマジックバッグやマジックポーチは、小型・軽量化されている分、値段が張る。

 わたしたちの財力では、身の回りの物を全部詰めたまま長期のクエストに出られるような、小型かつ大容量の魔法鞄は買えなかった。


 辺境まで旅しろというのに、父から支度金などの援助は何もなかった。

(あのひとは、最後まで一度もわたしのことを見なかった……)

 箱馬車に詰められて、護送のように王都から追い出された。


 わたしにはレッドがいてくれたから良かったものの、そうでなければお祖父様のお屋敷に着くまでに野垂れ死にしていたかもしれない。

(……というか、普通は死ぬ)

 命を狙われていなくても、普通に死ぬ。

 冒険者でもない女子供が、一人で都市区画外へ出れば、何があってもおかしくはない。大人の男性であっても、一人旅は危険なのだ。獣や魔獣以外の危険も多い。

 例外は、高レベルの冒険者くらいのものである。

 実際、ギルドランクAの冒険者には、固定パーティーに所属していない人もいる。


 共もつけずに女の子を一人で辺境へ放り出すなんて、お父様は何を考えているのかと問い(ただ)したいところだったが、いつものことなので諦めた。

(どうせ、何も考えていないのでしょうね……)

 どうでもいいのだ。

 あの家では、わたしは“存在しない者”だった。

 寄宿学校に押し込められて、実際に“存在しない者”にされた。


 幸い、レッドが気づいてくれたので、アトリエの私物を持ち出すことができた。

 集めた薬草や魔法薬の基材、備蓄してある魔法薬や解毒薬、魔石や小銭や生活必需品が置いてあったから、失わずに済んでほっとした。

 ただ、予算が厳しかったので、荷物が二つに分かれてしまったというだけだ。一つは、いつも身に付けている小さめのマジックポーチ、もう一つが安売りされていた旅行鞄。両方とも、お値段なりで容量は少なめである。

 本物の冒険者(・・・・・・)なら、こんな体裁の悪いことはしない。

 クエストの最中は、何があって、どこで何を失うかわからないのだ。荷物は最小・最軽量にというのが鉄則だった。


「軽量化の魔法をかけるわね」

ここまでお読みくださってありがとうございます。

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