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稲村的突発性短編集

マンション三階の玄関を開けたら不審者が居た件。

セキュリティの緩いマンションの三階に数年住んでいるが、まさかこんなことがあるとは思わなかった。そんなお話ですが……全てノンフィクションです。



 おはよう御座います、稲村某で御座います。



 皆様はどのような朝を迎えましたか?学校へ急がなければいけない遅刻気味の朝でしたか?


 仕事が休みで布団の中でゴロゴロしながらお気に入りの小説更新を眺める朝でしたか?……それは羨ましいです。



 不肖、稲村某は半日の休みでゆっくりと起きて……とはいかず、三次嫁(三次元での嫁、の略)にどやされながらの起床でした。


 で、朝食も終わり、食器を片付けていたその最中、オタ娘(オタクな娘)に「○○ちゃん(家庭内では嫁娘とも俺を名前で呼ぶ)、来て!早く来て!」と急かされて、何を言っておるのか……?とほんの少しだけ苛つきながら泡だらけの手のままで玄関に向かい、身を逸らしたオタ娘と入れ替わり、外に居た三次嫁のすぐそばに……




    ……全く知らないヒトが立っていた。




 「だから直ぐ来てって言ったでしょ……どうする!?警察呼ぶ?」

 「いや……ってか本人の目の前でそんなこと聞くなよ……」



 ……そう、そのヒトは全く知らないけれど、様子がおかしかった。


 今朝の寒さの中、薄いロングTシャツ一枚、下は薄手のスパッツ、エプロンだか何だか判らない腰巻き一枚……。見た目は「痩せた高木○ーさん」みたいなおばさんで、手にした小さなポーチを開けたまま手を入れて何かを取り出そうとしながら、ゆっくりと身を揺らしつつ立ち尽くしていた。


 俺は暫く様子を見ることにしたが、三次嫁がそっと俺に耳打ちし、


 「……この人、私知ってる……○○市民新聞を出してた所の娘さんで……確か私より少し年上だったと思うよ」

 「えっ?じゃあ……近所のヒトなんだ……でも六十代にしか見えないぞ?」


 二人で目の前のヒトを眺めながらオタ娘をとりあえず学校へと送り出し、色々と話し掛け続ける三次嫁だったが、相手は全く知らん顔でぶつぶつ何かを呟きながら立ち尽くすのみ。


 手にしたポーチの中には小銭と何やら入っていたものの、何も取り出せずただ指先を震わせていた。


 仕方なく状況を見守る為に玄関先に留まり観察を続けていたが、俺の姿など全く視界に入れることなく同じ動作を続けているのみで……多少の不気味さはあったが害は無さそうである。


 流石にこちらも飽きてきてタバコが吸いたくなって部屋に戻ろうとドアに手を掛けたら……扉が開かない。グッと手を掛けたら……ぐぃ……と妙な手応えを感じて不審に思うとドアロックを掛けながら三次嫁が隙間を開けて、


 「……今、警察呼んだから……」

 「そうか……で、俺は部屋に戻りたいんだが……」

 「うん、そう?じゃーね♪」



  ……閉め出された。



 ……それから10分後、警察の方が来てそのヒトを回収してくれたのだが、警察官が三次嫁と話をしながら「こちらのお母さんとは病院を探しておくようにとお話しているんですがね……」と言っていた……まぁ、そういうことらしい。


 しかし、先刻までの指先を震わせていた様子は全くなく、多少ゆっくりではあるがスタスタと歩いてエレベータに乗って階下へと行き、パトカーに乗り込むとそのヒトは俺の前から姿を消したのだった。




 警察官が帰って部屋に戻ってから三次嫁曰く、「あのヒト、少し前も近所をアワワワワワワァ~!!とか叫びながら走ってたんだよねぇ……」と身振り手振りで演じなから説明してくれたけれど、その演じ方がパニック映画のクリーチャーのようで少し笑ってしまった……。



 それはともかく俺は、その相手が害の無い人物と判った瞬間から、こうして文章で今回の顛末を記する為の構成を考えていた。相手の不細工な顔を拝みながら……その緩みきった体型を眺めながら……。


 怖くはない。体格でも体力でも劣る面はないし、武器になるような物も持っていない相手である。こちらは見たこともない昆虫を眺めるような、妙な好奇心と言い難い距離感を持ちながら観察をしていたのである。



 三次嫁は「怖いからカギは必ず掛けておかないと安心出来ないよね……」と警戒感丸出しで話しつつ友人に電話していたが、俺は余り気にはしていない。


 ただ……面倒な事に巻き込まれるのは御免なだけである。

釣りも引っ掛けも、何も有りません。皆様も戸締まりだけはお気をつけて……耳長種族よりもこんな人達に遭遇する方が現実的に確率は高いのですから。


そんなシリアスでノンフィクションとは正反対の<a href="https://ncode.syosetu.com/n1885fc/">異世界スナック連載版</a>も宜しくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[一言] 砂臥は陽気なタイプのこういう方を割とお見掛けします。 見えないお友達を連れてらっしゃっているご様子の方とか、いつも笑顔で時に鼻唄を歌い、歩きながらくるくる回りだす方とか。 なにかに怒ってる…
[一言] ノンフィクションなのですか。ちょっと震えました。 作品も楽しみですが、今回のような実話?も楽しみにしています。
[一言] えー、こんなところ見てるヒマがあるなら連載を読め!と怒られそうですが、つい、目に留まってしまったもので。 実は私の家の斜向かいにも、少し前まで、同じような感じの人が住んでました。 特別害の…
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