肉体言語はリッチにお任せ
第一問。
マリィに向かって俺は、右手を左右にゆっくりと振る。顔は笑顔で。
さて、いったいどんな意味でしょーか?
……………………………………………………はい、時間切れぇ~。
正解は、
「こんにちわ」
でしたぁ~!
……で、肝心なマリィの答えというのは、
「おい。なんで、さようならなんだよ。笑顔で言われてみろよ、状況によってはかなり怖いだろうが」
こんなサービス問題、当てられて当然だろうが。大喜利じゃねぇんだぞ?
そんなボケた回答をしているマリィには、十枚の紙切れを手渡している。その紙切れには、日本語とこの国の言語で同じ意味の言葉が書かれている。
これを二組用意して、互いが互いのジェスチャーを当てあうという練習をしているわけだ。
例えば、俺がさっきやった「こんにちわ」という紙切れに書かれた内容をジェスチャーでマリィに伝え、マリィが「ガぬゔゞば」と書かれた紙切れを俺に見せれば正解。
今のだと、俺の「こんにちわ」に対して「オぷスゕぶ」を出したから不正解。ということになる。
最初は「あいさつ偏」ということで、日常生活で使うであろうジェスチャーに絞って練習中だ。
では第二門。今度はマリィが出題する。
そのマリィは、手を合わせて瞳を瞑り、軽く会釈してくる。
さて、いったいどんな意味でしょーか?
……………………………………………………はい、時間切れぇ~。
まぁ簡単だよな。「あいさつ偏」は初心者向けだな。うん。
「ごめんなさい。だな」
俺は確信をもって、「ごめんなさい」と書かれた紙切れをマリィに見せつける。
するとマリィは、「何言ってんだこいつ。こんな簡単な問題も分からないのか?」と言いたげな視線で一枚の紙切れを見せてくる。
「いただきます」と書かれた紙切れを……。
「………………」
おい。「あいさつ偏」。激ムズじゃねぇか?
ジェスチャーの練習をして分かったことがある。
俺とマリィは相性が悪いみたいだ。水と油みたいに分かりあえてないことが分かった。
でなきゃ、十問もやって一問も当たらないとか、説明がつかねぇぞ?
で、
「とりあえず薪を拾うか……」
「そうですね」
『コール』を発動させ、今日の練習は終わりにすると告げた。
マリィの方も、俺と会話ができた時点で諦めたんだと悟ったようだ。
って、諦めてねぇし。今日は終わるだけだし。
「まぁ魔物が出れば、収支がゼロになりますから」
出なけりゃ赤字確定なんだよなぁ……。
「まぁいい。魔物が出たら頼むぞ?」
「任せておいてください。代わりと言ってはなんですが」
「帰り道なら任せろ」
仲間のデメリットは、仲間がカバーするもんだからな。
……と、建前上は思うが、本音では一人でも魔物が倒せるようになりたいと考えている。
「マリィ、頼んだっ!」
『コール』を解除しているため、通じてはいないだろうが、声に出して魔物の相手を頼む。
「『 〪〓そ』」
だが、魔物は任せろと言っていたこともあり、マリィは鹿に向かって魔法を放つ。
たぶん『フレア』だ。熊を倒した時よりは威力が弱い気もする。
なるほど……確かにショボいな。
マリィが放ったのは、俺が撃った『フレア』よりも威力がかなり高い。体感で二倍くらいの威力がありそうだ。
それは鹿の残骸から判断できた。
俺が銀貨を消費して放ったとして、胸から尻までを貫通させられるとは思えない。
マリィの『フレア』は、円筒状に鹿を撃ち抜いているんだ。
「さすがだな」
動かなくなった鹿を捌き、毛皮や角、肉を獲得。これらを売れば、薪拾いよりは金が得られるだろう。
「それにしても、こんなに魔物っているもんなのか?」
この世界の構成が分からないが、動物型の魔物しか出会っていない。
もっと他の魔物と対面してもおかしくないと思うんだが……。
この辺は心得の本を読んでみるか。
「オ゙ヾ廏ふめエへスゴ」
なにかを言いながら、服の裾を軽く引っ張ってくるマリィ。
あぁ、帰るって言ってるのか? まぁ用はないしな。
なにかを忘れているような気もするが、俺はマリィを連れていくように先頭を歩いた。
「なぁ? 村、明るすぎねぇか?」
村の近くまで来たんだが……妙に明るい。もうすぐ夕暮れだから、夕日のせいかと思ったんだが…………
「お、おいっ!」
突然走り出すマリィ。
会話するために『コール』を唱えようとしたんだが……どうも喋ってる場合じゃなさそうだな。
魔法を使わずに、俺はマリィの後を追うことにした。
そして村の入り口。
そこから見える光景には、顔を青ざめさせられた。
「な、なんだって言うんだよ…………っ!?」
猪やウサギ、熊までもが、家屋を襲っていた。
外には血だらけで倒れている人までいる。
「このっ! 『キロ・フレア』!」
近くで死体を貪っている猪に向けて魔法を放つ。
猪は体を爆散させ、息の根を止めた。
「おいっ! ……くそっ!!」
目を見開いて倒れている村人。名前は知らないが、胸くそ悪くなる。
「『げ〒〄う〷〃〟』」
「……マリィか?」
なにかの叫び声とともに竜巻が巻き起こる。恐らくだが、マリィが魔法を使ったんだろう。
俺は振るえる脚を強く叩き、マリィのもとへと向かった。
その足取りは、酷く幼稚なものだったことだろう。