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機械的レンアイ  作者: exact
3.じかん
7/11



そうして、主の傍で一日を過ごすことになったのだが……


全ての仕事を取り上げられると、まるでやることがなかった。苦痛ではないが、どうにも手持無沙汰で困る。せっかく傍にいるのにちっとも役に立てないことにションボリしながら、僕は主の隣でただひたすら座っていた。



「リィ、少しだけ働いてもらっていいか?」



しばらくして、ようやく主が仕事をくれたと思えば――――膝枕。座っているだけの仕事だった。それまでと何ら変わりはないけれど……うん、少しは役に立てている気がする。何時間でも何十時間でも痺れることのない身体を、この瞬間だけはものすごく誇らしく思った。


あまり柔らかくはない大腿の上で、主は熱心な様子で本を読み始める。今日の仕事は終わりにしたらしい。主は寝返りを打ったり、起き上がったりを繰り返し……時折、思いついたように僕を見上げ、ふっと微笑んでみせる。


昼下がりの日差しが部屋に差し込む頃には、うとうと微睡はじめた主の顔を、僕は飽きることなくぼーっと眺め続けた。


その髪に、顔に。触れたいなーと思いながら。



「んん、眩しいな……ちょっと手、貸して?」



主は眠そうな声で言うと、僕の手をとり、ぽんと自分の額の上に落とす。そして満足そうに口元を緩めた。


少しだけ癖のある主の髪がやわらかく僕の指の隙間をくぐり、掌のすぐ下では常よりゆったりとした呼吸に合わせて微かに上下に揺れる。思いがけず願いが叶ってしまった。主、主、主。頭のなかが主でいっぱいになる。


まもなく、安らかな寝息が聞こえだし、僕はこのまま時が止まればいいと思った。主の傍にはいつも幸せが満ちている。近づくほどに体温を持たない僕の身体にまで温かさが流れてくるようで離れがたくなる。ずっとこのまま。こうして居たい。主が好きだ、大好きだ。


何でもない昼下がりに――――僕は永遠を切に願った。





「――――じゃ、悪いがお前の恋人は預かってく。必要な部品はもう工場から取り寄せてるから、2日くらいあれば修理できると思う。また連絡入れるわ」



そんな願いが叶うはずもなく、翌日迎えに来たソーマに連れられ修理に向かう。心配そうな主に見送られ、ソーマとともに車に乗り込んだ。


向かうのはソーマの務める会社。その会社が僕の実家でもある。ちょっとした修理なのだが、僕がプロトタイプゆえに扱いが難しいらしい。製造元にしか個体情報がない上、非売品なのでパーツが手に入らない。旧式の癖にとことん手間のかかるアンドロイドだった。


もっとも、修理ついでに軽くメンテナンスもしてくれるという話なので案外お得なのかもしれない。何度も主の傍を離れなくて済むのはとてもありがたい。


車に揺られ、ほどなく研究所に到着すると、すぐに作業が行われた。ベッドとは名ばかりの台に寝かされ、僕はブツリと呆気なく外界から切り離される。事務的な作業に主とのしばしの別れを惜しむ暇さえないままに。



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