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「おはよう、リィ……起きて」
次に目を開けた時には、主の顔が飛び込んできた。しっかりとした視界に、安心したように微笑んでいる姿が鮮やかに映り、無事に目の修理が終わっていることを悟る。
辺りを見渡し、いつの間にか慣れ親しんだ主の家に帰ってきていたことを知った。ソーマの所では修理が終わっても起動させず、そのまま荷物として運び出されたんだろう。僕にとっては、実にありがたいことだ。おかげで目覚めて一番に主を見れた。
「――――おかえり。調子はどうかな?」
真新しい目をキョロキョロと忙しなく動かし、フォーカスを合わせようとしきりに瞬きする僕を、微笑ましそうに眺める主は少し疲れているように見えた。
「部品は揃ってたから両目とも新調したみたいだよ。やっぱ左右差はない方が良いってさ。あはは……ピッカピカに輝いてるね!」
はしゃいだ様子で覗き込まれ、つけたばかりの両目いっぱいに主が広がる。いくらか高性能になった視界で、主の目の下に隈を見つけた。
僕にはほんの数時間離れていただけに思えるけれど、実際には何日かが経過しているはずだ。僕の居ない間、主はどう過ごしていたんだろうか。僕はそれを聞けず、知ることはできない。仕事が忙しかったんだろうか。食事は、睡眠は、ちゃんと取れたんだろうか。何か僕に……出来ることはなかったんだろうか。
ともに過ごせなかった時間を寂しく思い、離れることが辛いことを痛感した。そして、同じ時を重ねられることの尊さを思い知る。
「――――おかえりなさい、しぃ」
「んー? ……あぁ、そうか。リィはいつも迎えてくれる側だもんな。自分が帰った時の言葉はないのか……うん、ただいま。この数日寂しすぎて死ぬかと思った。すごく会いたかったよ」
調子外れの挨拶を交わし、主に両腕でギュッと抱きしめられる。会えなかった分を取り返すように、いつまでも離れようとはしない主はとても嬉しそうで、僕も嬉しくなった。
「しかし……治ったとはいえ、まだ本調子じゃないよなぁ」
次に主が言うだろう言葉が何となく分かる気がした。ただの願望かもしれないけれど。主なら――――きっと、
「今日のところは俺の傍で待機ってことで!」
主は今日も膝枕をさせてくれるだろうか。僕の膝で眠り、僕の作る料理を食べて欲しい。主の色んな姿をまだ真新しい目に焼き付けたい。僕の大切な人を。
時は、流れる。
自覚もないまま、ゆっくりと。
永遠なんかどこにもない。
だから、一分でも一秒でも長く。
あなたの傍で同じものを見ていたい。
例え、手が欠け、足が欠け……いつか、この目を失い、修理できなくなったとしても。僕が止まる、その日までは。主のアンドロイドでいたい。
*3.じかん
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