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機械的レンアイ  作者: exact
4.にんげん
9/11





――――世の中に孤独な人間がどの位いるか知ってるか、先生。





あれは俺がまだ医者だった頃の話だ。


ソーマの上司であり、アンドロイド技術開発の第一人者でもある男は、研究所に篭りっきりで不摂生な生活を送っているせいか、たびたび身体を壊していた。



「先生、俺はね。誰からも必要とされなくなった時、人は人じゃなくなると思うんだよ。生きてる意味がねぇだろ? そんなの」


「そう……ですかね……」


「そうさ。居ても居なくても同じってことだぜ、先生。そりゃあ寂しい。だから俺はアンドロイドを作ってんだよ」



孤独を嫌う、人一倍寂しがり屋な男は「自分を必要としてくれる誰か」を意図的に作ろうと足掻いていた。そうして生まれたのがアンドロイドだ。


もっとも、使用する側には開発者の思いなど伝わる訳もない。今までも、そしてこれからも。アンドロイドはただの便利な道具として多くの人達に購入され、消費されていくことだろう。


その頃の俺は日々仕事に忙殺され、神経を擦り減らしながら生きていた。正直言って、一人になる時間を切実に求めていた俺に、男の話に共感するだけの余裕は皆無だった。


自分の命が残り少ないと知るまでは。


……前触れもなく、突然に。俺は自分の命が明確なカウントダウンを始めていることを知った。


医者という仕事柄だろう、いやに冷静に受け止めたことを覚えている。病名を告知された次の瞬間には、五年生存率はどの位だったかな、なんてことを考えていた。


無論できうる限りの手は尽くした。けれど、治癒は見込めないと分かった後はすぐに勤務先へと退職願を提出した。それまで必死に働いてきたせいか、医者と言う職業に未練は感じなかった。やるだけのことはやりきったと素直に思う。


心残りがあるとすれば――――これまでただの一度も「恋」をしてこなかったこと、だった。


若いころは勉強漬けで、成人してからも後腐れない関係ばかり求めてきた。それをいまさら……馬鹿げた話だけれど。かつて耳にした男の言葉が後になってじわりと胸に響いてきたのだ。


俺はきっと孤独ではない。


でも心から誰かを必要としたことも、必要とされたこともない自分は人としての大事な部分が欠けている気がした。人ではないまま死ぬのは嫌だ。



――――誰かを愛してみようと思った。



相手は誰でも構わない……が、自分勝手な都合に付き合ってくれる人間がはたして居るのだろうかと疑問を抱く。それに万が一気持ちが通じ合ってしまったら、別の未練が生まれてしまう。


対象はアンドロイドに決めた。遺していくことに変わりはなくとも、アンドロイドなら後はソーマに安心して任せることができるだろう。あいつなら、きっと大事にしてくれるはずだ。




――――そして、俺は「Rー1」に出会う。



最初で最後の恋をするために。



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