表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

KONNYAKU☆ハ(キ)する?

作者: みれにあむ

 ダダダダダ大野球と、ぶぶぶぶぶぶぶぶレインダム度。


※ノクタとかムーンとかミッドナイトにする必要は無いと思うけれど、どうしようも無い微エロ表現(大人の玩具的)有りなので注意。賛否有りそうですが、ガイドライン見てもR15だけど18禁にする必要は無いと思うのですよ。

 学園に入学して一年目、わたくしの婚約者が卒業と同時に、婚約の破棄を突き付けようとしていると知って、わたくしはただただ哀しかった。

 学園に入学して二年目、何も変わらない婚約者に、わたくしの気持ちは冷えて行きました。

 後一年で卒業の三年目、わたくしは準備をします。我が家の頼れるメイドやボーイ、真面目な庭師に悪戯なその息子、コック達の協力も得て。お父様にも内緒のまま、わたくしの誇りを守る為に準備をします。


 ええ、覚悟なさって婚約者様? 我が家の仲間は手厳しいわよ?



 ~※~※~※~



 まず初めは庭師とコックの競演から。


「御嬢様。この丸いのが、蒟蒻の元として知られる玉芋で御座います」

「その玉芋の皮を剥いて茹で上げ、丁寧に磨り下ろしたのがこちら」

「灰汁を混ぜながら練り上げて――」

「形を整えて茹で上げれば蒟蒻になりますな。これが基本です」


 作り立ての蒟蒻はとても美味しく頂けても、今回は食べるのを目的とはしてませんので、如何に滑らかに作り上げるかに注力します。

 満足出来る滑らかさになったなら、今度は魔法で作った型に流し込んで、望む形に作り上げます。

 滑らかさに拘って、そこまで仕上げるのに一ヶ月は掛かりました。

 最後に串刺し宜しく下腹部から差し込まれていた支え棒を取り除いて、代わりに下衆な顔したメイドとボーイが用意していた詰め物をしっかり奥まで詰め込んでいきます。

 健康的に烏賊と薬草と玉子の白身と山芋を磨り下ろして混ぜ合わせた特製品だとか。今でも咳き込むような匂いがしていますのに、きっと数ヶ月後の卒業式には更にえぐい匂いになっている筈と、メイドとボーイはクビにしたくなる顔で指を立てています。


 尤もその時になるまでは保たせないといけませんから、そこはわたくしが魔法で烏賊の薄皮を貼り付けました。隙間無く張り付いた薄皮は、中身を僅かにも漏らさないだけでは無く、しっかり弾力も保っています。


 この魔法の腕前だけは、胸を張って自慢出来るわたくしの特技でした。


 庭師の息子が言い出した、えげつない作戦は旨く行くでしょうか?

 出来上がったその小道具を手に、わたくしはこてんと首を傾げたのです。



 ~※~※~※~



「それで、これは何だ?」


 わたくしの婚約者である第四王子のロシュナ様が、面倒そうな様子を隠そうともせずに言いました。


「はい。婚約者で有りながら殿下のお側で支える事の出来無いわたくしの代わりに、せめて殿下の無聊をお慰め出来ればと。――殿下のお手伝いをしたいと申し上げても、頼って頂けないのは寂しい限りですが、せめてわたくしの姿を象った人形だけでもお近くに侍らせて頂きたいのですわ」


 でも本当は、侯爵家のリズベル嬢とこっそり逢い引きしているのを知っています。名前だって呼ばせているのを知っています。わたくしは未だに名前を呼ばせても頂けませんが、何か?

 普通に婚約の解消を申し入れてくれるならまた違ったのでしょうけれど、そんな事ですから今やロシュナ様付きのメイド達も、わたくし達の味方ですね。

 勿論、王家付きのメイドがロシュナ様の秘密を漏らす事はしません。でも、リズベル嬢の情報は、それとはまた別なのですよ。


「その様な気遣いは不要だ。王子が人形遊びなどと噂だけでも立てばどうするつもりだ」


 熱の無い口調でそれとなく拒絶するロシュナ様。

 でも、受け取って貰えないと初めの仕込みで躓きます。


「せめて――受け取っては頂けませんか? 本当はずっとご一緒させて頂きたいのに、ただ待つだけなのは心苦しいのです。

 ほら、ただのお人形では無くて、実用品に仕上げましたのですわよ? おと……乙女の柔肌に仕上げましたから、疲れた時に優しく撫でて癒しとして……あ、でも柔らかさを出す為に色々混ぜていますから、手荒に扱って破れてしまうと匂いが凄くてめげてしまいますから優しく扱って――え、殿下?」


 表情を消したロシュナ様が、特製の人形を納めた箱を受け取り、傍らに置きました。


「用が済んだのなら下がれ」

「――はい。有り難うございます、殿下」


 わたくしはにこりと微笑んで退出します。

 ロシュナ様が人形を受け取ったのが、わたくしの声をそれ以上聞きたく無かったからだとしても、人形はロシュナ様の手に渡りました。

 それが重要な事なのです。

 後は、協力者の手際に期待する事に致しましょう。



 ~※~※~※~



 そんな協力者は、ロシュナ様のメイド達でした。

 後から聞いた話ですが、ロシュナ様は初めわたくしからの人形を側近の一人に下げ渡そうとしていたそうです。


『それでは殿下、この贈り物はどちらへお運び致しましょうか』

『――それが気になるのならば其方にやるぞ?』

『い、いえ!? 流石にそういう訳には――』


 王宮に戻られてのそんな会話ですから、危うく計画が失敗してしまうところでしたけれど、こそこそと内緒話をするメイド達の会話で、ロシュナ様は考えを改めたという事です。


『――まぁ! その首飾り、マクス様からのプレゼントなのね!』

『ええ! それで私もお返しに、刺繍を入れたハンカチーフを贈ったのよ』

『素敵! あ、でもイシーテが知ったら……』

『……お仕事中にも着けていられる様にって首飾りにしてくれたのですから、服の中に入れておくわよ。イシーテは可哀想にね。もう式の準備も進めていたらしいのに』

『イシーテには何の落ち度も無いのに、突然の婚約解消でしょう? しかもイシーテ自身が手を入れていた婚礼衣装を破り捨てられたって』

『私がマクス様にそんな事をされたなら、絶望してベッドから降りられなくなりそうね』

『マクス様なら大丈夫よ!』


 王宮で仕事中にお喋りだなんて危ない橋を渡ってもらったその結果、わたくしの人形はそのままロシュナ様の部屋へと運ばれたらしいです。


 尤もそれが下げ渡された人形を見たわたくしがショックを受けるだろうと慮って下さったのか、或いは卒業式の余興を盛り上げる小道具と思って保管するつもりになったのかは分かりません。

 わたくしにとっても、そのどちらでも構わないのですから。

 ロシュナ様の手に渡ってさえいれば、それで目的は達した様なものなのです。


 もしも一人で居る時に手荒に扱って破損させたならば、独りで一日げんなりする羽目になるでしょう。

 もしも衆人環視の目の前で、わたくしを貶める為の最悪の道具として使うならば、その時は最悪の報復を齎す小道具としての力を発揮するでしょう。

 そしてもしも大切に破損させる事無く扱って頂けるのでしたなら、その時には何も起こらないのです。


 王族を試すと言えば不遜になるでしょうけれど、具申も諫言も受け入れない王族に忠誠を捧げる事など出来るでしょうか?

 いいえ、そんな筈は有りません。それをわたくしの婚約者も、学ばないといけないのです。



 ~※~※~※~



 と、そんな理論武装をしてみましたが、ロシュナ様は相変わらずの様子です。

 わたくしの事を寄せ付けないのに、リズベル嬢とは逢い引きしているのも同じ。

 やんわりと諫められても、聞く耳を持たないのも同じ。

 結局そのまま卒業式の日を迎える事になってしまいました。


「来ませんね。迎えの馬車は、いつ寄越して頂けるのでしょうね」

「うふふ、分かっているのでしょう? わたくしの婚約者様は、きっと遅れて参上するわたくしを笑い物にするつもりなのでしょうね」

「お嬢様を蔑ろにする愚か者は死ねばいいのに」

「ふふふふふ、貴女まで呑まれてしまってどうするの? わたくしは何だかとても楽しくなってきているのよ?」


 そんな風に侍女やメイドを宥めながらも、わたくしはベッドに広げたイブニングドレスに、念入りに(まじな)いを付与します。


「『ブレインダムド』!」


 それは、とある闇の魔導師に教わった思考力低下の魔術。とは言っても、直接ロシュナ様に魔術を掛けてはわたくしとても処罰は免れえないでしょう。

 ですからドレスに魔術を付与して、ロシュナ様の御心を知りたくて少し素直になる(まじな)いを掛けたと言い張る事にしたのです。


「『ブレインダムド』!」


 ですけどこの闇の魔術は、少しばかり特殊でした。

 単に思考力を低下させるだけでは無くて、方向性としてとてもお間抜けに頭が悪くなる呪いなのです。もしかしたら運勢も悪くなっているのかも知れません。

 敵意を向ければ向ける程に強く働くこの魔術の触媒となるのは、夜空の様に黒いドレス。星々が瞬く様な、美しいドレスです。

 ロシュナ様の黒髪に合わせたと周りには映るでしょうけれど、闇の魔術の触媒として、この夜のドレスは最適です。


「――お嬢様、そろそろ御時間です」

「分かりましたわ。それでは行きましょう」


 ええ、もう遅刻が確定したこの時間。いざ、わたくしの戦場へと出陣です。



 ~※~※~※~



 馬車を降りたその時から、わたくしの戦いは始まっていました。

 不安も顕わに見渡して、受付をする下級生達にロシュナ様がいらっしゃっているのかを確認して、その答えにきゅっと唇を引き結びます。

 全てが全て演技という訳でも無く、わたくしの気持ちも入っているだけに、労る様な下級生達の眼差しにほっと心が温かくなります。


 わたくしとロシュナ様との関係において救いと言えるのは、ロシュナ様が口にするわたくしに関する出鱈目な噂が、ちゃんと出鱈目として広まっている事でしょうか。

 ロシュナ様を手伝おうとしないなんて噂も、わたくしの能力が婚約者として足りていないなんて噂も、足繁く通ってそれでいて拒絶されていたわたくしの姿や、貼り出されていた試験の成績から既に否定されています。

 特に今年一年は、ロシュナ様へ遠慮する事無く試験には全力で解答しましたので、ロシュナ様よりも優秀というのがわたくしの評価になっています。


 それに加えてロシュナ様にわたくしでは無い恋人が居る事も知られていますから、結構同情的な視線も多かったりします。

 つまりそれだけロシュナ様が駄目男と見られているのでしょうね。


 そうして見て下さっている方々が居るという事だけで、手打ちとしても良いのかも知れませんけれど、それもロシュナ様がこの卒業式でこれ以上何もしなかった時の話です。

 でも、そんな展開が期待出来ないのは、会場の真ん中で声高にわたくしの事を扱き下ろすロシュナ様を見れば明らかでした。


「――本当に私も困っているのですよ。何も出来ないのに余計な手出しばかりしようとするのでね」


 卒業式には卒業生達の親も出席していて、そういう大人は難し気な顔で聞き入ってますが、同じ卒業生達は冷ややかに見ていて、その場を離れたタイミングで大人に耳打ちしたりしています。

 悦に入っているロシュナ様は気が付かれていませんけれど、お相手のリズベル嬢は少しそわそわとしています。

 巻き込む形にはなりますが、ロシュナ様にわたくしという婚約者が()てられてからの振る舞いで判断するなら、完全にアウトですから仕方有りませんよね?


 おや? ロシュナ様の周りでも、わたくしに気が付いた人が出て来ましたね?

 さぁ、それでは始める事と致しましょう。



 と、そんな風に意気込んでいたのですけれど、思いの外にロシュナ様劇場は吹き抜ける勢いで終わることとなりました。


 流石に集まっていた人達がわたくしの為に道を空けたなら、御高説に夢中のロシュナ様であってもわたくしに気が付かない事は無いのでしょう。

 わたくしを見付けて一瞬憎々しげな表情を浮かべたロシュナ様。

 一体どうしてここまで嫌われてしまったのでしょう。


「おやおや、パートナーも連れずに優雅に遅刻とは、随分と思い上がったものだね?」


 既にわたくしの気持ちがロシュナ様に無いと言っても溜め息が出そうです。

 それに、そんな台詞を言ってしまえば、わたくしが婚約者だと知っている人は疑念を抱いてしまいますよ?

 実際に感心して聞いていた筈の大人達が、訝し気に眉を顰めていますから。


 そんな事にも気が付かないロシュナ様は、熱に浮かされた様に言葉を重ねてくるのですけれどね。折角色々台詞を考えてきていましたのに、言葉を挟む隙が有りません。


「ふん! 私のパートナーは今も昔もリズベルだけだ。お前を婚約者などと認めた事は一度も無いわ!!」


 嗚呼……それを言ってはただの世間知らずです。

 婚約者が決められたその時に異を挟まなかった事が全てで、政略結婚というのはそういうものでしょうに。


「私はお前達に与えられる景品か? 巫山戯るら!! 私の思ひは私の物ら!!」


 おっと、激昂の余り噛み噛みでしょうか?

 いえいえ、どうやらドレスに掛けた(まじな)いが効いてきたのでしょう。

 沈黙で答えてしまったのは、案外正解だったのかも知れません。

 次は何を言ってくれるのでしょうと、悲しみを堪える表情の後ろにわくわくを隠します。


「こえを見ろ!! こえはお前ら!!」


 おおっと! 行き成りわたくしのお人形が出て来ましたよ!?

 周りに居た人達が、顔を引き攣らせてずざっと数歩後退りました!

 行き成りのクライマックスだなんて、どうするつもりなのでしょうか!


「私は、お前を――!」


 とか言いつつ、わたくしの人形を床に叩き付けたロシュナ様!

 貼り付けていた烏賊の薄皮が着せていた人形の服と一緒に弾け飛んで、ぷるんと滑らかな蒟蒻ボディが衆目の前に!

 憐れにその股の間から零れた液体に、見守る人達が信じられない物を見る表情で顔を崩します。

 わたくしもよろけて床に手を突いて、這いずる様に後退ります。

 でも、ご免なさい。本当は腹筋が震えて立っていられないのです。


「――ずっとこうしてやりたかったのら!!」


 しかし、頭に血が上ったロシュナ様は、有ろう事か裸になったわたくしの人形に足を載せて、ぐりぐりと踏み躙りながら言いました!

 しかし、端から見ると、ロシュナ様がわたくしの人形の中にどれだけの白濁液を詰め込んだのかを、見せ付けようとしている様にしか見えません。

 実際に我が家のメイド達はどれだけ頑張ったのかと思う程の液体が溢れ、一部は後退るわたくしのドレスにも飛んでいます。

 黒い夜のドレスを穢す白濁液は淫靡な雰囲気を醸しだし、噎せ返る異臭が列席者の顔を背けさせます。


「ははははは! 惨めらな!! 凄い匂いにゃ無いか! ふははははは!!」


 今迄溜め込んだ鬱憤を晴らしているつもりなのかも知れませんが、台詞の選択が的確過ぎて、わたくしは顔を手で覆い体を丸めてがたがた震えるしか出来ません。少しでも力を緩めると、噴き出してしまいかねないのです。

 でも、今この瞬間に寧ろわたくしの惨めな未来は消え失せました。我が家に帰ったならば、祝杯が待っていますよ?


 そんな注目の的のロシュナ様が、私を指差して叫び上げます。


「お前の! こんにゃくで! ハッスル!!!」


 ぐぎぃ!?!?

 き、きっとロシュナ様は、「お前との婚約は破棄する」と言いたかったに違い有りません。

 しかし何と恐ろしい闇の魔術!

 わたくしに対しても、これは拷問の様な責め苦です!?


 その時、わたくしの窮地を救ったのは、渋みの利いたお父様の声でした。


「これ以上、私の娘を辱めるのはやめて貰おうか」


 そんな頼れるお父様がわたくしの横を通り過ぎようとしたその時、わたくしは思わずその足にしがみついてしまいました。

 だって、思わずひぃ~っと奇声を上げて、バンバンと床を叩いて転げ回りたくて限界だったのですから。

 そんな顔を人には見せれませんからお父様の足に押し付けて、腹筋の震えを嗚咽の衝動と誤魔化して、でももうお父様の足は離しません。


 恐らくは殺気立ったままロシュナ様に詰め寄らんとしていたお父様は、きっとそんなわたくしに困り果てていたのでしょう。

 しかしもう一人、重厚な足音がロシュナ様の元へ向かっていたのです。


 その足音の持ち主がロシュナ様とわたくしの間で止まった後、取り囲んでいた観衆達が更に一回り大きく距離を取りました。

 その雰囲気に流石に笑いの発作も治まったわたくしが顔を上げると、恐ろしい顔付きをした国王陛下のお姿です。


 ただ、誰もが黙りこくっていて、丸で場が動きません。

 ロシュナ様はわたくしだけを睨み付けていて、

 お父様は国王陛下にこの場を譲って、わたくしを護る事に専念すると決めたのか、じっと腕を組んで動きません。

 そして国王陛下は射殺さんばかりの視線でロシュナ様を()め付けていますが、その怒りの強さ故に却って言葉が出て来ない様子です。


 そうなると、この場を動かせるのはきっとわたくしだけなのでしょう。

 わたくしは顔が崩れない様に全力で表情を固めつつ、震える声でロシュナ様に問い掛けました。

 意図せず弱々しい声となってしまいましたけれど、この場にはきっと相応しいに違い有りません。


「こ……婚約は?」

「ハッスル!! ハッスル!! ハッスル!!」

「そ……そちらの人は?」

「これが私の新しいこんにゃくらー!!」


 ブ――ブラッボーーー!!!!

 全員どん引きしている気配はしていますけれど、わたくしの中では拍手喝采です。

 僅か数分のロシュナ様劇場でしたけれど、この短い時間でロシュナ様は変態の名を我が物とし、もしかしたら居たかも知れないロシュナ様の戯れ言を信じてしまう人ももう居ません。

 わたくしが傷物扱いされる事も無いでしょうし、きっとこれからは色々な茶会に招かれる事となるでしょう。

 何より胸の空く思いです。


 ですが再び湧き起こってきた笑いの発作が、わたくしをお父様の足にしがみつかせます。

 わたくし自身は、そろそろこの場を引き上げてお暇しても良さそうとは思いつつ、笑いの発作でちょっと立てそうに有りませんと、そんな暢気な事を考えていました。


「――『灰と化せ』」


 凍り付く様なそんな声が、床に転がる蒟蒻人形とわたくしのドレスにまで飛んでいた白濁烏賊汁を纏めて灰にするまでは。

 ドレスにも大きく穴が開いたのを見て思わず顔が引き攣りましたが、同じく我に返った様な国王陛下の顔を見て、陛下も闇の魔術に少し呑まれてしまったのかも知れないと思い至りました。

 だとすれば、元凶はわたくしで、しかも陛下に証拠隠滅までさせてしまった事になってしまいます。


「――臭っ!?」


 その後ろ暗さも、噎せ返る臭気に押し退けられてしまいましたけれどね。

 そんなわたくしを見て気不味気な様子を見せた陛下は、お父様と何やらアイコンタクトをしてからロシュナ様に振り向きます。

 お父様はわたくしを立ち上がらせてから、腕に座らせる様にして抱え上げました。そのまま陛下達に背中を向けて歩き始めます。


 背後から聞こえてくるのは、感情が窺えない国王陛下の声でした。


「幼少の(みぎり)より結んでおったソフィアレースとの婚約を解消し、そちらの娘と新たに婚約を結びたいと言うのだな?

 ――良かろう。婚約と言わずに、今日からでも西の塔に住むが良い」


 余りに身内贔屓の甘い裁定に思えて戸惑っていると、お父様が解説してくれました。


「西の塔は王族の中に出た罪人を幽閉する為の場所だ。恐らく陛下は子を設ける事も禁ずるつもりなのであろう。種を灼き尽くした事がその表れだ。最早ソフィアの前に姿を現す事は有るまい」

「え!? そんな、それは流石に重過ぎますわ!」

「……その優しさはソフィアの美点だろうが、あれにまでそんな優しさは要らんだろうに。まぁ良い、幽閉ならばやり直しも不可能では無い。ソフィアはそんな事で心を痛める必要は無い。

 今日は疲れたろう。屋敷に戻ってゆっくりと休むが良い」


 やり直しの利く幽閉ならば良いのでしょうか?

 分からないながらも、わたくし達がしたのは、ロシュナ様が誠実ならば何も起きなかった筈の悪戯です。

 ならば、ロシュナ様にも反省する時間が必要に違い有りません。


 そんな事を思いながら馬車に乗せられたわたくしは、まだ話が有ると残るお父様を見送って、仲間達が待つ我が家へと帰り着きます。


 思わず零れたわたくしの笑顔に、集まって来たわたくしの仲間達が歓声を上げました。



 さぁ! 祝杯を上げましょう!!

「お嬢様。本日は田楽など如何でしょうか?」

「……ご免なさい。流石に今日は……」

 蒟蒻がちょっと苦手になったお嬢様でした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ