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1.プロローグ

 辺り一面に(しかばね)が散らばった森の中──血と泥でぬかるんだ大地に座り込み、力無く横たわるレッドの身体を抱きしめながら、わたしは誓った。


(あの女、生かしておくものか……!)


 わたしを殺そうとしたことはいい。今さら構わない。

 でも、レッドを傷つけたことは許さない。

 無関係の人々を巻き込んだことも、許せる所業ではない。


 たまたま、わたしと同じ馬車に乗り合わせてしまったがために、何の罪もない人々が巻き添えになって死んだ。


 義母に雇われた盗賊たちによって、ほんの“ついで”のように何人もの人が殺された。


 いいえ、盗賊ではなかったのかもしれない。

 盗賊の振りをした何者か、だ。

 金で殺しを請け負う連中──。


 そうでなければ、猫族の獣人であるレッドがあそこまで苦戦するはずがない。

 同業者(・・・)ならば、身体能力の高い獣人のほうが明らかに有利なはず。

 たとえレベル差があったとしても、わたしが魔法でサポートしている以上、何度も死ぬような酷い負け方をするはずがない。


(こんな目に遭わせるために、(レッド)を従者にしたわけじゃない……!)


 腕の中の少年を見た。

 わたしの、たった一人の小さな従者。

 彼は、善戦した。

 多勢に無勢──たった一人で、二十人以上いた盗賊を倒し、主人であるわたしを守り抜いた。

 盗賊(シーフ)というのはダンジョン探索用の技術職。決して、対人戦闘の専門職ではないというのに。


 何度も傷付き、倒れる寸前まで追い込まれながら──いっそ、倒れたまま二度と起き上がらなければ、楽に死ねたかもしれないという状況で──意識を手放すことも諦めることも許されず、血反吐を吐きながら戦い続けたのだ。


(わたしが、自分の命惜しさに軽率な命令を下したせいで……)


 赤毛の少年は、わたしが治癒魔法をかけまくったせいで怪我こそ見えないものの、死人のように顔色が悪い。


(馬鹿な主人(あるじ)で、ごめんね……)


* * *


 わたしたちは、馬車を乗り継いで辺境の大森林地帯へ向かっていた。

 王都からいくつもの町と村を経由し、馬車を乗り継ぎ、乗り換えながら終着の町まで行く。

 その先、大森林の最寄りの村までは、馬か歩きだ。運が良ければ行商や村人の荷馬車に同乗させてもらえるかもしれないけれど、獣人のレッドが一緒では望みはない。


 この国では、獣人やエルフなどの亜種族の地位は(いちじる)しく低い。

 外で見かける亜人種の人々は、たいがいが奴隷として使役されている者たちだ。賤民(せんみん)として嫌われている。

 まず、相乗りさせてくれる村人も行商人もいないだろう。


 馬を借りるという手段もあるが、わたしたちは乗馬のスキルを持っていない。


 レッドはもともと馬を操るような身分ではなかったし、わたしも乗馬の授業(クラス)は取っていなかったから、馬に乗れない。

 貴族なら誰でも乗馬をたしなんでいると思うのは大間違いだ。あれは、非常にお金がかかるのだ。


 寄宿学校でも、最低限の授業しか受けさせてもらえなかったわたしは、別途に授業料がかかる馬術や芸術など、上流階級の人々が好むような芸事には触れたことがない。


 歩くのには慣れている。今までだって、寄宿舎から冒険者ギルドまでは毎日歩いて通っていたし、子供のころから薬草採取の依頼で野山を歩き回っていたのだから……。


 王都からだいぶ離れ、あと数日で最後の町にたどり着くという寸前だった。

 近くに大型の魔物が出現したということで、護衛の半数ほどが討伐のために馬車を離れた。


 基本的に、町や村をつなぐ乗り合い馬車や駅馬車には、道中の盗賊や魔物からの襲撃に備えて護衛がつく。

 ギルド経由で腕に覚えのある冒険者を雇ったり、馬車の運行組合自体が護衛と契約していたりする。

 だから、これもよくある光景だと思っていた。


 先行した護衛が魔物を倒し、馬車が安全に運行できるよう露払いをしてくれる。

 このまま進んで護衛たちに追いつくころには、魔物はきれいに片付いていて、馬車の乗客たちが魔物の残骸を目にすることもない。

 そういうものだと、思っていた。


(だって、今までもそうだったから)


 まさか、魔物が故意に放たれたもので──先行した護衛たちが魔物と差し違えて全滅していたなんて──このときは考えてもいなかった。

ここまでお読みくださってありがとうございます。

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