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その1



_______________________



ヨーン=クレイン



 クラス テイマー レベル32



 スキル 運搬 レベル3


  効果 接触している荷物の重量を軽減する



 サブスキル 魔獣鑑定 レベル2


  効果 魔獣の能力を鑑定する



 使役魔獣 無し


_______________________




「……シテ……コロシテ……」



 闇の魔術師、カスターの地下研究所。



 かつて少女だったモノが、ヨーンに向かってそう言った。



 ヨーンたちは、少女の捜索依頼を受け、彼女を探していた。



 だが、見つけた時には既に手遅れだった。



 魔術師カスターが、彼女を改造してしまっていた。



 諸悪の根源であるカスターは、彼女をヨーンたちにけしかけ、町の外へ逃亡した。



「コロシテ……」



(そんなこと言われてもな……)



 少女だったモノの願いは、ヨーンには荷が重かった。



 少女は既に、人としての姿を留めてはいなかった。



 黒々とした、粘液状のバケモノになっていた。



 スライムの一種だ。



 そして、悪名高いカスターの傑作が、ただのスライムであるはずが無い。



 そのバケモノは既に、ヨーンのパーティを全滅させていた。



「……………………」



 ヨーンの周囲で、仲間たちが倒れていた。



 みんな息はしていたが、既に意識は無い。



 全員が戦闘不能だった。



 残ったヨーンは、戦闘員では無い。



 ただの荷物持ちだ。



 1人だけ無事なのは、直接戦闘に参加しなかったからだ。



 もし戦えば、たやすく敗れるだろう。



 そうなれば、命の保証は無い。



 だが、眼前のバケモノから逃げ切る自信も、ヨーンには無かった。



(パーティを壊滅させたバケモノ相手に、


 荷物持ちの俺が出来ることなんて無いよなぁ。


 強すぎるだろコイツ。


 レベル100超えてんじゃねーの?


 ……そうだ。


 死ぬ間際に、こいつのレベルを拝んでおくか。


 俺を殺す奴が、どんだけのバケモノなのか)



「『魔獣鑑定』」



 ヨーンはスキル名を唱えた。



 魔獣の能力を看破するスキルだ。



 能力を見たからと言って、勝てるようになるわけでは無い。



 冥土への土産話にでもするつもりだった。



___________________________



リリルナ=ナンタイン



 種族 スライムダークロード



 クラス 治癒術師 レベル1



 スキル 癒やし手 レベル2


  効果 触れた相手の傷病を回復させる



 サブスキル 千里眼 レベル1


  効果 遠視能力を向上させる


___________________________




 ヨーンの意識下に、バケモノの能力が表示された。



「えっ……!?」



 それを見て、ヨーンは驚きの声を上げた。



「コロ……シテ……」



 ヨーンの内心など知らず、バケモノは懇願を続けた。



 黒い触手が、わなわなと震えている。



 人間への殺意を、必死で我慢しているのだろう。



 魔獣はみな、人に対して殺意を持つ。



 元は人間だった彼女も、例外では無い。



 だが、僅かに残った人の心が、殺人を避けようとしているのだろう。



「……ごめんな。リリルナ嬢。


 俺なんかに、お前を殺してやるだけの強さは無いよ。


 お前、強すぎんだよ。


 その辺に転がってる奴ら、


 こう見えて、Aランクパーティなんだぜ?


 こいつらは上級冒険者で、


 俺はただの、こいつらの荷物持ちだ。


 だから……」



 ヨーンはバケモノに手のひらを向けた。



「『モンスターテイム』」



 ヨーンはスキル名を唱えた。



 それはテイマーのクラススキルだった。



「エッ?」



 リリルナの体が、光に包まれた。



 そして……。



_______________________



ヨーン=クレイン



 クラス テイマー レベル32



 スキル 運搬 レベル3


  効果 接触している荷物の重量を軽減する



 サブスキル 魔獣鑑定 レベル2


  効果 魔獣の能力を鑑定する



 使役魔獣 リリルナ=ナンタイン



_______________________




 ヨーンは目を閉じ、自身のステータスを確認した。



 バケモノと化した少女、リリルナが、ヨーンの使役魔獣となっていた。



「よっしゃああああああぁぁぁ!


 テイム! 成功ッ!」



 ヨーンの歓声が、地下室に響いた。



 テイマーは魔獣を支配し、理性を与え、無害化することができる。



 リリルナが使役されたことで、ヨーンは死地から脱することができた。



 リリルナは、ヨーンのモノになった。



「エッ? エッ?」



 黒い粘液のバケモノが、戸惑いの声を上げた。



 彼女の体は、じょじょに人間の姿に近付いていった。



 バケモノにされる前の、少女の姿だ。



 彼女の体の材質は、黒い粘液のままだ。



 だが、そのアウトラインは、人間とほぼ同様になっていた。



「ふしぎか?」



「エエ」



「お前は強力なモンスターだけど、


 元は人間のお嬢様だから、


 強さの割に、レベル自体は低かったんだよな。


 で、テイマーってのは、


 自分より大幅にレベルが低い魔獣なら、


 普通にテイム出来るんだよ。


 そういうわけで、


 周りでのびてる連中はこぶの、手伝ってくれよ」



「……………………」



 想像を超えた展開に、リリルナはしばらく動けなかった。




 ……。




 ヨーンは気絶した仲間を連れ、町の宿屋へと帰還した。



 しばらくすると、仲間たちは目を覚ました。



 ヨーンは仲間たちに、魔獣はどこかへ逃げ去ったと説明した。



 仲間たちは、生存を喜びあった。



 とはいえ、Aランクに昇級してから初めてのクエスト失敗だ。



 夕食の雰囲気は暗かった。



 その夜中。



 ヨーンはパーティリーダーを、自分の寝室に呼び出した。



「は、入るぞ」



 ノックの後、緊張した声音が、扉の外から聞こえた。



「ああ。入ってくれ」



 ヨーンが促すと、寝室の扉が開いた。


 

 そして、パーティリーダーのアスカが入室してきた。



 アスカは黒髪ポニーテールの女子で、クラスは暗黒騎士だ。



 剣の腕に優れ、パーティのメインアタッカーをつとめている。



 ヨーンとは、幼馴染みという間柄だ。



 就寝前なので、今はパジャマ姿だった。



「座れよ」



 ヨーンは、丸テーブル脇の椅子に座っていた。



 彼は、空いている椅子に座るよう、アスカに促した。



「あ、ああ……」



 アスカは挙動不審な様子で、椅子に腰をおろした。



 アスカが着席すると、ヨーンは口を開いた。



「大事な話が有る」



「……わかっている」



「そうなのか?」



「こんな夜中に呼び出されて、


 何もわからないほど、


 私も鈍感では無い」



「そうか。さすがはパーティリーダーだな」



「っ……。そんな褒め方をされても、嬉しく無いぞ」



「そうか?


 わかってるなら話は早い。


 俺は……」



「ああ」



「このパーティを抜けようと思う」



「えっ?」



「えっ?」



「パーティを抜けるなんて、本気で言っているのか!?」



「用件がわかってたんじゃねーのかよ」



「別の用件だと思ってたんだ!」



「別?」



「そんなこと、今はどうだって良いだろう!」



「まあ。とにかく俺は、このパーティを抜ける」



「どうしてだ……?


 どうしていきなりそんなことを……」



「今日の戦い、俺はあのバケモノ相手に、何もできなかっただろ?」



「それがどうした?


 手も足も出なかったのは、私たちも同じだ。


 お前は荷物持ちで、私は前衛だ。


 その役割を果たせなかった。


 責任を問うのなら、私の方が重罪だ」



「守られてるだけの立場が、嫌になったのさ。


 自分の力で戦って、強くなりたい。


 そう思った」



「……そうか。


 大の男が、そこまで考えているのなら、


 止めることはできない」



「認めてくれるのか?」



「だが! 1つ条件が有る!」



「何だ?」



「もしお前が、十分に強くなれたと感じたら、


 このパーティに戻ってきて欲しい。


 また一緒に冒険しよう」



「良いぜ」



「本当だな?」



「ああ」



「それじゃあ、いっときのさよならだ」



「元気でな。アスカ」



「ヨーンも、元気で」



 アスカは涙ぐみながら、部屋から退出していった。



「白々しい」



 部屋のどこかから、少女の声が聞こえた。



 ヨーンは声の出所を知っていた。



 彼はベッドに向かうと、その上に有る大型のリュックサックを開いた。



 そこから黒い物体が、にゅるりと飛び出してきた。



「私を利用するつもりのくせに、


 よく自分の力だなんて言えますね?」



 粘液状の少女、リリルナが、ヨーンを責めるように言った。



 彼女は桃色のローブを身にまとっていた。



 町に戻ってきてからヨーンが買い与えたものだ。



 下着などを買う余裕は無かったので、ローブの下は素裸だ。



「間違っちゃいねえだろ。


 俺はテイマーで、お前は俺がテイムした魔獣だ。


 俺の力だろ? 一応」



「モノは言いようですね」



「そういうわけで、行くぞ」



「命令しないでください」



 リリルナは、不服そうに言った。



 ヨーンにテイムされたという事実に、まだ納得がいっていないらしかった。



「置いてくぞ。お嬢様」



 ヨーンはリュックを背負って言った。



「人をこんなふうにしておいて、責任を取らないつもりですか?」



「人聞き悪いな。


 原因の9割くらいは、どこぞの狂った魔術師のしわざだろうが」



「1割も占めていれば十分です。


 ……あのまま殺してくれれば良かったのに」



「そんなに死にたいか?」



「死にたくは無いですけど、


 生きたくもありません。


 こんな醜い体では、家族にも会えない」



(そこまで醜いとも思わんが。


 ヌルヌルしてるのは気持ち良さそうだし)



 ヨーンにテイムされたことで、リリルナの姿は人に近付いている。



 ちょっと粘液質であることを除けば、美少女であると言えた。



「ほら、とっとと行くぞ」



「こんな夜中に宿を出るんですか?」



「野宿なら慣れてるさ」



「私は慣れていないんですが?」



「慣れろ」



「嫌です。


 私はスイートルームじゃないと眠れません」



「この部屋は高級スイートだった……?」



「せめて早朝にしませんか?」



「嫌ならここに残れ」



「あっ! 待ってください!」



 2人は宿を出た。



 まっすぐに町を出て、暗い夜道を歩いた。



「そうだ。この首輪をはめておけ」



 ヨーンはリュックから首輪を取り出し、リリルナに差し出した。



「何の趣味ですか?」



「趣味じゃねえよ。テイム済みっていう目印だ。


 テイムされてない魔獣が、町を歩いてたら怖いだろ」



「……仕方ないですね」



 リリルナは首輪を装着した。

 


「それで、どちらへ向かわれるのですか?」



「そうだな……。


 迷宮都市にでも行くか」



「セントラルダンジョンですか」



 迷宮都市と呼ばれる場所には、全てのダンジョンの母と言われる、セントラルダンジョンが有る。



 最難関のダンジョンと言われ、未だに踏破されていない。



 富と名声のため、大勢の冒険者がそこに挑む。



 冒険者たちの聖地だと言えた。



「せっかく最強の魔獣をテイムしたんだ。


 こき使ってやるよ。


 そんで、成り上がってやる」



「さっさと殺して欲しいのですけどね。私は」



「お前なぁ……。


 それじゃ、ゲームでもするか」



「ゲーム?」



「俺が世界一の冒険者になった時、


 お前が生きる理由を見つけられてたら、


 俺の勝ちだ。


 素直にその姿で生きろ」



「見つけられなかったら?」



「そのときは、望みどおりに殺してやるよ」



「面白いですね。


 ですが、あなたが世界一になれなかったら?」



「なるさ。


 お前が居るからな」



「どうでしょうかね。


 ……期限を設けましょうか。


 2年で世界一になれなかったら、あなたの負け。


 代償を支払っていただきます」



「代償?」



「一緒に死んで下さい。


 1人では寂しいので」



「ヤだよ」



「薄情ですね!?」



「当たり前だろ。


 人の命を何だと思ってやがるんだ。


 メンヘラ女と心中なんかできるか」



「メンヘラ……」



「……おい」



 両隣を林に囲まれた地点で、ヨーンは足を止めた。



 そして、リリルナに短く声をかけた。



「メンヘラの私に何か御用ですか?」



 リリルナは拗ねた様子で言った。



 それに対し、ヨーンの表情は真剣だった。



「敵だ。囲まれてる」



(まだ町に近いのに、ずいぶんと数が多いな……?)



 ヨーンの冒険者としての感覚が、複数の殺意を察知していた。



「みたいですね」



「気付いてたのかよ。


 まあ良い。


 お前の力、見せてもらうぜ」



「あの……」



「何だ?」



「戦うって、どうやるんですか?」



「えっ?」



 木々の奥から、狼型の魔獣の群れが飛び出し、ヨーンたちに襲いかかった。



試し書きです。

お読みいただきありがとうございました。

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