『何か』
「時間が止まった世界というのは、とても穏やかで、とても澄みきったものだったんです。しかし最近、ぼやけたような、よどんだような、何とも言えない違和感が生じ始めたんです。鈴木さんは、能力を使った際に何かそのような違和感を抱くことはありませんか?」
「そう言われてみれば……、実は僕も、同じような状態に陥っています。僕は、目を閉じると不思議な空間が見えるんです。そしてそこに未来の風景が映し出されるんですが、最近未来がどんどんぼやけて見えるようになり、空間全体もぼやけ、よどんできているんです。これはあくまで個人的なことだと思っていたのですが、もしかすると、自分だけではなく、何かこの世界全体に関わる重要なことなのでしょうか?」
「はい。おそらくこの世界に、『何か』が起ころうとしていて、私たちの能力に違和感が生じたのは、その『何か』が原因なのではないかと考えています。5年前に起こった震災の際にも、同じような違和感が生じたことがありました。しかし、今回生じた違和感は、あの時のものを遥かに超えています。もし、あの時に生じた違和感が、あの大震災を原因とするものならば、これから起ころうとしているその『何か』は、全世界に悪影響を及ぼすような、決して起こってはならない、何かとんでもないことなのではないかと考えているんです。ただ、それが何なのかまではさっぱりわからなくて……」
「なるほど。確かに僕も、5年前の震災の際に今と似たような違和感が生じました……。あれは、あまりにも大きすぎる被害によって落ち込んでいた自分の心が原因だと思っていたのですが、そうではなく、震災そのものが原因となっていた可能性があるわけですね。……何か力になれればいいのですが、僕も未来が見えるだけで、未来をガラッと変えてしまうとか、そういうことはできないんです。ただ見えるというだけなので、それだけで何かしらの問題が解決することはほとんどありません。未来を変えるには、実際に未来を変えるための行動を取らなければならないのですが、まず、何をどうすればいいのか……」
「そこでなんですが、鈴木さん。私たちのような『特殊な能力を持った人間』を、一緒に探しに行きませんか?」
「んー、しかし、どうやって? そもそも、『特殊な能力を持った人間』など、僕ら以外にもいるものなんでしょうか?」
「私は、我々のような特殊能力を持った人間というのは、実はたくさんいるのではないかと考えているんです。推測に過ぎませんが、かなり多くの、もしかしたらほぼすべての人間が、何かしらの特殊能力を秘めているのではないかと考えています。ただし、その潜在的な力がどのようなきっかけで開花するのかというところまではわかりません。運次第、あるいは、神のみぞ知る、といったところでしょうか」
「なるほど。けれど、それならもっとたくさんの特殊能力者と出会っているべきではないでしょうか? 僕は今までにそんな人と出会ったことはなかった。あなたが初めてです」
「それはですね鈴木さん、あなた自身にも関係してくることなんです。あなた自身、未来視能力を隠して生きてきましたよね? 今までずっと、能力を秘密にして生きてきた」
確かにそうだ。俺はあの保育園での出来事以来、ずっとこの力のことを秘密にしてきた。
「そういうことなんです。私も含めてですが、きっと誰もがそう思っているんですよ。隠した方がいい。と。だからなかなか表に出てこない。特殊能力者がいたとしても、その能力を目にする機会が全然ないのは、そういう理由からだと思うんです」
「なるほど。確かにそうなのかもしれない。……となると、これからどうすればいいんでしょうか?」
「とりあえず、新宿駅に行ってみませんか? 新宿駅は、世界一利用者数が多い駅だから!」