リッチなら戦闘しない
三分が経過したんだろう。ポケットの中で小銭が動いた感触がした。
だけど、それを確かめている場合でもない。
「転生者ですよね?」
ガイコツを二人も……二人でいいんだよな? ガイコツの単位って人でいいよな? 人型だし、とりあえず人で。
ガイコツを二人も連れた紫色の美少女が、俺が転生者だと看破してきた。
自信満々に聞かれるし、存在しない国名を持ち出されて見事に引っ掛かったから、これは確実にバレた。
バレたものはしょうがない。少女の頭が良すぎたんだ。俺のミスじゃない。
さて……そうなってくると、問題は、俺が転生者だとマズいかどうかだ。
できることなら戦闘は避けたい。
避けたいところだが……
「なぁ? 一つ聞いていいか?」
「どうぞ?」
「俺が転生者だとしたら……どうするんだ? いきなり戦うことはないよな?」
分からねぇことは聞くしかない。
そして、一番聞きたいところは、今口にしたことだ。特に戦闘することになるかどうかが重要なポイント。所持金を気にすると戦いは確実に不利。もっと大金を所持していたなら話は別なんだが。
そして尋ねられた美少女は、あごに手を当てて考え……
「……そうですね。お話を色々と聴かせていただけるなら、戦う必要はないですね」
よし、言質をとった。
これで襲い掛かってきたら、出るところに出てやる。警察とかそんなとこに。
「よし、じゃあ白状するが、俺は転「行けっ!」っておいっ!?」
素直に白状したところで、女の脇に控えていたガイコツが殴り掛かってきた。
「話が違うだろうがっ! うおわっ!?」
「あら? 私は戦ってないですよ?」
意外と動けるガイコツ。そして俺。
殴り合いのケンカなんて、日本で平々凡々と生活してきた俺にあるわけがなんだが……こうなれば殴る蹴るで応戦するしかない。
ついでだから、文句もぶつけてやる。
「戦わせるのもぉお!? なしにきまってんだろぉ!!」
叫びたいことだけ叫んだ俺は、この場で足を引っ張る要素を解除する。
「『コール・エンド』!」
会話が出来なくなるが、所持金が減り続けるのは悪手だ。
ガイコツのパンチやキックを避けながら、俺はポケットの効果を握ってみる。
金貨は五枚のまま。銀貨は二枚で、銅貨は残り三枚。
大きさが違うから、握れば確認できるのは大きい。まぁ、頭で計算していたのもあるんだが。
「とりあえず『フレア』!」
とりあえず生で。みたいな感覚で、殴り掛かってきたガイコツ一人に右腕を突き出し、魔法を発動させる。
すると、胸骨辺りが弾け、骨がバラバラに散らばっていく。
これで残り一人に対して、銀貨は一枚。ちゃんと狙いを定めれば、確実に倒せるっ!
「儻セウ」
女の方は傍観を決め込んでいる。
何かされるよりはよっぽど良いが、本当になにもしてこないだろうな?
翻訳の魔法を解いたから、なにか言っているみたいだが……。
「さすがに翻訳しながらは戦えねぇしなっ!」
足払いを決め、地面に倒れたガイコツに向け、
「『フレア』!」
魔法を発動。骨を弾け飛ばした。
これで銀貨はゼロ枚。ここからは銅貨を消費する魔法か、金貨を消費することになるだろう。
嫌だなぁ……本来なら百円で済む魔法が、五百円相当になるかもしれねぇんだろ?
お釣りが出ねぇかなぁ……出ねぇんだろうなぁ…………。
こうなったら、目の前の嘘つき女に金をせびるしかない。
「おい、さっきの代金を払えよ」
「侪ね諿゜゙セぴぬウゴ¢」
そうか。翻訳魔法を解いたから、何を言っているのかさっぱり分からん。
えぇ……翻訳するの? マジで? するしかないんだろうなぁ。
「『コール・スタート』おい、今の戦闘で消費した分の金をよこせよ」
「あ、今度は分かりました。なるほど、魔法に翻訳をさせていたのですね」
「そんなことはどうでもいい。というか、銅貨を数枚くれねぇか? この魔法、金をガリガリ消費していくんだよ」
無駄話で金貨を消費し始めました。銅貨と金貨の差はありません。
なんて情報は、所持金が乏しい今の俺には不要なものだ。
もっと潤沢な資金を確保できるようになってからにしたい。
「? 魔法を使用するのに、お金を使っているのですか?」
「そうだ。俺は転生者だからな。魔力なんてものは扱えねぇし、この世界での俺は金で魔法を使うように設定されてるんだよ」
「そうなんですね。なるほどなるほど……でしたら、私が翻訳させる魔法を使いましょうか?」
「お、いいのか?」
これは願ってもないことだ。
俺の所持金ではなく、美少女の魔力が減るからな。
魔力は体を休めれば回復できるかもしれんが、体を働かせないと金は得られない。
「じゃあ頼む。『コール・エンド』」
「『が〃〔〄う〃〷』!」
何を言っているのかは分からないが、たぶん『コール・スタート』と唱えたんだろう。
これで所持金を気にしなくて済む。マジで助かるわぁ~。
「侪ね諿゜゙セぴゑゴ勹ゴふめウゴ¢」
おい、異世界。マジでふざけるなよ?
「なんで翻訳できてねぇんだよっ!?」
俺は再び『コール・スタート』を唱えることになった。
銅貨一枚が無駄に……あと六分も話せば、今度は金貨を消費し始めるのか?
嘘つき美少女さんの言葉ですが、暇つぶしがてらに作成したツールを用いて日本語を変換してます(笑)