魔物討伐はリッチですねぇ
迷うことなく歩いていくマリィさん。
いや、すでに迷っているからこそ、迷いなく歩くことができるんだろう。
ほら、守るモノがないからこそ、強気で攻められるみたいな……違うか。違うだろうな。うん。
ともかく。
太陽光が差し込んでくるようになった明るい森の中を平然と進んでいくマリィと俺は、食材調達の名目で植物や動物を探していた。
正確には、俺だけが根っこのそばを覗いてみたりしているんだが……天才少女様は、何を探しているんだろうか。
意思疎通ができないのは、かなり困るな。これは異世界どうこう以前の問題だろうが、本当に困る。
ボディランゲージなんて立派なものもあるんだが、確実性という意味ではジェスチャーゲームと変わりがないし。
「岺めエ゠」
小さくつぶやいて、俺に立ち止まるよう促してくるマリィ。
前屈するように、少しかがんで、視線の高さを彼女に合わせる。そして、マリィが見ているであろう視線の先を……
「角の生えたウサギ?」
もしかして魔物か?
思ったよりも可愛らしい感じがするんだが……
「あれを殺すのか……?」
モフモフ動物愛護団体に所属している俺としては、かなり抵抗があるんだが。
それでもマリィはやる気のようで。
「『お「〿〃』」
ウサギの頭上に落雷を落としていた。って、容赦ねぇなぁ。
角の生えたウサギは感電したようで、ゆっくりと横たわる。モフモフだったであろう毛並みも、雷のせいでチリヂリなっている。
「柢頠き〼〷」
そして相変わらず何を言っているのか意味不明だ。
早く銅貨が欲しい。できれば大量に。
狩りたてホヤホヤのウサギを片手に、焚き火をしていたところまで戻って来た。
二時間くらいかけて。
「おかしい……」
どう考えても、ウサギを探した時間と仕留めて戻ってくる時間に差がありすぎる。
探した時間は三十分くらいだ。少なくとも一時間は経っていないはず。
それに対して帰りは二時間だぞ?
ただ平然と歩いていただけのくせに、二時間もかかったんだぞ?
俺は学習した。
「マリィを先頭にしたら、間違いなく路頭に迷うことになるな」
一つ学習して賢くなった俺は、マリィの調理風景を眺めることに。
ウサギの捌き方なんて知らねぇし、仕留めたのはマリィだ。調理も任せていいだろう。
「りぬりぬり〃ぬ」
鼻歌でも歌っているんだろうか。
何を言っているのか分からないが、上機嫌な鼻歌が奏でられている。
それにしても天才少女様。まさか料理まで出来るとは。
「これで方向音痴じゃなければ、もう言う事がないのにな」
俺が何を言っているのか伝わらないから、翻訳していない間は文句を垂れ流しにしておこう。
これぐらいしても、バチは当たらねぇだろう。……すでに当たっている気もするし。
「儅枚めエ゠ぷ」
調理が終わったのか、マリィは大きな葉の包みを開ける。
そこには程よく色づいたウサギの肉が。何も食べていないというのもあるんだろうが、やけに美味しそうだ。
「そんじゃ、いただきまーす」
ぶつ切りにされた肉をつまみ、口の中へと放り込む。
熱いが、繊維が解れていく感じが楽しい。
塩やコショウなんて使ってないだろうから素材だけの味だが、それだけでも十分だ。
草食動物特有なのか、葉っぱに包まれていたからか。緑の香りも食欲を増す感じだ。
「旨いなぁ~これ」
白米が欲しくなる。
そんなサバイバルチックな朝食を終えた俺とマリィは、さっそく村を目指して歩くことに。
「不安しかないんだが……」
だからといって、村の位置を知っているのはマリィだ。
俺に至っては、村の位置どころか、今いる森がどこにある森なのかすら分からねぇ。
でも方向音痴に道案内を託すという状況は、凄まじく不安だ。
そして、俺の不安に惹きつけられたかのように、その魔物は現れた。
「お、おい……これはねぇだろ」
175センチの俺に対して、二倍近くある背丈の熊。
茶色い毛皮で覆われているが、胸のあたりに黒い水晶が付いている。
どう見ても野生の熊とは思えない。魔物の類だろう。
そんな熊に対してマリィは物怖じ一つすることなく、
「『げ〒〄〪〓そ』」
腕を前に突き出し、何かを唱える。
直後……直立していた熊の胸が弾け飛ぶ。
内臓を宙に飛ばしながら、巨体は背中から倒れていった。
大きな土煙を上げ、息を絶ったわけだ。
マリィがどんな魔法を使ったのか分からねぇが、火の魔法に違いない。
『フレア』か、それに似た魔法。もしかしたら『キロ・フレア』とか、『メガ・フレア』かもしれねぇ。
翻訳できないことが、これほど残念だとは思わなかったな。
銅貨、マジ大事。
「〡〝〔ぽ掳ゲゕオセぷ」
感動して突っ立っていた俺に対して、何かを言ってくるマリィ。
熊の毛皮を剥いでいるみたいだな。もしかして、俺にも手伝えってか?
獣どころか、魚すら捌いたことがねぇのに?
「まぁ、見よう見まねで良いんだったら……」
マリィの隣で腰を下ろして、その手腕を観察する。
筋肉の筋に沿ってナイフを入れている。
ブツブツと説明してくるが、何を言っているのかはサッパリだ。
それを理解しているのかしていないのか。独り言のように呟きながら作業をしている。
熊はさすがに巨体なだけあって、毛皮をはじめとして色々と得られた。
赤い筋張った肉は食料になるし、毛皮は布団代わりになる。葉っぱよりもかなり優れているだろう。
そして実感する。
マリィはマジで強い。俺よりもはるかに強い。
今戦えば、おそらく負ける。所持金の都合どうこうもあるが、それを抜きにしても負けるだろう。
「ほんと、方向音痴さえどうにかなればなぁ……」
だから欠点が目立ちまくり。
そんな方向音痴の天才少女様の後ろをついて歩くこと……半日くらいか?
もう闇雲に歩いているだけじゃねぇのか? って感じてきたところで、
「む、村だ……!」
柵で覆われた家々を見て、俺は感動していた。