リッチな仲間?
「おい、マジで銅貨をよこせ。両替でも構わねぇから」
まさか美少女が発動した『コール』では、俺の言語を翻訳してくれないとは。
この異世界、マジで俺に厳しくねぇか?
「別にかまいませんよ? はい、どうぞ」
と、少女は……
「ってか、いい加減自己紹介でもするか」
名前も知らない謎の美少女から銅貨を受け取りながら、そんな提案をしてみる。
いきなり襲い掛かってきた女ではあるが、本人は戦っていないというのも事実なわけで……というか、俺の所持金が乏しい以上は、少しでも戦力になるやつを味方につけておきたい。
ここで魔物が登場! なんてことになろうものなら、俺は拳を握る以外の方法が思いつかなくなる。
「そうですね。魔物とはいえ、転生者様でしょうから、名前も知ら「おいちょっと待て」……なんです?」
今気になる発言をされた気がするんだが?
「魔物? 誰が?」
「あなたですけど?」
俺、魔物なの?
……あ。そういやあの霜降り女神、冒険者にでも狩られてしまえ! みたいなことを言っていたか?
あんまり覚えてないが、そんなことを言われていた気もする。
「そもそも、魔物が流暢に話しかけてきたので、おとぎ話なんかで登場する転生者かな? ってところからカマをかけさせていただきました」
「マジかぁ……」
まるで一般常識でも口にするかのような説明。ファーストコンタクトからバレてたのかよ。
まぁいいや。過ぎたことだし、どうしようもない。
この場合は、俺がミスをしたんじゃなく、美少女の頭がすこぶる良すぎただけだな。
「それで? 名前は?」
ちょっと脱線したが、話を自己紹介へと戻す。
「マリィ。マリィ・デッドリィと申します」
マリィね。西洋風でいい名前だと思います。
紫色の髪と瞳ってのが、名前と不一致な感じだが……マリィだと、金髪に水色の瞳なイメージなんだよな。俺の場合だが。
「俺は羽賀守だ。日本ってところから転生させられた……魔物? なぁ、俺ってどんな魔物なんだ?」
『ステータスチェック』とかいう、ステータスを調べる魔法があるから、俺の種族みたいなものも分かると思うんだが。
ただ、俺が使うと所持金が一気になくなる。
なんせ『ステータスチェック』は二千円相当だからな。金貨四枚分だ。この先のことを考えると、マジで困る。
「リッチーっていう魔物です。不死の王とか、アンデットの王なんて呼ばれている魔物ですよ」
「貧乏人の俺に金持ちとか、マジでふざけてんのか」
だったら所持金をウンゼン万単位で用意しとけっての。
「そうだ。ついでだから、俺のステータスを調べてくれよ」
所持金を失うのは困るが、魔力なら困らない。
というか、俺の魔力が減るわけでもないし。なんなら、俺に魔力があるかどうかが分からねぇし。
いろいろと話をしたいなんてことも言っていたしな。話のネタにしよう。
「嫌です」
と考えていたところを、即答で断られた。
「えぇー。俺、ガイコツに襲われた挙句、こうやって翻訳の魔法まで使ってるのにかぁあ?」
「うぐっ」
砂地に腰を下ろし、マリィを半眼する俺。そして、俺の発言にたじろぐマリィ。
このまま押していけば、たぶん『ステータスチェック』を使ってくれることだろう。
いいぞ。折れろ。ぽっきり折れろ。そうすれば二千円が浮く。
「あぁあぁ~、ガイコツのせいで所持金がなぁ~」
「分かりました。『ステータスチェック』! これでいいですよね?」
頬を膨らませて怒っている顔も美少女ですね。マリィさん。
そんな唇を尖らせているマリィの手元に、一枚の明るい茶色の紙が生成される。
羊皮紙とかいう紙だろうか。現代日本で生まれた俺としては、コピー用紙か画用紙しか馴染みがない。馴染みがなければ、羊皮紙がどんな紙か分からねぇ。
とりあえず、それっぽいから羊皮紙とでも紹介しておこう。
とにもかくにも、『ステータスチェック』を使うと紙切れが出現するのか。
「……あの、マモルさん」
「おう? なんだ?」
他人に魔法を使ってもらうことの有用性を噛みしめていた俺。
対して、ちょっと驚いたような、少し引かれたような、そんな遠くから様子を眺めるような態度をとってくるマリィは、
「マモルさんって、転生者で、リッチーなんですよね?」
「リッチーかどうかは知らねぇが、転生者って奴ならそうだぞ?」
三途の川から無理やり連れてこられたからな。せっかく流行りに乗っかって、畑の一つでもやろうかと思ってたのによ。
ちなみに今は、霜降り女神をメインディッシュにしたバーベキューを画策中だ。
最大の難関は、女神の下にどうすれば行けるのか。だ。
「なんで魔力がないんですか?」
「転生者だからじゃねぇの? あ、魔法が使えるのは、金を代替わりにさせられているからだぞ?」
「あぁ、なるほど。それで初級魔法のフレアが、あんなバカげた威力になっていたんですか」
「バカげた威力?」
なんだそれ?
もしかして、金を消費した方が効果が高いのか?
いや、『コール』という魔法の効果を考えれば、十分にあり得る。
なんせマリィが発動させた場合は、翻訳されていなかった。
それに対して、金を消費させて発動した俺の『コール』は、今もこうして会話ができるレベルで翻訳されている。
「いくら初級魔法でも、あんなショボくないですよ?」
え?
「……ショボいの?」
「はい、ショボいです。なんなら私が使うところを見てみます?」
「いいえ。遠慮しておきます」
ショックで寝込みそうだし。
まだ異世界に転生されて初日だぞ?
これ以上のショックを受ければ、異世界で引きこもるための努力をしちまいそうだ。
「そ、それよりも。俺のステータスを見せてくれよ」
「はい、どうぞ」
マリィから手渡された一枚の羊皮紙。
一番上の欄には、俺の名前が…………
「読めねぇんだけど?」
「そんなことだろうと思いました」
さすが天才少女マリィさん。
文字が読めないことをお見通しでしたか。