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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

彩り満ちた二人道

作者: えんぱな

 私が生きるこの世界は色々な光に満ち溢れている。

 そして私はそんな光に憧れている。


「ねえマカニー。いい匂いがするわ」

「黄色の花がこの草原いっぱいに咲いてますので」


 鼻の奥まですうっと溶けてくる花の香り。私は右手に持った傘をマカニーに預けて、その香りをめいいっぱい楽しむために深く息を吸った。

 預けた傘は私の手にあった時と変わらず私の上を覆っている。日差しが当たらない分暑くはならないはずなのに私の隣にピタリと触れたものが熱い。


「酉野さん。こういうのは相合傘というんです。なんと言いますか……とても温かいでしょう?」


 私はマカニーの言葉に深く頷いてから目を開けてみる。

 映るのは日差しいっぱいの青い色の空。黄色の花畑。マカニーが私への日差しを遮ってくれているピンク色の傘。そして私の肩くらいまでの身長で私に身体を預けている、酔ってしまいそうなくらい熱いマカニー。

 彩り豊かな景色が私の目に映る。


「恥ずかしい時って何色の顔って言うのだったかしら?」


 私は目を閉じてからマカニーに尋ねてみた。


「赤色ですよ。熱くなるから、赤くなるんです」

「マカニーはすごく熱いのね。"真っ赤"なんじゃない?」

「そ、そんなことないですよ。ほら、日差しが強いので熱くなってるだけです」

「ほんと?」


 戸惑うマカニーの声が可愛くて、つい口角が緩む。

 確かに、日差しが強くなってきた気がする。肌に触れる日差しがさらに強く──


「……うそです。真っ赤というのはちょっとおもしろい表現ですが、恥ずかしいというのは事実です」


 ……。

 マカニーがさしてくれている傘は相変わらず私たちの上を覆っている。日差しが強くなったと思ったのはマカニーがさっきよりも熱くなったから。


「ねえ、マカニー」

「はい」

「マカニー」

「私はここにいますよ」


 マカニーは私の手を握る。やっぱり私よりも少し小さくてかわいい手はすごく優しい。


「この方が好きだわ」


 私はそう言いながら握り直した。恋人繋ぎというやつだ。

 私とマカニーの指を交互に絡ませることでマカニーの熱をより強く感じられるから好き。


「私には酉野さんが見えてます。酉野さんが見る景色は私が見る景色。ずっとそうありたいと思っていますからね」

「まるで告白みたいね」

「そうとってもらっても構いませんけど?」


 日差しがさらに強くなってきた。

 私は笑いの余韻が残るうちに、マカニーの肩に手を回して抱きつく形になりながらほほに軽くキスした。


「ちょっ……。ここ外ですよ。周りには人だって……」

「私は気にならないわ」

「私は気にします!」


 "だって私にはあなたしかいないのだもの"なんてことは言ってはいけないのかしら。

 選ぶ言葉には気をつけないと失ってしまうかもしれないから慎重に。私には表情を読むことはできないし余計にね。


「マカニーの顔、真っ赤になってるわね」


 これは予想。きっと私と同じ気持ちでいてくれているという期待でもある。


「私は顔が赤くなったりするタイプじゃないんですよ」

「恥ずかしくなったりしないってこと?」

「違います。その人その人で赤くなりやすかったりならなかったりするんですよ」

「へえ。赤くならない人もいるのね」


 知らなかった。またマカニーが私に知識を与えてくれた。


「逆に酉野さんは、恥ずかしいときすごく分かりやすいタイプです」

「……バカにしてるの?」

「いいえ、かわいいって言いたいんですよ~」


 私には届かない光。眩しいというのはまだわからない。わからないはずなんだけど、マカニーの笑い声はちょっとそれかもしれない。


「ねえ」

「はい」


 マカニーは私の言葉を待ってくれる。きっと何時間経ってもずっと待ってくれる。私がじっと口をつぐんだままでもずっと。

 でも私にはそれができない。マカニーの声がないと、マカニーの肌に触れていないと、マカニーの匂いを感じないと私はどんどん不安になる。


「キスしたいわ」

「肉体に求める愛ですか……。そ、そういうのも嫌いじゃないですが、ここではちょっと。人の目もあるので家に帰ってゆっくり──」

「そういうのじゃなくて! ……それがマカニーを一番感じられるの。柔らかい唇に触れながら、すごく落ち着く匂いに包まれて、あなたの儚い声を聞くことができるから」


 ここまで言ってようやく、中々の失言であることに気づく。

 どんなって聞かれたら、普通に恥ずかしいってだけだ。


「えっとそれは……告白ですか?」


 きっとマカニーは笑っているのだろう。私がさっき言ったのと同じ言葉を口にした。きっとマカニーが求める言葉は私の言葉にたいする彼女の言葉そのままだ。


「そう取ってもらっても構わないわね」


 ちょっとだけ間が空いて、マカニーに触れた右手が彼女の肩から落ちた途端に、軽くほほに柔らかい感触があった。


「口と口は帰ってからですからね」


 マカニーの顔はきっと真っ赤。私はどんな顔をしてるだろうか。


「……ええ。待ち遠しいわ」


 なんにせよ、にやけ顔になっていることは間違いなさそう。


 光への憧れはあなたへの憧れでもあるの。世界で唯一この瞳の奥に写したかったもの。

 それがあなたなの、マカニー。

Chu

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