表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
プアリッチー  作者: シバトヨ
不死身の借金王(シャッキング)
17/20

リッチの本領発揮

「マ……リィ…………」


 マリィの足元には、血の池が出来上がっていた。

 その源泉は、さらに周りを囲むように転がっている動物の死体。


「镬ゔ哷ばゕゴ゜゠⃙⃙」


 マリィは呆然と、燃えている民家を眺めている。


 夕方。誰かが夕飯でも作っていたかもしれない。

 しかし、その民家は静かに燃え続けている。


 パチパチと、火の粉を上げて。


「こ、『コール・スタート』……マ、マリィ、いったい何があったんだよ?」


 言葉が喉に引っかかるが、なんとかマリィに質問できた。


「…………魔物ですよ」


 そう答えるマリィは、俺の顔を睨んでくる。

 まるで親の仇みたいな目つきで。


「そ、それは分かるんだが、なんで魔物がこんなに……」


「あなたのせいですよ」


「…………は?」


 今……なんて言った…………?


「あなたのせいなんですよ」


 マリィはどこか悲しげな……だが、ハッキリと敵意が現れている表情で、


「魔物であるあなたが、この、魔物たちに村を襲わせたんですよっ!」


「おっ! おいっ! ちょっと待てよっ!? 俺、俺の……俺のせいで死んだっていうのかっ!?」


「そうですよっ! あなたが魔物をおびき寄せたんですよっ!!」


 ふざけるのも大概にしてほしい気分だ。

 俺が好きで魔物を呼び寄せたとでもいうのかよ?

 村の奴らが憎いから、魔物を使って殺したってか?


「ふざけんなっ!」


 そんなわけがあるかよっ!


「ふざけてなんかいませんよっ!!」


 だが、俺の心の内が聞こえるわけでもなく。

 それどころか、マリィは告げてくる。


「あなたがリッチーという上位の魔物だから、下位の魔物が引き寄せられたんですよっ!!」


 俺の存在そのものが、村を血だらけにした原因だと。


「あなたとは、もう口も聞きたくありません。今すぐ『コール』を解除してください」


「おい……冗談だよな? さっきのは……いや、少しパニックになってるだけなんだよな?」


 だってマリィは、俺のステータスを見てショボいって判断したんだぞ?

 いくら高位の魔物だ。って言われても、それが原因で他の魔物が寄ってくるのか?


「何をしているんですか? 早く解除してください」


 だがマリィは、俺の言葉に耳を傾けようとはしてくれなかった。

 代わりに、


「『テュワイス』『パペット』」


 俺が聞いたことがない魔法を連続で唱えてくる。

 冗談じゃねぇぞ!?


「『コール・エンド』! クソがっ!!」


 俺は反転して、村から逃げるように走り出した。




「はぁ……はぁ……はぁ……」


 たぶんだが、『パペット』というのが、マリィの言っていた傀儡術の一種なんだろう。

 そして、『テュワイス』ってのは魔法の効果を二倍にする魔法か?

 俺を追いかけていた動物の死骸が二匹だったところから、たぶん、そうなんだろう。


「はぁ……はぁ……」


 くそっ!


「俺が……なにしたってんだよ…………っ!?」


 リッチーって魔物だから魔物を呼び寄せた。

 マリィにはそう言われたが、そのリッチーて魔物にしたのは、あのクソ女神だぞ。俺はなんもしてねぇってのに……!


「っ!?」


 ガサガサと草木が音を立て始める。

 そういや魔物がいるんだったな。この森の中は。

 俺はポケットに手を突っ込み、現在の所持金を確認する。


 金貨四枚に銅貨二枚。『キロ・フレア』二発が限界か……。


「仮に死んでも、きっちり復活してやるからな……!」


 銅貨一枚は最低でも残しておかねぇと。使えるかどうかは知らねぇが、それでも頼るしかねぇ。

 俺は金貨を握りしめ、


「来るなら来やがれっ! このクソ野郎どもがっ!!」


 自分を鼓舞するように叫んだ。


 草木は俺の叫び声におびえたのか、静まり返る。

 緊張からか、喉が渇く。

 本格的な命のやり取りってのは、何気に初めてだな。


「いつもはマリィが担当していたからな……」


 そのマリィは完全に俺を敵視していた。

 だが……違和感があるのも確か。


 そもそもマリィは、俺のステータスをショボいと評価していた。

 その上で、高位の魔物だから下位の魔物を呼び寄せるとか言っていた。


 確かにマリィは強い。それは何度と魔物を倒していた姿を見て、嫌でも分かる。俺よりもはるかに強い。


「っ!?」


 再び鳴る草木の擦れる音。


 そして姿を現したのは、


「ガガゔセ゠ぬ゘ウゴヽめ゜゠グヾ捝エめエ゠ぷ」


 獲物を見つけたような瞳を向けてくるマリィだった。




 そのマリィの周囲には、血を垂らしながら歩いている動物の死骸が……ざっと見えるだけで二十はいる。

 本気の本気ってやつなんだろう。

 その本気を見せているマリィは、俺に向かって布袋を投げつけてくる。

 恐る恐る中身を確認すれば、金貨三枚と銀貨二十枚。銅貨は八枚入っていた。


 ……どういうつもりなんだ?

 分からないことは知っている奴に聞くのが早い。


「『コール・スタート』……おい、どういうつもりなんだよ?」


「魔物のくせに弱っちいですからね。抵抗されずに殺されたら胸糞悪いじゃないですか」


「………………」


 やっぱり違和感がある。正体はサッパリだが、胸の辺りがモヤモヤする。


「それと……これは忘れ物です」


 そんな違和感だらけのマリィから、さらに二冊の本が投げ捨てられる。

 魔法一覧と初心者心得だ。


「なぁ? お前は何がしたいんだ?」


 本当に理解ができない。

 いくら弱いと分かっていても、相手を強くする必要はないはずだろう。

 それをマリィはしているんだ。


「私のことはお構いなく。この後は村をあんな状態にした奴を殺すだけですから」


「………………」


「あなたは逃げ回ったあげく、湖にでも落ちて死んでくだい」


「そこはお前の手で殺されるわけじゃないんだな?」


「ふんっ。私の魔法は、大変貴重ですからね。あなたごときに使うまでもありませんよ」


「…………そうか。なら、」


 俺は覚悟を決め、マリィに向かって叫ぶ。


「逆襲できる機会をうかがってやるっ! 『コール・エンド』!!」


 翻訳の魔法を解除するとともに、マリィが指をさしていた方向とは逆に向かって走り出した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ