*
時は、流れる。
そして、いつしかアンドロイドに手が届かなかった時代は終わりを告げた。量産化が進み、近年は一般にも普及してきている。将来的にはひとり一台を所有する時代が来る、とテレビで誰かが言っていた。
しかし、依然として高級品であることに変わりはない。それゆえに窃盗や強盗、詐欺といった犯罪の対象になることも多い。
――――まさか自分が……!
などと、被害者は口を揃えて言う。
まさに僕も同じだった。自分のような化石ばりの旧式が盗まれたりすることは、まずないだろうとタカをくくっていたのだ。
アンドロイドを狙った器物損壊。アンドロイドに関わらず、他人の所有する高価な物を破壊することに対し、歓びを抱く人間が存在することなど僕は知らなかった。仮に知っていたとして、はたしてどんな対処ができたのかは疑問だけれど……。
――――それは、つい先日のこと。
郵便物を受け取るため玄関を開けた僕は、左目の部分を大きく破損することになった。郵便配達を装った襲撃者にドライバーを突き立てられたのだと、後に主が教えてくれた。
「痛かっただろ? ごめんな」
何度も何度も謝られる。主は事件が起こってすぐに、玄関に数台のカメラを設置してくれた。システム上、どうしても頭から人間を疑うことが出来ない僕のために最善の策をとってくれた。だから、謝る必要なんてどこにもない。
「ああ……可哀そうに。すぐソーマの所で治してもらおうな。明日には迎えに来てくれるから。それまでの辛抱だ」
主は痛ましげに僕を見つめ、労わるように優しく頬を撫でる。破損した左目には眼帯が当てられたが、みっともない顔を見られていると思うと、とても居たたまれない。
でも、僕はこれで良かったと思う。傷ついたのが主じゃなくて。たとえ対象がアンドロイドのような物に限定していても、何かの間違いや事故で主が怪我でもしていたら大変だ。僕なら痛くない。後で修理すればいいだけの話だ。いくらでも替えがきく。
だけど、主はそうは思ってくれないみたいで。
「本当にごめんな。犯人は……何が何でも捕まえてもらおう。少なくともリィと同じだけの痛みを味わってもらわなきゃ気がすまないよな」
暗い目をして憤る主は、正直少し怖い。
「俺のために甲斐甲斐しく働いてる姿を見るのは好きだけど、ちゃんと治るまでは完全休業だ。常に俺の傍で待機。これは命令だぞ、わかったな? リィ」
「了解、です」
むしろ、大歓迎です。
幸い、破損個所は頭部にまでは及んでいなかったものの、片側の視野が欠け、僕はバランス調節や遠近調節に大きく支障をきたしていた。ふらりふらりと歩いては、壁にぶつかり、物に躓く。
見かねた主がどこへ行くにも、僕の手を引いてくれるようになった。金魚の糞みたいで情けなかったけれど、主は「雛みたいで可愛い」と言ってくれたから。
うん。問題なんかどこにもないと思う。
.