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プアリッチー  作者: シバトヨ
不死身の借金王(シャッキング)
19/20

逆襲のリッチ

 湖から村までは、歩いて一時間かかるかどうかの距離。

 ただそれは昼間の話であって、夜目の利かない俺が、夜の、しかも歩き慣れていない森の中を歩くということは、さらに時間がかかる。

 というか、今から村に帰ったところで、やることはない。もっと言うなら、天才少女は、


「私のことはお構いなく。この後は村をあんな状態にした奴を殺すだけですから」


 と豪語していた。脅迫犯と面識があるのか知らねぇが、心当たりがあるのは確かなようだ。

 それに強力な魔法が使えるマリィなら心配はない。むしろ、やられるような事があるならば、マリィより弱い俺が駆け付けたところで力になれない。


 だが、大金が入った布袋を投げてきたことも事実。

 この矛盾しているマリィの行動から、俺がやるべきことはなにか。

 それを知るためには、マリィの居場所を知る必要がある。まぁ、村だとは思うんだが、村には行けねぇし、そもそも来るなって感じで突っぱねられているからなぁ。

 というわけで、


「……まさか」


 また崖を登ることになるとは。


 そう。村ではなく、村全体が把握できる高い場所を目指していた。

 二日か三日前になぜか登った崖なんだが、登り切ったところで村が確認できたおかげで、あの日は無事に帰還できたんだ。それでも少し迷ったような気も……いや気のせいだな。うん。

 とはいえ……もう登りたくないというのも事実なんだが。


「この世界は、どこまでも俺に厳しいみたいだな。ふんっ」


 腰に手を当てて、声を出来る限り渋くして言ってみる。……ちょっとカッコつけてみました。

 誰もいないから言えるセリフだが、マリィがいたら半眼で半歩引かれていたことだろう。……半歩で済むかな? ちょっと不安だな。


「…………見えねぇなぁ」


 登り切って村があると思しき方向へ視線を向ける。

 目を細めてみるが、ほとんど真っ暗。月明かりが出ているものの、村の輪郭がなんとなく分かる程度だ。

 そりゃあ俺。リッチーって魔物らしいが、夜目が利くわけじゃねぇし。

 どれくらい利かねぇかといえば、懐中電灯が欲しくなるレベルで利かない。分かんねぇか。

 ともかく、夜の森を一人で歩くのは、もうゴメン。という感想を抱くレベルで見えないわけだ。分かんねぇか。


「こういう時の初心者心得だろうが」


 とは口にしたが、正直、この一冊に関しては不信感の塊でしかない。

 それでも、今の俺ではこの本に頼るしか方法がない。非常に情けない話ではあるが。

 せめて村が襲われた原因でも知れたらいいんだがな。


「魔物……魔物……」


 そんな思いも込めて、まずは魔物関連についての情報を調べ始める。

 世界の成り立ちとかが書かれているならば、魔物に関する内容も書かれているはず。

 書かれていないと、いよいよ焚き火の材料にしかならなくなるんだが。


「あったあった」


 薪代わりにならなくて済んだな。


「…………魔物は飼いならすことができるのか」


 ざっと目を通していくと、『テイム』という魔法があるらしい。

 魔物と術者のレベル差により、その魔法が成功するかどうかの難易度が変わってくる。

 そして魔物を飼いならし、その魔物に戦いをさせる職業を『テイマー』というんだとか。

 で、そのテイマーという職業にとって、高位の魔物というのは一種のステータスになるらしい。


「要は、俺は飼いならすのが簡単な魔物ってことか?」


 脅迫犯の動機になるかどうかは知らねぇが、この理由ならまだ納得できそうだ。

 魔物を村に襲わせたところを考えるなら、大量の魔物を飼いならして、村を襲わせるという方法も可能だろう。


「………………」


 自分のステータスのために、村人を殺したってか?


 腹が煮えるという感触が理解できる。

 頭は冷え切っているが、胸の辺りはムカムカする。


「はぁー」


 深呼吸をしてムカムカを抑えにかかる。

 とにかく今は、マリィの援護だ。金を渡されたということは、そういうことだと認識している。まさか解読するだけに大金を渡した来たとは思えねぇからな。

 そのマリィがどこにいるのかが分からねぇんだけどなぁ……。


「……『サーチ』マリィ」


 銀貨二枚を無駄遣いするつもりで魔法を発動させる。

 あの時は漠然とその場を調べようとしていたし、そもそも使われていない監獄の遺跡だとか言っていたいしな。うん。

 しかし魔法。正しい使い方かどうかは知らねぇが、前回同様の結果になることはなかった。

 さすが魔法様。俺が尊敬していただけのことはある。


「なるほど……光って見えるんだな」


 これは便利だ。特に夜は本当に便利そうだ。

 なによりも、他人の金で魔法の実験ができる素晴らしさが何とも言えない。

 っと、瞳を閉じて感慨にふけっている場合じゃない。

 俺が探し物として対象にしたマリィは、緑色の淡い光で自己主張している。

 なんなら首を振っている様子が分かるレベルだ。チラッチラッと光の粉が左右に舞っているのが分かる。


「これ……脅迫犯に掛けられねぇかなぁ」


 とりあえず試してみるか。まだまだ銀貨はあるわけだし。


「いやせっかくなら、もっと凄そうな魔法にしてみるか」


 『サーチ』の使い方はなんとなく分かった。

 というわけで、俺は魔法一覧を開き、値段が高そうな検索系の魔法を物色する。

 検索系といっても、『サーチ』の上位互換を調べているだけなんだが。


「よし」


 俺は所持金内で使用できる魔法を選択して、


「『キロ・サーチ』手紙の差出人」


 と唱えた。

 なお『キロ・サーチ』は三千円になりまぁ~す。


 そして三千円の魔法は伊達ではなかった。


「あの赤いのがそうなんだろうな」


 マリィと対面している赤い発行体。

 脅迫犯だと思うんだが…………それとは別に、赤い発行体が複数確認できる。

 どう数えても十は超えている。数え間違いなら問題ないんだが、そうとは考えにくい。

 その団体様はじりじりと村の方へと向かっているようだ。


「単独犯じゃねぇのかよ…………!?」


 マリィの奴は単独犯みたいな口ぶりだったが……大丈夫だよな?

 ともかく俺は、緑色の発行体に接触することにした。

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