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プアリッチー  作者: シバトヨ
不死身の借金王(シャッキング)
15/20

リッチな実験

「サゐぷスカォセめウヽ柢゘ウぷ¢」


 謎の言葉と共に体を揺さぶられる。

 重たい瞼を開こうと頑張りながら、


「なんだ、マリィか……」


 格闘するのがバカらしくなったので、重力に従って瞼を下げた。

 争いは何も生まないっていうしな。うん。平和が一番だ。


「……いてっ!? なんだよ、おい。なにも殴ることはねぇだろ?」


 二度寝をしようとしたところを遠慮なく殴られた。

 マリィの手には凶器と(おぼ)しきしゃもじが……しゃもじ?


「なんでしゃもじなんか持ってんだよ?」


 って、通じないか。

 だからと言って、こんなくだらない質問のために銅貨一枚を犠牲にしたくない。

 今日は昨日の続きをする予定だしな。少しでも費用は抑えねぇと。

 ……ただでさえ収入が雀の涙未満なんだから。


「ホーホケキョ」


 いや、それはウグイスだから。




 俺自身のボケに、俺自身がツッコミを入れるという寒い現象で目を覚ました俺は、たどたどしい足取りでリビングへとたどり着く。

 大きな長方形の机が中央に置かれており、十歩も歩かないでキッチンに移動できる。いわゆるリビングダイニングという間取りだ。

 そんなオシャレな空間の象徴である大きな机の周りには椅子が五脚。

 キッチンに背中を向けるように老夫婦が座り、爺ちゃんの対面にマリィが座っている。

 なお、机の上には朝食と思しき料理が並べられている。

 なるほど、朝飯のために起こされたわけか。しゃもじで殴られた疑問は解消できてないが。

 だってパンとスープだし。しゃもじが出てくる要素がない。


「まぁいいか。それよれも飯だな」


 俺も婆ちゃんの前の空席に腰を下ろし、パンを一切れ貰う。


「『コール・スタート』。爺ちゃん婆ちゃん、おはよう」


「おはよう。ほら、もっとパンを取りな」


「ペットだというのに、ご主人様を見習ったらどうなんじゃ?」


 婆ちゃんの方は俺にも優しいんだが、爺ちゃんは結構冷たい態度だ。

 あれか? 初日に怒鳴ったから、嫌われてんのか?


「ペットじゃないんだがな……まぁいいや。それよりも、薪拾い以外で仕事ってないの?」


「まだ言ってるんですか?」


 まだって……


「いや死活問題だからな? 俺が魔法を使うには、金が必要なんだ。こうやって会話をするのにも金が必要だからな? それなのに、賃金の安い薪拾いだと完全な赤字なんだよ」


 不要なのに買い取ってもらっているところは、本当に申し訳ないと思うが。それとこれとは話が別だ。

 せめてもっと稼げる仕事か、出費が少ない仕事じゃねぇと。……本来の薪拾いには出費がねぇと思うんだが。


「それなら魔物でも狩ってくるしかねぇのぉ」


 魔物か……。

 魔物がもっと魔物らしかったら躊躇しねぇんだけどなぁ。

 マリィが連れていたガイコツみたいなのだったら、遠慮なく魔法を撃てたんだが、この森に出てくるのはベースが動物なんだよなぁ。


「あ、ガイコツで思い出した。マリィ、傀儡術を使ってみてくれよ」


「ここでですか?」


「いや、そんなわけがないだろ? 森に入ってからでいいから」


 天才のくせに、妙なところで頭の回転が鈍くなる。

 あれか? 回転が速すぎて、空回りしてんのか?


「ともかく。今日も薪拾いがてらに実験だな。『コール・エンド』」




 そして森の入り口付近にて。


 俺は銅貨の枚数を確認。

 残り四枚。時間にして十二分しか会話ができない。

 というわけで、この銅貨を消費しないで意思疏通を図る方法を考えてみた。

 なお詳細はマリィにも伝えてあるから、翻訳の魔法は解除中だ。


「そんじゃ……まずはコレだな」


 対策その一。筆談。

 俺が適当な紙に日本語で文章を書く。今は実験のために「マリィは天才美少女」と書いた。「マリィは方向音痴」と迷ったが、これで機嫌を損ねたら困るからな。

 で、その紙をマリィに渡し、マリィは俺が書いた文字を眺めては、


「『〕〃〸ぜ「く〄う぀〃〷』」


 解読の魔法を発動させる。解読だよな?

 言葉が通じねぇから確認できないが、打ち合わせ通りなら解読の魔法だ。

 これでマリィが読めるなら、今後は俺からの伝言は筆談がメインになる。銅貨の消費がかなり減ることだろう。

 その間に金銭を定期的に貯められる仕事を得て、二十四時間翻訳できるようにしたい。

 ちなみに、俺が『リーディング』なる魔法を使う場合は240円が必要だ。地味に高い。

 これでどこまで解読できるのかが疑問だが、遺跡とか、この世界での文字を読む必要があるなら、マリィに頼む方がいいな。翻訳の方が安上がりだし。


 で、結果は?


「〿〞゘ウをヽめ゜゠グ詒まゕセ゘ウ」


 両腕をクロスさせてくるマリィ。

 どうやら読めないらしい。まったく使えねぇなぁ……。


「次だっ! 次っ!!」


 対策その二。ボディーランゲージ。

 その二と言ったが、俺が考えられるのは筆談と肉体言語のどっちかだった。

 筆談だと一方通行ではあるが、高確率で意図したことを伝えられる。

 それに対して、ボディーランゲージでは間違って伝わる場合もある。


 だが無料で会話ができる。


 そう。無料だ。

 会話をするために三分十円とう縛りがないのだ。

 話し放題……様々な「放題」という言葉を聞いて育ったが、これほど嬉しい「〇〇放題」があっただろうか。


 というわけで、俺とマリィはボディーランゲージの練習に移ることにした。

 目標はスムーズな会話ができること。最低でも「なにをしてほしいのか」が理解できる程度にはしておきたい。

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